戦闘、終了、死の天使
白銀の機体が夜空に舞い上がり――MLU軍の ARK達は、皆一様に呆けた表情になった。
――なに、あれ?
銀のボディは所々砂がこびりつき、機体もぼろぼろ。自軍のものなどでは決して無いし、相手をするにしてもあまりにぼろぼろ。
だというのに…アレはこちらの攻撃を、いとも容易く防いで見せた。
地中から飛び上がるまで何分間?
そして、異常というなら、この機体は…どこの製品だ?
アンジェラとディアボロが戦闘中に破損したパーツは、周囲の鉱物や機械を取り込んで自己修復を試みる。
だがもちろん、そのまま使うというわけにはいかなかった。
いや正確には出来なかった。
なにせコア部分の破損パーツがない。あったら既に2機は墜落している。
あるのは手とか足とか指とかで、そんなのが元の形をとってもどうしようもない。
基盤らしきものからデータを取り込もうとしたのだが、そちらもお手上げ。
幾重にも敷かれたプロテクト。解読不能な暗号らしきもの。意味不明なゴミデータ?
とにかくそれらは無茶苦茶で、例えるならそう…圧縮データを解凍しながらその圧縮データの中身を使うような使い方だった。
あり得ない。そして最悪なことにその圧縮データはいつまでたっても解凍されない、理論上解凍できないデータだと発表がされている。
曰く。内容が常に変化するデータだとか。圧縮方法が常に変化するデータだとか。
ともあれ彼ら二人を除く人類は、そこであきらめた。
しかし、それらでは戦況は変わらないし、自己修復したパーツもただのゴミ。
修復といったって質量は変わらないらしく、修復するにはその分の機械類が必要でエコの役にもたってくれない。
ただ、その取り込む機械類の性質や用途はどうやら理解をしているらしいことが分かった。
例えば電話を取り込ませたら、電話として使うことはできるのだ。
それも格段に進歩した技術――黒電話を取り込ませれば、ホログラムを使った映像通信になる、というような。
ただしこれは、どうも元々アンジェラかディアボロに使われていた部品に類似するものである必要はあった。
電話なら通信機能と解釈して進化させる。
ビデオと画面を接続して取り込ませれば、「目」として認識して進化させる。
だが、テレビだけを取り込ませても、ただの修復材料として扱われ、勿論テレビを見る機能は失われる。
だから、とりあえず人型のロボットを作ってみた。ぎこちなく動くだけのロボット。
その完成した機体に、あの2機の破損パーツを近づけて、最低一年かけて機体そのものを侵食させる。
それが初代のAR。
そして初代の破損パーツを、同様の手順で踏んで作ったものが2nd。その次が3rd、4th。
結局サード以降の機械だと自己修復機能が失われてしまったので、あまり量産はできなかったが、ともあれ人類は4thを量産し、新たな戦力を確保した。
4thが量産される理由は、単純に代を重ねる毎機体が増えて量産しやすいという理由。
そして1stの部品を使い量産を続けていたら、量産を続けるうちに自己修復機能が失われたという理由。
そのAR。基本的にデザインというものがない。
非常にシンプルな、鋼色の機体たち。
何故か機体にただペイントをするだけで、明確に性能が違ってきてしまうから。
二つ機体に赤色のペイントを施せば、片や性能が10%はアップする。片やは30%ダウンする。
ただのペイントで。他はまったく同じなのに。
だから、基本的に装飾という装飾は徹底的に排除されている。
すこしでも安定した性能をコンセプトに。
だから。
その白銀色をした、少女達は見たことさえないフォルムの機体は明らかに"異常"。
あんなの機体によっては動いてさえくれなくなる。
だから、当然少女達は怯えた。
そんなオーダーメイドが許されるのは、つまり一般兵ではありえない。
特別な地位を持つ人間が動かしているのだと――!!
