長いトンネルの奥で
トンネルって永遠に出口に辿りつかないみたいだよね、と娘が言う。続けて聞いてきた。
ねえ知ってる? このクイズ。
「車が時速100キロで長さ5000メートルのトンネルに入りました」
ちょうど今、走っているこれみたいだよね、長いし。4300メートルだっけ?
入り口に書いてあったよね。
「トンネルに入って奥へ奥へと走り続けた車は、突然それ以上奥に行けなくなりました。
なぜでしょう?」
車が故障して突然止まったんじゃない? 俺の横に座っていた妻が半分ふり向くようにそう答える。
ドライブはもううんざり、そんな顔をしながら。運転している俺ももう、うんざりだった。
まだ目的地に着いてもいないのに。
―― ねえパパ。
急に娘が関係ない話題を振ってくる。
―― クーラー切ってもいいんじゃない? すごく、すずしそうだよ、この中。
いつもは窓なんか開けない俺だが、何故か黙って彼女の言うとおり、エアコンを切って窓を全開にする。
「うわぁ」
娘が叫ぶ。「すっごいすずしい、さすが長いトンネルだよね」
その声がいっしゅん、暗い筒の中に反響する。
トンネルの内部はひどく、湿っていた。
壁といい、路面といい。
『路面がぬれているので注意して下さい』
そんな看板が並んでいる、ヘッドライトの明かりが通過するたびに何度か見かけた。
風は実際、かなり涼しかった。湿ったコンクリートの匂いだ。
新しく履き替えたばかりのタイヤが、濡れた路面上を疾走する音が妙に耳につきまとう。
何かに似ている、その連続した擦過音。
俺の腕にかすかに鳥肌がたつ。
「ねえパパは、どうしてだと思う?」
小学四年の娘は無邪気にそう聞いてきた。先ほどのクイズのことだろう。
俺は答えを知っている。
「最初の数字、カンケイなくね?」
そう突っ込みを入れながらも、しかし、
今はその答えは言えない。
このトンネルには、出口がないのだから。