海、妹、お母さん
12/11/14 誤字修正
海だ!!
叫んだのは誰だったか、ともかく、皆いっせいに浜辺を走る。ざくざくしずむ砂浜に、運動不足とドジっ子たちがころびそうになったりころんだり。
潜水艦で暮らしているから海が身近で新鮮味がない?
いいやそんなことはない。だってお仕事中だし、泳ごうにも…いや正確に言うなら潜水艦から飛び降り泳いだその後に、潜水艦に戻れない。
なまじデカいせいで、艦から飛び降りるのもまるっきりバンジーだし。
目の前にあるのに泳げない、そんなある意味生殺しな目にあっていたためにむしろ誰もがはしゃいで海にかけていく。
そうでなくとも潜水艦は所詮潜水艦。冷房や除湿にかなり気を使っているトリノイワクスだけれど、艦が海にもぐるとどうしても艦内は暑くなりがちなので、冷たい海への恋しさは
ざぱーん、とキラキラ光る飛沫を上げる波の冷たさに、何人かが楽しそうに悲鳴を上げた。
梅雨は明けて、季節は夏。
「まさに海の海による海のための季節だぁー!!」
と、叫んだのは光。今年20歳の、入社暦一年目のARK。ホノカの先輩で、茶色い髪のお団子ヘアーがかわいらしい。
オレンジベースに黄色い花柄模様が入った、 肩紐のないタイプの水着。
光や一部の女性達が両手を挙げて海に突撃していく。
そのテンションの高さにちょっとホノカはおいてけぼりにされてしまった。
そんなホノカの肩に手で触れて、同僚の女性が同情の視線を光にむけながら言った。
「光さ、2年付き合ってた彼氏と破局したらしいんだ」
「あぁ…なるほど」
ホノカは頷いて見送った。ちょっと視線に哀れみも混ぜて。
何が哀れって、この海岸には男が一人もいない。
というか、合歓泰のプライベートビーチらしく、あの潜水母艦の乗員以外誰もいない。
破局を迎えて新たな出会いも望めず海に突っ込んだのね…と納得したら、自然と哀れみというか、涙を誘うというか…そんな感情が湧き出した。
他の女性陣も無人の浜辺に落胆しながら、せっかくのプライベートビーチなのでバレーボールをしたり、泳いだり、海岸を青春っぽく――女同士でだけど――走ってみたり、砂に文字を書いてみたり、友人同士で水着をトレードして即席試着会、などなどやってみたいけど人目があるところではやれないような事もして楽しんでいた。
実際海や景色はすごく綺麗なので、まぁ、これはこれで。
出会いがないのはやっぱり残念だけれど、男の目を気にしなくてもいいのはそれはそれで。
なんて思うホノカも、正直出会いを求めて水着をちょっと冒険している。
結局切らずに伸ばした髪はいつものポニーテイルだけれど、ホルターネックの黒ビキニ。胸の間にある結び目がお洒落でお気に入りの、ちょっとだけオトナなお洒落水着。
「ホノカさんの胸おっきいですよねー」
気づくと目の前にヨルがいた。ばんざーい、と両手をあげて、にこにこ笑顔。
彼女が着ているのはパレオ付きの水着…というか、遠目ただのワンピースのような水着。薄い緑と黄色で彩られていて、彼女にしてはシンプルな。
これは勿論、アサに同じ格好をさせてアサの性別をごまかすためなのだが。
そんなこといまのヨルには関係がない。
ばんざいした両手を黒いビキニに包まれたたわわな果実に伸ばすことだけが――!!