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MLUの数は5機。少なくとも手持ちの銃器が効かないし、いったいこれからどうしよう?とMLUの少女達はとりあえずアンジェラを怯えながらもまじまじと観察していた。
ついでに言えば。当のホノカも、1機で5機を相手にド素人が太刀打ちなんてできるのか、かなり疑っていた。
第一。
「こんなおんぼろで勝てるわけ?」
『なっ!?世紀の大天才ザ・シンドウと呼ばれた俺をなめるなよ!?―――まぁ、まずは修理だな。ちゃちゃっと済ますか』
ザ・シンドウて。とホノカが突っ込みを入れようとした刹那。機体が青白く輝いて。
「なっ?!」
誰の叫びだったろうか。少なくともシンドウでないことは確かだが。青白い光は一瞬。そして、そこには傷一つ無い、白銀の天使が浮かぶ。
「ARって――こんな事できるの?」
青白い光は、アンジェラを包み、システムに記された元の形状を取り戻す。
人類が未だ解析不能、制御不能、シンドウとヤクシジのみが使いこなせるオーバーテクノロジー。
『ま、俺が戦った時代にコレができんのは俺とダチの一機だけだったぜ?と、さて。話は終わりだ行くぜ、ともたん』
「だからともたんはやめなさいっ!!」
白銀の天使が、空中で腰を落とす。左腰のブレードに手をかける。それは、居合いの構え。森の上を飛行するARに標準が定められ、
刹那。
白銀の天使は森の上のARとすれ違い、相手の反応を許さないまま逆走。
ドッゴォォン!!
『――あのな、居合いに見せかけといて殴るなよ。拳ぼろぼろになったろうが、っつーかどういう殴り方だよ!』
「だったらとっとと直しなさい。あの森にはみんながいるの」
『みんな――って、ああ。熱源はそれか』
熱源って。まぁ、Aiらしいといえばらしいのかもしれないけど。
あそこでもし敵ARを真っ二つになんかしたら、森に落ちて、誰かが死ぬかもしれない。ただでさえ火の手が上がっているのに、火から逃れた人たちまで。
―――だから、あたしは…
ゴッ、ズガァァァァァン!!!
背後からの攻撃で吹き飛んだARは、上空に停滞していたもう一機を巻き込んで、街へと突っ込んでいった。あたしの通う学校へ一直線に突っ込んで――1学年生用の実技教育棟、同じく2、3学年、中等部さえ巻き込んで。数十メートルは有るこの町最先端の教育棟を瓦礫の山にして、停止。
ぽひゅーん、と。間抜けな音を立ててパイロットが脱出、パラシュートを展開していた。
『――心配すんな。学校には生体反応なかったから』
「――じゃなかったらあたし一生後悔し続けてたわ」
気を取り直し、再度構える。すると、照準が敵をオートロック。程なく、レーダーの近く半透明の青白い2Dウィンドウがポップアップして、データが表示されていく。
機体名Sin4-Nom。AR-Typeは装備によって変化、現装備武器は大型マシンガンと、腰にバルカン砲が2門。腰に小型ナイフ装備。よって、現はAR-TypeはICEと判断。MLU制圧標準装備、とそこまでホノカは読んでから、
「なんでこんな詳しいの」
『便利だろ?まぁ種を明かせば相手の軍へのハッキングなんだが』
「犯罪じゃない」
突っ込むと、なにやらコックピットが一気に冷えた。
どうも彼的なしょんぼりポーズのつもりらしい。マンガの噴出しのような白いウィンドウがポップアップして、しょんぼりマークの顔文字が出る。
『あ、修復中と、修復した前後は俺フォローできないから。よろしくー』
「って、はぁ!?」
その会話が聞こえたわけではない。が、それにしては余りにタイミングが良すぎるタイミングで、街を破壊していたAR達がこちらに飛来。先ほどの戦闘で遠距離攻撃は効かないと判断したのだろう、小型ナイフを構えて突進してくる。
「ちょっ、どうすればいいのよっ!?」
『ん~、そうだな、とりあえず突っ込んでみれば?森に被害出したくないんだろ?まぁ、冗談だけ――ってぇ!?』
最後まで聞かずして、銀の天使は敵に突っ込む。正面から堂々と。相手は 遠距離タイプでこちらは 近接タイプ。まぁ確かに接近しなければならないのは事実だが。
どうやら隊長機だったらしい一機が虎の子のレーザーライフルを構えていた。
「こんなときに冗談言ってんじゃないわよ!!信じちゃったじゃない!!」
『信じるな!!気づけ!って、前!目の前には、ナイフを構える敵機2機!そしてレーザーだけはシールドでも無理!!せめて一機だったら、そして、今日はじめてARに乗るともたんではなく、熟練、凄腕美人お姉さんだったらあぁ神よお救いくださいっ!!』
「なんか色々悪かったわねぇっ!!」
叫ぶが、敵機は目前。レーザー着弾秒読み段階、右から左からレーザーが真正面から。しかも、軌道の先はコックピットのど真ん中。いくらアンジェラでもコックピットをやられてしまえば、直せない。シンドウ ヤグサとオオトモ ホノカは仲良く死を覚悟して、
――ドクン。
心臓が、跳ねた。ホノカが次の刹那には来るであろう死に咄嗟に目をつぶってしまった時に。
いつまでたっても衝撃が来ない。軽くびくつきながらも、もう一度目を開けた、その視界で。
――え?
