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回想・4

 王宮騎士団弓兵隊の方々の中で適性ある方に護符の使い方を説明し、指揮官の合図で弓兵隊と魔術師団が上空の黒に向かって一斉攻撃。火魔法、風魔法を付与した弓と、魔術師団全構成員が全出力で放った魔法が奏功し、黒かった空が全面青くなりました。

 よかった一時はどうなることかと、これでやっと本題の浄化に進めるな、等と、死力を尽くした全戦闘員は安堵し、お互いを労い合いました。

 しかし、ここで気を抜いてしまってはいけなかったのです。


「きゃーっっ‼︎」


『現場』から離れた、王家の馬車周辺の結界方面から悲鳴が聞こえました。

 見ればポイズンビーなど比べ物にならない大きな羽虫の魔物が1頭、結界を破る勢いで攻撃しています。


「まずいぞ、クイーンビーだ……」

「クイーンビー!」


 その名の通り、女王蜂。力も毒もポイズンビーの比ではありません。少なくとも、比較的安全な王都での出没情報などはありませんでした、たった今までは。


「こちらに来ず、直接あちらに向かったということは、クラトス殿下が殺した最初の1匹は奴の子供だったのかも知れん」


 王宮騎士団長が無表情で、淡々とした口調で、誰にともなくおっしゃいました。


「クイーンビーって……災厄級の魔物じゃないですか!」


 どなたかが絶望し切った叫び声を上げましたが、


「緊急、緊急! クイーンビー発見! 聖女様方をお守りしろ!」


騎士団長殿はすぐ立て直し、新たな命を下します。イエッサー! と、つい魔術師だった頃の返答をしてしまいましたが、どなたのツッコミもなかったのでヨシと致しましょう。




 最早、『現場の戦闘員』の間では第二王子は「お守りする対象」ですらなかったようです。指揮官の命令が「聖女様と、クラトス殿下を」ではなかったことに対して異を唱える者は誰ひとりおりませんでした。

 皆様、死力を尽くしてやっとどうにか第二王子によって引き起こされたスタンピード対策を終えたのです。そこに災厄級ともされる巨大なクイーンビーの襲来です。もう無理、と投げ出したくなる気持ちを抑えて、皆様当然揃って良い子のお返事イエッサー! です。私もなけなしの魔力体力を振り絞り、身体強化の魔法をかけて最後方の馬車に向かって走ります。

 クイーンビーの狙いは騎士団長殿のおっしゃる通りで、やはりクラトス第二王子のようでした。結界をものともせず、ひたすら馬車を攻撃しています。

 ナターシャ様、マリア様、セシルが張っていた外側の結界は既に物理で破られ、無力な聖女様達が庇い合うようにして3人でかたまって抱き合い、怯えています。


「おい、平民聖女! 何とかしろ! オレを助けろ!」


 馬車の中から第二王子の罵声が聞こえます。馬車の内側からミランダ様とエスニャ様が必死に結界を張っている気配がしますが、災厄級の魔物の全力攻撃の前では破られるのも時間の問題でしょう。

 後方支援の弓兵隊と共にいた私は、いち早く次なる『現場』に到着致しました。身体強化で走る速度が違うのです。魔法様々です。


「皆様、ご無事で⁉︎」


 私は、馬車の外にかたまり怯えるお三方に問いました。


「ええ、わたくしたちは何とか。でも、彼が」


 震えながらも気丈に答えるナターシャ様が示す先には、第二王子付の兵が倒れておりました。私は彼の気配を探りました。猛毒を受け、体力がみるみる削られています。


「光魔法も、風魔法も、全然効かないんです! どうしたら……」


 マリア様が切々と訴えます。彼女は貴族学園で貴族の子女の嗜みとして、初級の風魔法を習得しています。セシルは怯えて泣きじゃくり、私を見るなりわんわん泣いて抱きついてきて、クイーンビーは脇目も振らずに馬車を攻撃し続けるという、ちょっとしたカオスです。


「ナターシャ様、魔力はまだ残っていまして?」


「ええ、少しは」


「では馬車に結界を。ミランダ様もエスニャ様も、もう長くは保たないでしょう」


「ええ、わかったわ」


 ナターシャ様は魔力量こそあまり多くはないものの、結界を張るのが上手です。もし聖女でなくなったとしても彼女は結界師として食べていけるのではないでしょうか、等と私は勝手に考えております。


