第三話
「――そろそろ時間ですね」
マスターは言った。少し名残惜しそうな感じが声音からわかった。
「そうだな……美味かった。いくらだ?」
愛剣を手に取り立ち上がった。そして腰に着けている袋から通貨を取り出そうとすると。
「いえ、失礼をしましたし、御代は結構ですよ」
そう言いながらマスターは空のグラスを下げた。
「そんなわけにもいかないだろう?」
男は少し困った顔をした。
男は結構な量を飲んでいた。
普通の酒ならば厚意を受取るのだが、ここの酒はあまりにも上質だった。
男は結構名の通った冒険者で金に困る事は無い。
だが、酒もろくに知らない普通の冒険者が何も知らずにここの酒を飲んで会計をすると恐ろしい事になるだろう。
「いえ、御代は結構です」
マスターは決して金を受取ろうとしなかった。
払う、結構。の押し問答。
数分が経って男がとうとう折れた。
「そうか、ありがとう。これも何かの縁だ名前を教えてくれないか?」
「えぇ結構ですよ」
マスターは笑顔で答えてくれてた。
「良かった。俺の名前はカイル」
「私の名前はエピックです」
互いに握手をすると。
「また今度遊びに来たいと思います」
そう言ってカイルは扉に向かった。
「えぇお待ちしておりますよ」
マスターはカイルを見送った。
「ありがとうございました」
エピックはお辞儀をした、それと同時にバタン!という音と共に扉が閉まった。
「今度……ですか」
そう言うとエピックは人知れず苦笑した。