全てが、余りに遅かった。いや、正確には、自分以外のあらゆるものが。相手の機体も。レーザーも。空を飛ぶ鳥も、ゆれる炎も昇る煙も、相手に向かいすっ飛んでいくアンジェラさえも。
避けなきゃ。
アンジェラの操縦は、操縦桿を動かすのではなく、操縦桿に自らの“意思”を込める事で行われる。ハンドルが存在するのはあくまで直接的な力を与えるイメージを効率化させるためのもの。
だから、難しいことは考えなくていい。ホノカはその時それを知る由もなかったけれど、彼女はバイクに乗るのが好きで、バイクを模した座席に座っていた。
咄嗟の反応が脳内でバイクの操作をイメージする。イメージが意思となり機体に伝わる。
足のバーニアの射出を 止める。足のバーニアは、翼のバランスをとるためのもの。 それを止めれば、前進するアンジェラの重心は前に移る。
大丈夫。 バイクの技を空中で、おもいっきりやるだけだ。
機体が前に傾ぐ。酷く、ゆっくりと。
そして、後はタイミングを計って―――今!
翼のバーニアを全開に。さらに、傾ぐ、レーザーが機体の後頭部を掠る。機体が更に前へと傾ぐ!!地面が眼前、前が後ろに、空中で行う前まわり!!
両足を前に突き出す。突き出したとほぼ同時、足が地面を踏みつけて、着地。曲がる膝、沈む腰、その反動すら使って
「跳べぇええッ!!」
ドォンッ!!
酷く、ゆっくり。相沢くんの驚愕する声が聞こえた気がした。それよりも。
右腕を後ろに引く。そして、下から救い上げるように、アッパーカットを――!!
コマ送りのような世界が、一気に元に戻――
ズバァァァァァッ!!!
「なっ――!?」
殴る瞬間、一瞬だけ見えた拳。先ほどとはまるで違う。一番違ったのは、拳から伸びた鎖のような黄色い雷光。それが、相手の頭部を貫く。
ホノカは操作していないのに、腕が振られ、その場で1回転。しなる雷撃の鎖が頭部を貫かれたARを振り回し、左右にいた2機もろとも吹き飛ばす。
バゴォン!!!
