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ヨル、アサ、嫁

 梅雨時に珍しく、初夏の日差しが降り注いでいた。

 湿度を孕む熱気が周囲に立ち込めて、蒸し暑い朝。

 そうでなくとも周囲は海に囲まれている。

  合歓泰の潜水母艦(トリノイワクス)は海上に顔を出し、上部装甲の一部を展開ことで海上母艦形式――つまりは、滑走路のある巨大な船の形を取っている。

 この母艦は母艦でありながら、ARの製造をしているらしく、それは男性を近づけないために尤も手っ取り早い方法だから、という理由らしいのだが、なにせARは一機で全高30m。

 それを製造するような艦だ。当たり前だが果たしなくデカイ。

 並みの港には入港なんてできないくらいの超大型潜水母艦は、全長がキロ単位で表記されるバカげたでかさだ。

 その滑走路の上を、少女達が走る。船の上を走るというより、港を走るような感覚。

「はっ、はっ、はっ、はっ」

「あと3周ですよー」

「「イエッサー!!」」

「軍隊じゃないんでイエッサーじゃなくていーですよー」

「はぁーいー」

 ひぃひぃいいつつ、少女達は走る。

 それは例えば ARK(パイロット)達の訓練メニューであったり、それは例えばダイエットであったり、例えば研究職という職業柄なまりがちな体を動かすためであったり。

 軍隊のソレとはちがう、割とゆるめの訓練だった。少なくとも、軍学校にいたホノカにとっては怒声が飛んでこないしおしゃべりしてても怒られないし、鍛えるというより運動するっていうイメージがして気持ちいい。

 タンクトップに短パン、首にタオル姿で甲板の上を走りながら、ホノカはタオルで額を伝う汗を拭う。

 走るたび、伸びてきたポニーテイルがぽんぽん跳ねる。そろそろ伸ばすか切るかきめる頃合。

 せっかく軍事学校のダサイ制服とはおさらばできたのに。まぁトレーニング中だししょうがないけど…と思うくらいには、ホノカ自身あの制服は嫌っていた。

 その点、合歓泰の制服――ブレザータイプ――はそこまで派手ではないけれど、白地に金色のラインと桜の花びらが金色の刺繍で縫い付けてある、かわいらしいもの。

 スカートやズボンは個人の自由なのも嬉しい。今は夏を間近にした季節なので、今日のトレーニング前のホノカの服は、制服と白シャツ、赤チェックのミニスカート姿。

 というかあの契約の後まるで証拠隠滅をするような勢いで引越しをさせられ、最低限必要なもの以外もちこめず、服は夏物がギリギリローテーションくめる数しかなかった。

 先月までの給料は化粧品とか食費とか生活必需品でなくなってしまったので、来月分の給料こそはと意気込むホノカである。

 合歓泰とはいえ、支給品は所詮支給品。合歓泰所属の職員の大半が、支給品を使うのは最初のうちと緊急時だけ…という認識を持っているらしい。

 なまじヨルとアサが毎度凝った衣装を着ているので、支給品で色気のない生活を送っていると女としてのプライドがぐさぐさ自分に刺さるので。

 ちなみにメガホン片手に持つヨルの、本日の衣装はヴィクトリアドレス。シルクの深緑色と気品を感じさせる白色の、ふっくらとしたドレス姿。手に持つメガホンがかなりミスマッチ。

「いつも思ってたけど、そんな凝った服で動きにくくないの?」

「All Need Is Dressでーす」

 そんな馬鹿な。

 まぁ。それはともかくとして。

 そうでなくとも、持ち歩く端末でシンドウくんに見られているようなものだし、だらしない格好とか色気のない格好は正直抵抗がある。

 それでもちょっと何かを調べたいときとかにシンドウくんを起こして聞けばすむし、便利なのよねー。庶民にはとても買えない値段の携帯電話の機能もあるし、同僚からイイナー、って言われるのも結構気分がいいし…なんて女の子らしさと実利の混ざったことを思う。