はしっ。
使命感に燃える両手を、けれどホノカの両手が妨害した。
「なんでですかー!!」
「むしろこっちがなんでって聞きたいわよ!!」
「いいじゃないですかちょっとくらーい!!」
きゃーぎゃー。
二人は騒いで、足をもつれさせ二人仲良く砂浜に転がった。
なんだかんだいいながら、楽しそうな声をあげて、ヨルがホノカの胸をもみホノカがヨルのわき腹をくすぐって――もしかしたら結構苦しいのかもしれない笑い声とかあげて。
そんな風に戯れる二人を、アサは少し遠くの海から眺める。
アサはよく意外と言われるのだけど運動全般が得意で好きなので、同じく泳ぎが好きな社員達と素潜りで海のパノラマを楽しんで、息継ぎに顔を上げたところ。
そんなときに、ふと目に入った二人にそんな事を思った。
最近話題はホノカさんの事ばっかりだし、他の人にはさすがにあそこまではしないし、実は本気で好きになっちゃってるのかもなぁ、なんて思いながら。
普段の自分の格好や、職員の一部があまりの出会いのなさに同性愛にはしっている所為で色々とズレてきているアサである。
そしてもう一人、仲睦まじい二人の姿を拳を震わせ眺める人影が。
「けしからんです!お姉ちゃんにまさかそんな趣味があったなんて」
『どっちかっていうとアレ、相手の趣味だろ?』
こそこそと岩場から望遠鏡を使ってホノカ――というかホノカの胸――を眺め鼻血をたらす少女が一人。
男の声もするのだが、周囲に人影は少女のものひとつだけ。
あとはよちよちとカニが岩場を登っている程度。
ただ。
少女の耳元についたヘアピンに、緑色の小さな人型ホログラムが浮かび上がっていた。
ヘアピンに手をつけ、少女の耳に立っている。
ホログラムの色で分かりにくいが恐らく金髪。雑なオールバックにしていて、イケメンだけどヤンキーっぽい。
まぁアロハシャツにジーンズビーサンという格好がアレなせいかもしれないが…なんにせよ色々残念な。
ある意味でこの夏の砂浜に似合っているのだが、彼は普段からコレなのがまた一層の残念さ。サングラスをつけたらカンペキだ。
『っていうか、チサトも混ぜてもらえばいいだろ』
「むっ、無理ですよ!確かに合歓泰は月にも進出していますけど、どっちかっていうと地球派ですし!!」
『あー、あー、あー、そーれで突然逃げ出したんだ』
そうです!それで隠れたんです!!と仲良く砂のお城を作り始めたヨルとホノカを見ながら怒鳴った。
そう。
そもそも最初にこの綺麗な砂浜にいたのはチサト達だった。
アンジェラと出会う前からMLUに地上の偵察を命じられ、先のアンジェラように強力な機体の出現時には出動して戦力の調査ないし破壊を命じられる…そんな生活を送っていたが、その息抜きにちょっと休憩に海で遊ぼうと思って。
どうせ定期報告の義務があるだけで、同行者や監視はないので気楽といえば気楽な話。
そして、いい感じの綺麗な砂浜を見つけたのだが…。
綺麗ー!とか浮かれてはしゃいで水着に着替える前に、所有権とかヤクシジさんに調べてもらえばよかったです…と後悔したって後の祭りでしかない。
潜水母艦の接近に泡を食って岩場に隠れて、そのままじーっとここでまっている羽目になった。
アンジェラは現在ステルスモードでチサトの後ろに立っている。
この世界で唯一のステルス機能が、チサトが一人で長期の偵察なんてものを押し付けられた理由だ。
『いやー、てっきりスクール水着じゃ恥ずかしいからとかそんな理由かとおもったぜ』
ピシ、とチサトの動きが止まる。
彼女は確かにスクール水着だ。姉と違って慎ましやかな胸には「ちさと」と書いてある。狙い済ましたような紺色。勿論趣味で買ったわけではなくて、中等学科に通っていた頃のものなのだけれど、それが、なぜか、まだ着れる。
「く…世界の理不尽に立ち上がるべき時かもしれないです…!」