刹那、機体が爆発して、散った。
一瞬だった。
一瞬で…ホノカの勝利が決定していた。
パイロットは例によって座席ごとふきとばされて、パラシュートを展開してふわふわと。とりあえず人を殺さずにすんだことに安堵しつつ、
「ちょっ、これ、何よ!?」
『――何って、ともたん殴るほうが得意なんだろ?だからをLightning Chainっていう――まぁそれ用の武器を使っただけだが』
さも、なんでもないことのように。
作った、そう。作ったのだ。本来はなかった武器を"戦闘中に作り上げた"。
天才という言葉がホノカの頭をくるくる回る。はぁー、とあきらめたように額に手をつき。
「まぁ、安心したわ。シンドウくんがコックピットを狙ってたら、多分あたし、許せなかったし」
『そりゃお前、パイロットは女の子なんだから。紳士の中の紳士と呼ばれた俺が殺すわけないだろう』
なぜか偉そうなAiに、ホノカの口から思わず再びため息がもれた。
「ね、ラジオとかない?現状を確認したいんだけど」
『ナイスアイディア。情報収集は大切だ』
最近は情報の伝達は異様な速度で行われる。特に良い戦況報告や月に対する情報は。
冷戦中ならでは、なんて軍事学校の教師のだれかが言ってたなぁ、なんて思いながらラジオに耳を傾ける。
ロボットなんか作っちゃって、技術が進んでいるかと思うことなかれ。異常なのはシンドウとヤクシジの二人の天才の頭脳才能の方であり、ブラウン管もラジオもレコードだって現役だ。
携帯電話という無線のようなものが発売されたと聞いたけど、庶民には高すぎて手が届かない値段。
戦争が終われば、話はまた別なのかもしれない。軍事関係に独占されている技術が市民に渡ったりとか。
開発だけはされていて、それが一般に流通しないだけだという話も聞くし――。
『襲撃してきたのは、MLU軍だ、という情報が殺到。また、MLU軍は何者かによって撃退された、という情報、映像が各所より集められていますが――どうでしょうね?』
『考えられる最有力の勢力は"合歓泰"でしょうな。軍が撃退したのならばそれを隠す理由が思い至りません。ともあれ、目下最大の問題は、襲撃してきたのがテロリストか、或いはMLUという国家なのか。条約の事もありますしな』
『どうやら現場には撃退したARが今もまだ留まっているという話ですが、朝井代表が軍の介入をストップさせているようですね』
『難しい判断です。軍の介入は朝井代表に…失礼、和平派とって介入してもしなくても苦しい状況に追い込まれるでしょう』
『MLUは、そのような命令を発した覚えはないとのコメントを発表したそうで「もういいわ」』
ブチ。ラジオが途切れる。
『ま、とりあえず朝井代表とやらのおかげでもうしばらくは時間がありそうだ』
「そうね…ちなみにエネルギーの補給とかは必要なの?」
『はン。俺は100年前に無から有のエネルギー開発に成功しているんだぜぃ?まぁ、戦闘用、修復用に使うエネルギーは膨大だし、えー、100%まで後一時間ってトコだな。残量はおよそ2割』
あーそう。とあきらめたようにホノカが言う。
俺の超開発があーそうってちょっとともたんクールすぎないか!?とかなんとかシンドウはわめきたてるが、勿論ホノカはその天才のブッ飛びっぷりに最早あきらめているだけ。
『そういやともたん。実は極秘組織のパイロットだったとか、或いは人造人間―――いや、まて。言い方かえるから。遺伝子弄られた新たな人類とか、今まで訳の分からん施設にいた覚えとかは?』
「ないわよ。あるわけないでしょそんなもの」
呆れ顔でため息をつくホノカ。一瞬前ハンドルをへし折る勢いで力を込めていたのはさておいて。
『いや、真面目な話』
「ないわ。全然。一っっ欠けらもないわ」
『うっそだぁー』ゴン!!と硬いものを殴る音がコックピットに響く。『…ごめん嘘』
「っていうか、疲れたからコックピット開けて」
『え、息苦しかったりするか?』
そうじゃなくて、とホノカは言って、両肘をハンドルに預けて、二の腕あたりに頬を乗せ、上半身から力を抜く。
コックピット内部は息苦しくもなんともない。そういえばヘルメットも何もしていないのにGとか大して感じなかったし、そこらへんすごく良く出来ているとホノカは思わず感心する、けど。
それでも、ホノカはバイク好き。
何より、高速で走ったときに、全身で感じる風が好きだから。