 その端末は現在紐をつけて首から提げていて、胸の上あたりでぽんぽん跳ねている。

 最初はシンドウくんにさわられているみたいでちょっとやだなーとおもっていたが、途中でそんな細かいことを気にするのが面倒になった。

 どうせ100年前の今は生きていない人間。ホログラムなので別に実際に触られるわけではないし。

「おっけーでーす。パイロット組みの人はー、シャワーを浴びて、昼食の後飛行訓練に移りまーす。その他の方は解散ですよー」

 おつかれさまー、と声が重なる。だらだらとシャワー室に向かう面々に混じりながら、ホノカもゆっくりシャワー室にむかうおうとしたが。

 パイロット組みは急がないとキスしまーすよー!!とか言いながらヨルが駆け寄ってくるからパイロットたちは悲鳴を上げてきゃーきゃー逃げた。

 逃げすぎると泣きそうになるけれど追いつかれるとちゅっちゅちゅっちゅキスの雨を降らしてくる困り者の上司に頭を抱えつつ、シャワー室へと向かう。

 入社後まだ2ヶ月なのに、セカンドどころか10回以上も余裕で唇を奪われた後だったりして、ディープなのも経験しちゃってなんか最近もうどうでもいっかーとか思えてきて逆に怖い。

「いやでも女の子相手だからノーカン。そうノーカンよ」

 暖かなシャワーを浴びながら、自己暗示。

 そうして意識を保っておかないとヨルちゃんに夜這いされるよー!!と同僚の子がいっていたので本人かなり必死。

「責任ならとりますよー!!」

 と。腰というか下腹部あたりに手を回してこちらに抱きついてきたヨルに、ホノカが思わず悲鳴を上げる。

 合歓泰の家に責任持ってもらえるなら女同士でもいいよねー、ヨルちゃんかわいいしねーなんて暢気に女性職員たちが議論を交わす。

 軍学校にいたホノカには、カルチャーギャップを感じてしまう日常だ。



 [>



 その、一部楽しげで一部本気の悲鳴があがるシャワー室の外。

 脱衣所から、黒い棒のようなものをポケットに隠して出てくる人影が一つ。

 シルクの濃紺と、気品を感じさせる白いヴィクトリアドレスを着た少女は、普段の少女の様子からするととても早足で歩いて、脱衣所そばにあるトイレに駆け込んだ。

 ここには基本女性しかいない。合歓泰で男性を雇っていないわけではないが、AR付近には近寄らせてもらえない。

 その徹底したAR付近からの男性排他が合歓泰を軍事企業として成長をせしめた理由の一端であるとはいえ、同じ理由で――皆そろって婚期が遅れる――若干不人気な部署でもあった。

 それでも、だからこそ女性に対する気遣いはそこここに見える。防音に気を使ったトイレもその一つ。

 そうして、| 人に話を聞かれる心配のない《あんぜんな》場所についてから、アサは黒い棒のようなもの――ホノカの持っていたアンジェラの端末をポケットから取り出して。

「教えてください」

 単刀直入だった。

 閉じた洋式トイレの便座に腰掛けて、真剣な表情で問いかける。

『何を?』

 ホログラムが浮かび上がる。美形の男。

 くく――と。

 まるで何もかもわかっているかのような意地の悪い笑み。

 絶対わかってる、と思いながら、アサは小さな棒を両手に握ってじっとシンドウを見つめ、

「どうして僕がARに乗れるか、です」

 言った。

 くくくくく、と。

 悪魔的な笑みを浮かべるシンドウ。

『で、お前は何をしてくれるんだい?』

 言われて硬直する。どうしても知りたかった。どうして自分が――"どうして男の僕がARに乗れるのか"。

 その答えを十中八九知っている人が現れて、つい…ついその端末を"借りて"しまっただけで。

 必死に考えをめぐらす。シャワーの時間はそんなに長くない。借りただけだから、二人がシャワーからあがる前に返さないといけなくて。

「ぼ…ぼくの写真集、とか」

『…』

「…」

 沈黙が舞い降りた。

 アサ的には、単純に服等のシンドウには無用そうなものを除いて、自分の持っているもので一番価値のある――姉さんが高値で売りさばいていた――ものをあげただけだったのだけれど。