なんだって砂浜の美女美少女軍団はむやみやたらに発育がいいのばかりなのか。理不尽だ。
怨念をこめた呟きに、何人かの女性がビクッ!!と両腕を抱えたりした。そうすると更に胸が強調されて、くぅぅ、とチサトの歯軋りも酷くなる。
『っつーか、全然泳がないんだなお前の姉』
「泳げませんから」
『マジで!?』
ヤクシジは驚いた声をあげて、それからふと冷静にひとつ上だと言っていたホノカの年齢をチサトの年から逆算して、
『17で!?』
二度驚いた。チサトは重々しく頷く。ちなみにチサトは病弱だけれどそれでも学校の授業で何度かプールの授業をうけただけで25mくらいは泳げる。
犬掻きか背泳ぎしかできないけど、これは秘密。
それなのにあの姉はおぼれたトラウマがあるわけでもないのに17でビート板なしに泳げない。
そのとき、ふと一瞬ある疑問が浮かんだのだが。
『胸の脂肪とか浮きそうなのにな』
まったく別の禁句をのたまったヘアピンを、海の方向へ力の限りぶん投げる。
数秒後、あ、と呟いて海に飛び込んだ。
プールにはなかった波に揉まれながら必死に犬掻き。幸い、防水に関しては万全らしいしホログラムがこっちこっちと場所を教えてくれるので見失うということはないのだが。
岩場に戻ったときには、ぜぇー、ぜぇー、と完全に酸欠になっていた。
岩場に上る気力もない。
そもそも病気は治ったというわけではないし、チサトは基本的に体力がない。
MLUにくれば病気が治る。
その情報は半分嘘で、半分本当…というよりも、嘘だったのに本当になった――そんな詐欺だった。
確かに月の技術は発達していたけれど、それでもチサトの病気の原因はわからず、そもそもそんな情報は| ARKの資格を持った少女を月につれて来るための真っ赤な嘘。
それが偶然チサトが発見したディアボロの専属パイロットとなることで希望が――ディアボロに乗っている限り100年前の天才が機体内部で治療を行ってくれるという、予想外の結末。
一度カルテを見せてもらったが勿論チサトにはわからないので、ヤクシジの言葉を信じる以外ないのだが。
そういうわけでチサトとディアボロは一蓮托生な関係。
例え小さな端末といえど、身に着けておけばチサトの病状のデータをとってくれるありがたい代物だ。
『いやうん悪かった、ホント悪かった』
力なく握りしめるヘアピンが謝る。息が落ち着いてきた頃、ようやく「まったく」と一言呟いて、ヘアピンを止めなおして海から上がり、 砂の地面がある場所を目指す。
大きな岩が陰になって、砂浜からは見えない位置に腰掛けて。
ふぅ――と。一息をついて、思い出す。
禁句の前にふと疑問におもった、というか
「そういえば、さっきふとおもったんですけど」
『んー?』
小さなホログラム人間は、カニって近くでみるとグロいなーとかいいながらカニの前に仁王立ちしてカニを困惑させていた。
カニは目の前に現れた半透明な何かをはさみでカチカチはさもうとするが勿論無駄で、あれーどうなってんのこれあれー、と左右に動いたりはさみでつっつこうとしたりしている。
「もしかして"あの人"も泳げなかったんですか?」
一瞬。
一瞬の沈黙があった。
それは考え込むための時間にも思えたし、或いは他の何かにも思えた、一瞬の沈黙の後。
『わからないな。あの人のイメージっつーとアトリエの中ってイメージが強いから――海は好きだったみたいだけどな。ばりばりインドアなイメージだし、泳げなくとも不思議じゃないっつー』
「そうですか」
まぁ、例えあの人がそうであっても、しょうがない情報ですよね――
と。そう呟いて、ミサトは立ち上がる。
『なんだ、もういいのか?』
「この流れじゃ泳げそうにないですもん。あと機体に入れば偵察用の写真機能があることを思い出しました!!お姉ちゃんを激写します」