「あぁ、そうね。ある意味では確かに息苦しいのよ」
なるほどナー、とシンドウは呟いて、ガシュン。音を立てて胸部装甲が開かれる。途端にすごい風がコックピット内に吹き荒れた。何も言わなくても座席がスライドして町の様子が見下ろせるような位置になり、感謝する。当たり前ではあるけれど、アンジェラの胸部は15mくらいの高さのせいで風が強くて、ホノカの前髪がひっきりなしに風で舞っていた。
いつのまにか夕暮れは夜に変わって、パラシュートで脱出した 兵士達がきゃーきゃーいいながら逃げている。母艦が少女達を回収にきているようだけれど、ARはもう出し尽くしたのか、こちらに攻撃する様子はなさそう。
被害にあった人たちもわーわーいいながら救助活動に精を出している。
一瞬それを助けようかと思ったけれど、ホノカに出来ることは本当に少ないしアンジェラを見上げる人たちは見るからに怯えているしで、アンジェラを使うのも、アンジェラのコックピットから降りるのも、衆人の目がある内は遠慮したい。
だから、そんな町の様子をいまいち緊張感にかけるなぁ、とか思いながらホノカはぼんやり町を眺めていた。
青白いウィンドウがポップアップして、ホノカの両親が映し出された。どうやらホノカの両親も無事だったようで、今はホノカの名前を呼んで探しているらしい。
顔を見せに行かないと、と思う反面。
それなりに優等生で通っているホノカの思考が、それを阻む。
『で、どうするよ。俺も現代には詳しくないけど、アンジェラとアンジェラにのった 少女とか色々な意味で話題になりそうだけど』
「そーなのよねー」
ただでさえ冷戦状態からの侵攻、そして軍事力のないはずのこの町でAR5機を撃墜。
4thを作るのに最低一年。現存するARはおよそ二万機程度だと言われていて、そのうちの最低三分の二は4thの生産に当てられている半スクラップらしい。
実働6400のうちの5機の破壊。しかも4th…つまり自己修復機能のない、壊すと完全にゴミにしかならない機体を、4機。
「あー…ただで済ませてもらえる気がしないわ」
敵からも味方からも。ついでに家族…特にチサトの身の安全がかなり不安。
『ちなみに俺はアンジェラを趣味で作った翌日、家にスタングレネードを投げ込んで拉致しようとしてきた集団を返り討ちにした過去がある!』
慰めにもならないというか、トンデモすぎて比較にならない。
「いらないわよそんな情報。…ちなみにあたしの妹がMLUにいるんだけど、どんな処罰くらうとおもう?」
『妹を人質に取られてMLUに所属して 地球侵略を強要されるか、地球軍に所属して 月侵略を強要される』
ほォらやっぱりー、とホノカの体からますます力が抜けていく。
はーぁー、とホノカが何度目かのため息をついた頃、彼女の腕の下でレーダーが反応した。
『やばい、ともたんコックピット仕舞うぞ』
「え、また敵?」
ガシュン、と座席がスライドし元の位置へと戻り、胸部装甲が閉じていく。一瞬の暗闇の後、横に長く縦は狭いあの映像が映し出された。んー!とホノカがネコのように体を伸ばして、ハンドルを握る。
こういう時、それでも自分でやってやるわよ!とか言っちゃったしなー、とか思って怒れないあたしはつくづく苦労性だと思いながら。
「とりあえず町を離れましょう。ついてくるとおもう?」
『九分九厘』
「予想通りなのにうれしくないわ…」
バシュ!!と音を立ててアンジェラが空を舞う。森を越え、山を越えて、歩きでもいける距離にある海の近くへ飛んでいく。
『8時方向!!』
バックミラーを見る余裕はない。足を垂直にし上空へ方向を転換、片翼のバーニアを止め強制旋回。半回転の後再点火!!
ヒィン!!という音ともに眩い深紅のレーザーが足元を通り過ぎ、海へ着弾。ドッ!!と音を立て水しぶきを噴き上げた。
振り返ったその先、闇に溶けた悪魔がいた。
夜闇に合って尚黒く。巨躯に走る真紅のラインが血管をめぐる血液のように軌跡を描いて明滅する。
「何、アレ。特別仕様?」
『いんや、違う』
照準がロック。例の青白いウィンドウがポップアップし、情報が表示されていく。
ただ、その装備の説明よりも。その機体名が何よりホノカを凍りつかせた。
Diabolus。型番などない、ラテン語の。アンジェラのスペックに唯一対抗でき得る機体が、そこにいた。
『――ふぅ、ようやく見つけました』
死の天使は、外部スピーカーを通して。
嬉しそうに、そう言った