最後の晩餐 〜後編〜
その後、本来の任務である浄化作業もせず、王都にとんぼ返り(第二王子が破戒聖女の断罪を急ぐよう強く願ったからです)。他の聖女様方は神殿に戻られましたが、私は罪人よろしく縄打たれ、そのまま王宮内の牢屋にてしばし放置プレイされました。
そして冒頭の、謁見の間です。第二王子は本当に「ママに言いつけてやる!」を実行したようです。マザコンでしょうか。
おそらくは私が投獄されている間、従来通りの極刑を望む第二王子&側妃様と、何とか穏便に済ませようとする第一王子との間で熾烈な駆け引き合戦が繰り広げられたものと予想されます。挙句の落とし所が「破戒聖女ファティマを王都から追放し、北の辺境伯領へ」だったのでしょう。
第一王子は本当によくやって下さったものと感謝しております。正妃様はともかく、国王陛下がご不在なのも僥倖でした。もし陛下がいらっしゃったなら、溺愛する側妃様(と、そのご子息)の言いなりだったことでしょうから。
「セシル、約束を守れなくてごめんなさいね。私は、してはいけないと決められていることをしてしまったの。だからここを出ていかなければならないの。でもセシルは悪いことをしていないのだから、ここにいていいのよ。
大丈夫、ここの方達は皆様、立派な聖女様達ですもの。セシルも皆様を見習って頑張れば、立派な聖女様になれるわ」
私は少しかがんだまま。セシルに視線を合わせて言いました。
「納得いきません! 何でファティマ様だけ罰受けて、第二王子はお咎めナシなんですか⁉︎ してはいけないことっていうならまず第二王子がしてるじゃないですか! ポイズンビーを殺すななんて普通に学園で習うじゃないですか! あの王子、1回生からやり直した方がいいですよ! ファティマ様、あの王子の命の恩人じゃないですか! 罰より先にありがとうとかないんですか⁉︎」
尚も言い募ろうとするマリア様に、ミランダ様が大きく息をつき、そうね、と、おっしゃいました。
「私もファティマも聖女の扱いについて再三、神殿長に訴えてきたけれど、その度に聖女なんだから我儘言わずに聞き分けなさい、と、そればかりで。その末路が今日の件よ。攻撃手段の無い聖女に満足に守り人もつけずに、聖女なんだから自分で結界を張って対処するしろ、だなんて。他にも色々、申し上げてきたのだけれど」
「神殿長は日和見でいらっしゃるものねえ……」
ナターシャ様が頷いてうんざりした口調でおっしゃり、マリア様は、
「神殿長、王家の顔色ばっかうかがって、どっち見て仕事してんだって感じじゃないですか! 王家がそんなに怖いですか⁉︎ もうやってらんないです!」
相変わらずの剣幕のマリア様。これ以上は本当に不敬になるからおやめなさい、と止めた方がよろしいでしょうか?
「ファティマ、あなた嵌められたんじゃない? 何だかんだうるさいこと言ってたから。こんなに早く処分が決定するなんて、神殿の『上』が承諾しなければあり得ないもの」
と、エスニャ様。
私、そんなにうるさかったでしょうか? 先程ミランダ様がおっしゃっていたことや、私達のお努め内容に色々偏りがあり過ぎること、神殿騎士団で対応できることはこちらに回さず極力そちらで処理していただけたならありがたいのですが、等とは申し上げてきましたけれど。
ミランダ様は私達ひとりひとりの顔を見ながら、静かな口調でおっしゃいました。
「浄化の日程はせめて前日までには教えて欲しい、こちらにも準備やその他、色々あるのだから。その間、神殿に残ろ聖女達にだって通常のお務めの穴埋めの負担がかかる。事務作業や雑務その他は何も聖女の力は要らない。日報や任務完了報告はお努めの範疇としても、文官や巫女で対応出来ることは其方でして欲しい。このままでは私達は、食事や休憩はおろか満足な睡眠さえ取れないわ。
どう、エスニャ? これが『うるさいこと』かしら?」
ミランダ様は聖女様方を順々に見つめ語りながら、最後に、ひた、とエスニャ様を見据えました。
「あ、え、それはえーっとぉ……」
狼狽えるエスニャ様にはあまり実感がないのでしょう。彼女は『貴族学園在学中は学業優先』の大義名分の元、昼夜のお努めを免除されているお立場なのですから。
「ミランダ様からおっしゃっていただいてもこの体たらくなのでしたら、ここはもう何も変わらないのでしょうね」
私は率直に言いました。神殿長は権威に屈する方です。私のことは平民扱いでナメてかかってらっしゃいますが、筆頭公爵家出身のミランダ様にはヘイコラしていうように、少なくとも私には見えていました。
そのミランダ様が、ご本人のお言葉を拝借すれば「再三訴えてきた」にも関わらずこれでは……もう駄目かもねこの神殿、と、ため息のひとつも出てきます。
「あたくしだってホントはお努めをないがしろにしたいワケじゃないのよ……」
エスニャ様がいつになくしおれて、ぽつりと思わずという風におっしゃいます。
「でもあのバカ王子、っと、クラトス様に、王命だって言われて一緒にいろって……国王陛下から直々に息子を頼むって申し渡されちゃったら、どんないかがわしい場所でも遊びでも、お断りできるワケないじゃないのよ……!」
これは驚きました! エスニャ様は自ら進んであの馬鹿いえ第二王子とつるんでいたのではないのですね! 新事実です!
「あたくしだって、あのバカに付きまとわれなかったら、お昼のお努めは平日は学園だからムリだけど、夜と、学園がお休みの日は入れるの。そのはずだったのに……いつの間にか外堀埋められちゃってて、第二王子の婚約者候補扱いされるようになって……あたくしは嫌よ、あんなバカ相手にするの。でも、シルヴィア伯母様の……側妃様のお立場をお立場を思うとあまり強くも出れなくて……」
「何て酷い……」
ナターシャ様が痛ましげにエスニャ様の手を取り、つらかったわね、と慰めます。
ミランダ様はワインの残りを飲み干し、たん、と音を立ててグラスをテーブルに置きました。常なら淑女らしく隙の無い振る舞いをなさる彼女の内心の怒りを表すかのように。
「もう我慢ならないわ。王家は私達を、聖女を何だと思っているの? 国内にたった6人しかいない保護すべき珍獣? 王家の子を産む為の道具? 昼夜無く結界を張り、浄化する為の奴隷? ……冗談じゃない。
このまま神殿長に訴え続けても埒があかない。クラウス様に直接、ご相談申し上げることにするわ」
私達はぎょっとして一斉にミランダ様を見つめました。切れ長のアイスブルーの瞳は氷よりも冷たく冴え冴えとしています。私は彼女の本気を悟り、口をつぐみました。
「そんなっ! そんなことしたら今度はっ……ミランダ様まで……っ!」
号泣を通り越して引きつけを起こしたように泣きながらマリア様が、私が言おうとして口をつぐんだそのままの内容を代弁して下さいました。
ミランダ様はふっと瞳の力を緩めてマリア様を見、そしてまた、私達ひとりひとりに目を合わせ、ご自身に言い聞かせるようにおっしゃいました。
「私達は神の娘、神の御許では平等よ。私の大事な妹達をこんな目に遭わせて……黙っていられるものですか」