歪んでるのにブレねぇなー、と若干ヤクシジが引いているのだがチサトの知った事じゃない。
ディアボロのステルス機能をきらないまま、コックピットを少しだけ開いて――さすがにコックピット内部にステルス機能はないので――その隙間から入り込む。
機体に乗ると透明の液体がどぽどぽ、どこからか湧き出して、コックピットを満たしていく。
液体の中なのに呼吸ができて、病状も悪化しない?らしいなんか凄い液体らしい。
『まぁ要するに羊水みてーなもんだ』
「| いきなりロマンが崩れたんですけど《ごぽぽぽごぷごぽごぽぽぽ》」
当たり前だが、液体の中なのでチサトがしゃべってもごぽごぽと気泡が溢れるだけ。気泡さえもしばらくすれば体内が液体に満たされて出なくなる。
これが戦闘中にはこの液体が抜かれる主な理由1。急な戦闘時には一気に液体が抜かれ熱風とかで全身を乾かされるのだが、まるで| 乾燥機に入れられた洗濯物。
かといってどんな凄い液体だって液体なわけでびっしょびしょのまま通信にでると、「エロイぜ!チサトちゃん!」とか変態に喜ばれるのでもう二度とやらないと心に決めている。
冷たくも暖かくもない快適な水温に体を預けて、水中特有の少し歪んだ景色の先に、姉を見る。
姉がアンジェラに乗ったのは運命だと、ヤクシジは言う。
ならばどうか。
その運命が喜劇でありますように、と。
姉に向かって手を伸ばしながら、そう願った。
[>
日差しはさんさんと輝いている。
かれこれ一時間くらいはたっただろうか。アサは疲れて、パラソル下の影で小休止。
ホノカは立てば足のつく程度の深さの場所でイルカ型の浮き輪につかまっていた。
ヨルが時々ひっくり返すので半泣きだけど。対するヨルは心の底から楽しそうで。
楽しそうで。
「アサちゃん、どうしたの?」
と。
そんなアサに声をかけてくれたのは平野という女性。
24歳。アサからするとお姉さんというよりも、大人の人。
彼女もまたARKで、ARK同士他の社員よりも親しい人。
アサは結構、社員間でマスコット扱いされているので誰にでも愛されているけれど、親しい…という人を思い浮かべるなら彼女。
困ったときに何かと世話を焼いてくれる、お母さんみたいな人…とアサは思っている。
少し童顔で、長い髪。合歓泰には入社8年目の、ARKとしてはベテランの社員。
彼女も…というより、社員の大抵が職場に出会いがないからという理由で派手めな水着を着ているので、アサはしばらく視線をさまよわせてから真っ赤になって膝を抱えた。
平野も平野でなんかそんな様子が初々しくて胸が高まるというかいや女の子だけど、私ノーマルなんだけどー!!と内心で葛藤を繰り返しつつ、大人の意地で態度に出さずどうしたの?とやさしく聞く。
「なんだか――なんだか」
きっと、相手が他の誰でもいえなかったこと。
お母さんみたいな…そんな人だからいえた人。
「お母さんが、家に戻って来いって言うんです。お前にできる事はないから、って」
アサに、母親の記憶はほとんどない。
ヨルはなんでもできる人だったから――親の手から手放されるのも、早かった。
いままで一度も弱音なんて聞いたことはないけれど。
アサは寂しいと思う。
だからきっと、ヨルも寂しいんだろうと思ったし、一緒にいないといけないとそう思ってきた。
姉弟だから。
役立たずなアサを庇ってくれた人だから。
それなのに、どういうわけか、今更実家からそんな事を言われて。
「姉さんは僕にここにいてもいいっていうんです。でも、なんだか――最近」
それでも。
やっぱり姉さんのそばにいないほうがいいんじゃないかって。
「思っちゃうんだ」
こっくり、アサは頷いた。
それは理屈ではなくて、誰にどんな言葉をもらったって、どうにかなるものでもなくて。
