第一話
カラン…カラン……
一人の男が扉を開けて入って来た。
「いらっしゃい」
その男を体格のしっかりした白髪を頭の後で結っている男が迎えた。
歳は50半ばくらいだろうか、落ち着いた雰囲気が漂っている。
客の男は適当にカウンターに腰を掛け隣の椅子に愛剣を置いた。
マスターはちらりと剣を見るや。
「お客さん冒険者ですか、中々良い剣をお持ちですね」
男は剣を愛でる用に撫でながら言った。
「あぁ、冒険者だ。だが、この剣はそんな高価な物ではないさ」
それを聞いたマスターは『どうぞ』とワインを出すと言った。
「いえ、金額が高ければ良い剣というのは素人の言う事ですよ。お客さんも人が悪い。さすがにこの商売をしていると判りますよ」
そうして静かに笑った。男も笑いながらワインを一口飲んだ。
ワインは濃厚だったが甘すぎず、適度な酸味が喉を潤した。
「……美味いな」
「ありがとう御座います」
マスターは微笑んでくれた。
男は世辞で言ったわけではなく、ごく自然にこの言葉がこぼれていた。
今まで男は色々な町、街、村等を回ったが、このワインはかなり上位に入った。
そうなると男は気になる事があったのでマスターに訊いてみた。
「こんなに上質のワインが出るのに、この客入りはおかしいんじゃないか?」
男は周りを見渡しながら言った。
店内には男とマスターの二人しか居なかった。
「ここは見つけ難いですからね、それに私は昔からマスターになってゆっくりと生活をするのが夢でしたので、特に儲けるつもりはないんですよ」
それを聞くと男は何となくではあるが納得した。
「あぁ、何となくそんな感じがするな。ところでマスター昔は冒険者をやってたのか?冒険者独特の威圧感を感じるんだが」
「良く判りましたね。これでもずっと昔は同業者だったんですよ」
そう言うとマスターは遠い目をした。現役の頃を思い出しているのだろう。