「マリア様、セシル。あなた達は、こちらよ」


 私は倒れた兵士にひざまずき、彼女達を呼び寄せました。


「お二方には『現場』で傷病者が出た時の対処法を、実地で。マリア様、彼にはどのような処置をしまして?」


「ライトヒールかけて、効かなくて、ウィンドヒールかけて、でもそれも全然効かなくて……」


 効いていない、手応えがない、ということは判るのですね。なかなか優秀です。


「マリア様もセシルも、よく聞いて下さい。まずは、外傷の確認。これは、ありませんね。であれば、彼の『気』を探ること……」


 見習いのお二方には常々申し上げていたのですが、急場になると慌ててしまう。よくあることです。


「彼の『気』をつかめたら、よく感覚を研ぎ澄ませてみて下さい。何か、滞っている所はありませんか? 黒い靄のような、普通の『気』とは違うものがありませんか?」


 目立った傷はありません。聖女3人総出でかけた回復魔法のおかげでしょう。しかし、体内の毒は?


「……あ、わかりました! 左腕の真ん中!」

「お腹のトコにも、黒いのあります……」


 お二方ともとても優秀です。これが判るか判らないかで治療師としての価値が決まると申し上げても過言ではありません。おそらく鎧の継ぎ目の部分をあの極太の針で刺されたのでしょう、お気の毒に。


「ご名答です。お二方ともちゃんと判ってらっしゃるじゃないですか。慌てなくても大丈夫、この方は生きておられるし、『助けられる方』です」


 魔術師時代、『現場』に出ていた頃、『助けられない方』とお会いすることもありました。『助けられなかった方』も。あの悲しさ悔しさ、やるせなさは忘れません。多分、一生。 


「マリア様、ライトキュアの呪文は覚えてらっしゃいますね?」


「っ、はいっ! 毎日唱えて暗記してますっ!」


「ではマリア様はライトキュアで解毒を。左腕と、腹部に黒く滞った部分があるのは判りましたね? その周辺を重点的に、黒いのがなくなるまで続けて下さい」


「はいっ! わかりました!」


 マリア様はすぐ詠唱に入ります。そんなに慌てて早口言葉のように唱えなくても大丈夫ですよ、とツッコミ不可避な速度です。とは言え詠唱のスピードは大事です。マリア様は案外、修練次第で魔術師としてもいいところまでいくのではないでしょうか。


「セシルはライトヒールを私と一緒に。練習通りにやれば大丈夫ですよ。さ、もう泣かないで。私が参りましたよ」


「……っ、はい、はい、ファティマさま……」


「呪文は完璧、ですものね?」


「はい、あたし、えっと、わたくしも、聖女ですから! 見習いですけど……」


 こうして『平民聖女隊』3人がかりでの治療の結果、フルプレート兵こと第二王子のお付きの彼は元気に復活致しました。そして、本隊(?)も到着致しました。

 その安堵のせいでしょうか、はたまた既に限界だったのでしょうか。馬車に張った結界が破られ、クイーンビーの渾身の一撃が上空、馬車の幌上から急降下、一直線にーー馬車はクイーンビーの極太針で串刺し状態。馬車内から男女の悲鳴。馬車近くにいらしたナターシャ様は衝撃で吹き飛び気絶してしまいました。


「ナターシャ様⁉︎」「ナターシャさま!」


 ーーこのままでは人が死ぬ。


 マリア様がナターシャ様を呼びながら駆け寄り抱き起こそうとするのと、指揮官殿の攻撃命令と、私の暴走とも言える魔力の爆発とは、ほぼ同時でございました。

 ピンポイントで対象のクイーンビーのみを焼き尽くしたメガフレアは我ながら上出来だったと思います。馬車の幌に焦げ跡ひとつついておりません。幸い馬車内の方々はお怪我ひとつなく、気を失ったナターシャ様も軽い打ち身で済みました。

 この大規模戦闘で死者が出なかったのは奇跡だ、と誰もがどうにかなったと安堵に胸を撫で下ろしていたところ、第二王子のヒステリックな絶叫が響き渡りました。


「このっ……お前、余計なことしやがって! あれはオレの獲物だったんだぞ! このままじゃ兄上に勝てないじゃないか‼︎」


 平民風情がいい気になりやがって、手柄の横取り云々等と気狂いじみた叫び続ける第二王子に、誰もが、えっ? と、得体の知れないモノを見る目を向ける中、第二王子は何かに気づいたようにふっと黙り込み、やがて発狂したようにけたたましく笑い出し、鬼の首を取ったかのように嬉々として叫びました。


「お前、聖女のくせに魔法使ったな⁉︎ 魔法使って攻撃したな⁉︎ 聖女の『掟』を破ったな⁉︎ ははははは! こりゃあいい! この場の全員が証人だ! 

 ざまあみろ破戒聖女め! お前なんか母上に言いつけて追い出してやるぞ‼︎!」

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