平野の手が、優しくアサの頭を撫でる。
その手のひらが、あんまりやさしくて。
アサの瞳から、涙がこぼれて止まらなかった。
[>
「それで、不安になったの?」
こくん、とヨルは頷いた。
一言も喋らずに――まるで、アサのように。
その日の夜の、会話のはじまり。
海に出かけて、はしゃいで、遊んで、へとへとになって。
艦内の大浴場で、みんなでぐったりお風呂に入り、よしねよう、とベットに入ろうとしたときに、インターフォンが来客を告げて。
扉を開けると、ヨルがいた。
枕をぎゅっと抱きしめた、パジャマ姿で。
それでも、あまりおどろきはしなかった。
なんとなく――ヨルがたずねてくるかな、という気はしていたから。
平野に撫でられて涙を流すアサの姿を、遠く。ぼんやりと眺めていたヨルの姿を見てから。
なんとなく――ヨルが壊れてしまいそうな、そんな雰囲気をしていた気がして。
だから、私のところにくるかもね、と予想はしていた。
それは、ヨルがホノカを好きだから、とかそういう事ではなくて。
きっと、妹を持つ姉として。
おいで、とヨルを手招きして、枕を並べて一緒のベットで横になる。
明かりを消して。
表情を隠す暗闇越しに。
「どっちの不安?アサちゃんと両親と離れ離れにしちゃったことと、アサちゃんが独り立ちしようとしてること」
問いかけた。
ヨルはしばらく何も喋らなかった。
それでもしばらくたった後。暗闇の中の小さな唇の輪郭が、
「両方」
小さく、呟いた。
「じゃぁ、ヨルちゃんは後悔してる?」
その質問には、ヨルは何も答えなかった。
「わかんない?」
こっくり、頷く。
13歳だ。
そっと、その小さな体を抱き寄せる。
どんなに仕事ができたって。
どんなにARKとしてすごくったって。
普段あんなに明るくたって。
抱き寄せた体はやわらかくて、暖かくて――小さかった。
ヨルとアサを比較すると、どうしてもアサの能力は見劣るけれど――本当は、アサくらいで当然で。
本当は、この小さな体が本当のヨルの姿。
「ごめんね、あたしもなんていうか――答えみたいなのはもっていないけど」
さらさらの髪を撫でる。
チサトの事を思いながら。
「あたしの妹は家を飛び出して、MLUにいるのは知ってる?」
首を振る気配。
なんだか不思議と暖かくなる心。愛おしくなる心を感じた。
「あの子と一年位かなぁ、離れ離れになって。最初はすごく寂しくて――あたしってシスコンなんだなぁ、ってちょっとあきれちゃうくらいにね」
なんだかぽっかり胸に穴があいた気がして。
アンジェラにのったあの日、軍事学校をやめようかと思っていた。
だって、もう軍事学校でがんばる理由がなかったから。
「そういう意味では、チサトを恨むような気持ちもあったわ。それでもね、不思議なのよ。再会したときは敵としてだったのに、まずなによりも安心したし、敵になったことより何よりも、ただ生きていてくれたことに感謝したの」
だから、きっとそれが。
「それが、家族の絆なのよ。どうなったって、どんな立場になったって――好きだったなら、ずっと好き」
恋でもなくて友情でもない。
家族という、切れない絆。
そうして、ホノカはヨルたちの両親のことを尋ねようとして――結局やめた。
ホノカだって、まだ17で。自分に分かることしかいえないから。
だから、
「大丈夫」
たった一言。大丈夫、と繰り返した。
ヨルがぐりぐり、子犬みたいに鼻先を押し付けて、
「おかぁさん」
涙の混じる声で言う。
「ヨル」
ホンカが優しくヨルの名前をよんで、おかあさん、と呟いたヨルの言葉は、涙とホノカの胸に埋もれた。
ヨルの小さな手が、救いを求めるように伸びて。
ホノカの手が、それを包んで。指を絡めて。
そうしてずっと、繋がっていた。夜が眠って、2人が目を覚ますまで。