 沈黙が続く。

 なんだかちょっと恥ずかしい気がしてきて、アサの顔が赤くなっていく。

『…ど、どんな?』

「え、えっと、こう、"あられもないすがた"って姉さんが言ってました」

『あられもない』

「は、はい。なんだか、服のボタンを外したり、女の子のパンツを脱ぐところとか…」

 ぶふー!!とホログラムのはずのシンドウの鼻から盛大に鼻血が噴出し、ビクゥ!!とアサは体を震わせる。

『い、いや、それは興味がないでもないがやめておこうお互いのために』

 無知とは怖いぜ、とか呟くシンドウにアサは首を傾げつつ。

「そ、そうですか…あ、ホノカさんの家の事、とか」

 あ、という呟きがもれてしまうほど思いつきのカード。

 それでも。

『家?』

 それでも確かに、そのカードには力があった。

 シンドウの目が真剣なものに変わったのはアサにもわかる。

 以前、どうして特に面接とかもなくホノカさんを雇ったの?とヨルに聞いたときの返事を思い出しながら、口に出す。

「見ませんでしたか?異常な集中力というか…異常なほどの反射神経を」

『アレが反射神経、ね』

 鼻で笑われた。けれどそれこそが彼女の力を見たという証明。

 期待にドキドキ胸を高鳴らせるアサへ、

『ならそうだな…ヨルちゃん以外に絶対に秘密を漏らさないという条件でなら。勿論ヨルちゃんは誰にもどこにも喋らないという条件でなら』

「姉さんには話していいんですか?」

 少し意外な返答だった。

 アサはシンドウが誰にも話してはいけない、と言うと思っていたから。

『あぁ、いいとも。せっかくの 姉弟(かぞく)だしな、それくらいの融通はしてやるさ』

 あからさまにほっとした様子のアサ。

 にっこりと微笑を浮かべたままのシンドウ。

「えっと、それでは、オオトモ ホノカさんの家はそもそもオオトモではなくダイチという端乃鞠町の名家でした。ただ、その… 100年前(あなたたちと)の戦闘により家名をとどろかせた一族だったのですが、30年前から没落を始めて――」

『おっと、いきなり全部話すのはダメだぜアサ"ちゃん"。今度はこっちの番…そうだな、ARの根本のお話だ』

「根本…?」

 首をかしげるアサに、あぁ、とホログラムのシンドウは頷いて見せて、

『俺達はな、金属に意思をもたせたんだ』

「意思――?」

 そう、とシンドウは頷いて。

『そっちの番だぞ』

「あ、あ。はい、えっとですから彼らは研究をはじめたんです…」

 そしてアサは語った。彼女の家が行ったことを。

 彼女に対して行ったことを。

『――成程。あぁ、成程ね。相変わらず人間ってのはそんな事をしてるわけだ』

「え?あの、大智家のような研究は他では行われていないと思いますが…」

『なぁに、単なる例えみたいなもんだ。じゃ、そうだな。少なくともお前達が似ていることに、ARに乗れたことは関係ない、といっておこうかな』

 考えていた可能性の一つ。ヨルと似ているからこそ――ARが認識を誤った。それが潰された。

 じゃぁ、とアサは口を開こうとして、アサの携帯が着信を告げた。

『タイムアップだな。ここでのお話はすぐにアサに話すといい』

 不思議そうにアサは首を傾げつつ、携帯のメールを見る。発信者はヨルで、メールの内容は"落し物をはやく届けてあげなさい"。

 かっくん、アサの首が逆方向に傾ぐ。

 ちょっと呆れたようにして、シンドウが言う。

『つまり、もうとっくにホノカは脱衣所から出ていて、この端末を探してるって事』

 はゅ!と謎の奇声を発して慌ててアサはトイレを飛び出して、おやくそくのようにすっころんだ。



 [>



 端末を、落ちてました…とおずおずとホノカに差し出すと、あっれー、脱衣所のかごに確かに入れた記憶があるんだけどなーと不思議そうに首を傾げつつホノカはそれでもありがとう、と笑って受け取ってくれた。

 ザクザク罪悪感を胸に抱きながら、とりあえずアサは日課をこなした。

 ヨルとは違って難しいことはアサにはできないので、戦闘訓練以外することがなく。

 かといってその訓練もしすぎると 今の姿(じょそう)が難しくなるのでやりすぎ厳禁でーす!!

