第二話
それからどれくらいの時間が流れたのだろうか?二人とも各々の時間を過ごしていた。
男はワインを飲み、マスターはおかわりを出してはグラスを磨いていた。
緩やかに時間が過ぎていく。
すると不意にマスターが語り始めた。男はグラスをテーブルに置きマスターの話しに耳を傾けた。
「私はこれでも少し名の通った冒険者でね。若さもあって無茶をよくした……ドラゴンにも手を出した事がある」
「ほぉ……!!」
男は感嘆した。ドラゴンとは史上最強の生物と言われ、一番ランクが低いドラゴンでも倒す事は愚か、生きて帰る事も出来ないと言われている。
どんな無茶する奴でもドラゴンには手を出さない。それが常識だった。
しかし常識外れというのはやはり存在する。ドラゴンハンター達だ。
ハンター達は左手に特殊な墨を入れる事になっている。
マスターはそれが無いことからハンターでは無かった。
「それで?」
男は聞いた。年甲斐もなくわくわくしていた。ドラゴンハンター以外でドラゴンに出会って生きてる人に会うのは極稀だからだ。
マスターはにやっと笑うと。
「倒しましたよ」
と、言った。
しかしすぐに顔を曇らせると。
「だが仲間を一人失った」
「…………」
男は何も言えなかった。
これはよくある事だった。そう、よくある事。無茶な事をして仲間を失う。誰も行こうといった人を責めないだろう。
一緒に行った時点で『死』は覚悟の上なのだから。
男は無意識のうちに剣を撫でていた。今まで男はこの剣に何度も助けられた。これからも助けられるだろう。
『死』という言葉を意識すると一番信用がおけるこの剣を触ってしまっていた。
またしばらくの間無言が続いた。
「死ぬ事は怖いですか?」
マスターは唐突に切り出した。
「いや」
男は即答した。
「死なない様に努力、最善は尽くすが、死ぬ事に関して怖いと思った事はないな」
一息ついてから、また男は言った。
「一日に平均一万人が死んでる中、明日は我が身かもしれないと怖がってたら何も出来ないからな」
「死ぬときは死ぬ、そんなもんだろう」
そう言い終えるとグラスの酒を一気に飲み干した。そして一言。
「だから酒に溺れる者も出る」
マスターは何やら複雑な表情をした。悲しみとも哀れみとも言える微妙な表情で。
「そうですか…あなたはまだ自分の事、世間の事が判ってないようですね」
そう言った。
「どういう事だ!?」
男は腹立たしげに言った。
「それは言えません。ですが…あなたが私の様になって欲しくはないのですよ」
マスターは悲しげに笑った。
その顔を見ると男は何も言えなくなった。その顔には生気が無く見てて居た堪れなくなったからだ。
少しするとマスターは普通の笑顔に戻って。
「さぁ暗い話題は終わりです!」
と言って、昔の武勇伝とかを話し始めた。