更にトンネルの奥へ
『パパがまだいなくなってしまったなんて、信じられません。
あの日、山頂で気分が悪くなったママを心配して、反対側の尾根道まで車を回すから、上の山小屋で待っているように、とパパはたった一人で山を下りて行きました。
大丈夫だから、小屋で待っていてね、必ず来るからね、そう言って笑ったのがパパの最後の姿でした。
このハイキングコースでそうなんしたのは、パパが初めてだったそうです。でも、がけも多いし危ない道には変わりはないし、夜動くのは危険だ、と後から消防の人から聞きました。
それでもパパは、ママと私のことを心配して、一人でずっと危ない道を下りてくれたんだね。
ありがとう、パパ。
へびのびっくりオモチャでママと私をびっくりさせたり、たまに取れたお休みにはドライブに連れて行ってくれたり、色んなクイズを教えてくれたりして、おもしろくて、やさしくて、とてもたよりになるパパでした。
どうぞ、天国でも私たちを見守っていてくださいね。ももか』
こんな感じでいいのかな、お手紙。
ねえ……
聞いてる? ママ。
「……人の心はトンネルと同じね」ママはつぶやいた。
どうして?
「どこまで行っても、出口はない、そう思っているうちはどこまでも奥へ奥へと進んでいくの」
何を言ってるんだろう、ママは。でもママのその目……
どこかで見たことがある。
了