 とヨルに言われていて。

 しかたがないので、アサはお掃除やコックさんのお手伝いなんかをしている。

 最初はヨルが鬼のように、合歓泰本家の者がそんなことやってちゃいけませーん!!と怒っていたけれど、他にできることもなくて申し訳ないし、続けていたらしょうがないですねー、なんていいながらなんだかんだヨルも許してくれたので、最近の日課になっている。

 最近はとーじょーいんのみんなからも、アサちゃん料理とお掃除上手だねー、って褒めてもらえるし。

 なんて喜ぶアサなので、ある意味適材というか。

 ともかく、自室にいけば二人っきりで話ができる。

 この潜水母艦の宿泊スペースは基本個室なのだけど、アサとヨルは少し大きな部屋を二人で使っているから。あんまり大きくないけれど、その分ヨルを近くに感じて、アサは好き。

 そうして夜まで 掃除や料理(かんないのざつよう)で時間をすごし、お風呂に入ってあとは寝るだけの段階で、シンドウの言うとおりにアサはヨルにさっきの話をした。

 本当はもうちょっと前に言うつもりだったけど、忘れてて。

 そうして話をしている途中から、みるみるヨルは脱力していく。

 不思議に思いながら全部話すと、

「その論文は、一ヶ月前に既に公表されていますが見向きもされていませんよー」

「え?」

 予想外の答えが返ってきた。

 ピシ、と固まるアサ。

 ちなみに、二人のパジャマはさすがにそれなりにシンプルなデザインだ。それなりに。

 ヨルにいつも着せ替え人形にされているアサからすると、ちょっと地味?と思う。フリルがついている時点で地味とはいえないのを彼は知らない。

「でも、教えてくれるって…情報交換だって」

「要するにー、釘を刺されたんですよー」

「え?」

「いいですかー?契約書に、ARについて言及はしないと明記してあるでしょー?それをやぶってるじゃないですかー」

 ぐたー。ベットに体を沈みこませるヨル。

「あ…」

「だから、まぁこちらの情報だけ取られたんでーす」

「え、で、でも、それは、ちょっとずるい…」

「ずるくないですよー。一ヶ月前の、鼻で笑われて相手にもされていない論文が正しいことだけはわかってるわけでーす。ただそれを誰にも言ってはいけない時点でほぼ詰んでるだけで…」

 よくわからなさそうに首をかしげるアサ。

 やれやれ、と仕方がなさそうにヨルは体を起こして、人差し指を立てて説明をしてあげることにした。

「いいですかー、私達はARの技術者ではありません。ARの解析をどうすればいいのかどこまで進んでるかわかりませーん。いわばX+Y=NのNの値だけわかったようなものです。意味がないんでーす」

 つまり、 答え(N)はわかっているけれど、他人…とくに| 技術者《XとYのわりだしかたをしっているひと》に言えない以上、その情報に価値がない。

 Nの答えを知っていても、その証明をする手段がない。

 自力で勉強するという方法もあるけれど、その研究をし終わって証明して発表するのと論文の提出者がめげずに証明を続け認められるのとどちらが早いかなんていう分の悪いレースをするメリットが薄い。

