エピローグ
マスターは一人酒を飲んでいた。
カウンターはカイルが去ったままの状態。
散らかった……とは言わないが、グラス等が置かれているまま。
マスターは片づけをすぐにはしなかった。
カイルとの出会いを名残惜しむかの様に。
カイルが本当にここに居たという形跡を残しておくかの様に。
カウンターに一つだけポツンと置いてあるグラスを眺めながらマスターは酒を飲んでいた。
「あいつは……カイルは自分の命を軽く見過ぎている」
「これを機会に改めてくれればいいが、ここから先は私には何も出来ない」
「全くあいつは私に似て苦労するな……」
小さく笑いながらグラスを傾ける。
カラン、という心地よい音が響いた。
「自分が盾になって相手を助けるにはまだ若い……今このまま死なれても私と同じ苦しみを味わうだけだ」
「私が助けられるのは一人一回までだ。次はないぞカイル」
マスターは少し表情に影を落とすとそう言った。
カイルの前にも同じ様な人が居て、マスターがそれを助けられなかったことでもあったのだろうか?
それはわからない。マスターがそれを口にする事は無いだろうから。
しばらくマスターが酒を飲んでいると。
「……お?」
何かを感じ取ったのか目を閉じて意識を集中しだした。
そして。
「今度のお客さんはあいつか……」
そういうとマスターはグラスを片付け、テーブルを拭き始めた。
「私と同じ罪を背負うものは誰もいなくていい……私だけで」
――静寂のBAR、今宵も人知れず開店中。