「で、でもたとえば、ARに乗れる男の人を探せるとか」

「美少年でのテストは何度か実行してますよー。けどまぁほぼ成功例はありませーん」

 本当に何人かは、成功したことはある。スペックは大して変わらなかったが。

 ついでにそれなりに顔立ちの整った男を女装させて乗り込ませた事もあるが失敗におわったという記録も。

 もしかしたら、女形とか本職をつれてくれば成功はするのかもしれないが…正直ARの数よりARに乗れる美少女のほうが圧倒的に多いんだからそこまでする必要がない。

 ただ、ヨルはいわなかっただけで本当は意味はある。一部の人間にとっては、必要がある。

 それは、昔ながらの軍隊所属の人間達にとって。

 そして男性主権を主張する人間達にとって。

 美少女であるためには、美女であるためには、過度な訓練はできない。ストレスで肌や髪はぼろぼろになるし、筋肉をつければ大抵の人間は頬の肉が落ち無骨な顔になる。

 睡眠時間が減れば肌はぼろぼろになるし皺もできやすくなる、入浴時間をしっかり取らなければ肌から潤いは逃げていくし体臭がきつくなる。

 つまり――素で美しい一握りの例外は除くとして――努力によって美しさを保っている多くの女性達が、美人ではなくなってしまう。

 そういう訓練をさせられて一年とたたずARに乗れなくなったARKが続出し、大して訓練をしなければARに50まで乗り続けた女性もいた。

 最短はわずか数分。ある教官がボウズ頭を強要し、一日…いや、わずか数分でARに乗れなくなった哀れな少女達。

 そういう理由で、AR軍と通常の軍は同じ基地にいながらにして別の軍隊として扱われるようになったのは自然な話。

 当然、ARパイロットに殴る等の暴行を加えれば階級に関係なく必ず暴力を加えた側に罰が下る。それで優秀なARKがARに乗れなくなったら切腹ものだ。

 だから、昔ながらの軍人達は現在のARを主体にした軍を嫌っているし、ARK達も、訓練と"指導"と称したしごきを肯定している軍を毛嫌いしている。

 そうしてARが産まれて100年の間に最初に軍隊内部で男女の関係がこじれて。

 それは、政治の世界にも広がり始めている。

 それでも軍は軍なので、この潜水母艦で行われた朝の訓練のようなぬるーい訓練ではない。

 厳しい規律に縛られた訓練。それは確かに作戦時の機敏な動き等形となって反映されるが、だからこそストレスがたまりやすい傾向にあり、性格も歪みやすかった。

 性格が歪めば、ストレスと過労が重なれば、美人だって大抵美人のままにいられない。それは年齢を重ねる毎に顕著になるから、軍隊に所属するARパイロット達が企業所属のパイロットより明確にパイロットとしての寿命が短い。

 合歓泰のような軍事企業が、各社の戦力としてARを保有する事が許されているのもそのあたりに理由があり、だからこそ合歓泰のような企業が保有するARパイロット――つまり、男女間にそこまでいさかいのない環境にいるパイロット達が力を持ってきていた。

 普通に暮らすだけならば知らないほうがいい、 ドロドロとした汚物にんげんしゃかいのみにくさの話。

 だから、ヨルはアサには言わない話。

「まぁ、意思がある…つまり生き物のようなものなら馬と一緒でARK自身が ブラッシング(メンテナンス)してあげれば多少効果はあるかもしれませんから、明日からスケジュールにくみこみますかー」

 どんどんとしおれていくアサにみかねて、ヨルは言う。

 そんなひところでぱぁぁっと顔を輝かせるから、ついでに釘も。

「ついでにいうと、あちらに提示したホノカさんの実家についての情報は恐らく彼なら真偽を確かめる程度の技術は持っていまーす。対してこちらは確認をすることができない…恐らく嘘は言っていないでしょうけれどねー」

 完全に損です。っていうか詐欺レベルの取引でーす、といいながらヨルはアサににじりより頬を引っ張った。

 いひゃいいひゃいいひゃい!と悲鳴を上げるアサ。

 アサちゃんはおばかさんだから取引はしちゃいけないっていったでしょー!と怒るヨル。

「というか、 合歓泰(うち)はARの周辺に女性を集めることでARのスペックを上げているのに、例えどれかの機体が男の子を気に入ったって他の機体への影響のほうが深刻で、本末転倒なんですよー」

 と、そもそも根本的な問題をヨルがあげて、

「もしかして、ぼく、ここにいないほうがいいの…?」

 ほっぺたを押さえながら、アサが言う。

 そうでなくても、普段からそう思っていたから。

 女の人しかいない潜水艦に、自分は一人だけ男の子で。

 瞳にうるうる涙がたまって、それが零れ落ちそうになる直前に、

「このおばかさんはー本当に…このおばかさんは本当にー!!」

 押し倒された。

「いいんです!アサはいてもいいんです!アサがいることで機体スペックが全体的に+ですし!アサは私の嫁なんでーす!!」

「ぼ、ぼく男の子だからお婿のはずだよー!?」

 今日も仲良しな姉妹の夜は更けていく。



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