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回想・3

「ナターシャ様、マリア様、この場はお願い致します。セシル、先輩方のおっしゃることをよく聞いて、いい子にしててね」


 私は覚悟を決めました。


「ファティマ!」「ファティマ様⁉︎」


「私は参ります。このままでは死人が出ます」


 私は自分の体ぴったりに沿うよう結界を張り、自身に身体強化の魔法をかけて、フルプレート兵士の制止を振り切り『現場』に向かって駆けました。非力な魔術師には必須なこの魔法のおかげで、普通に走るよりさらに速く走れます。駆けながら、進行方向に向かって回復魔法を連発。そして、


「さぁ、私が参りましたよ!」


何食わぬ顔で古巣の魔術師団の隊にまぎれ込み、周囲の兵に手当たり次第に治癒魔法と解毒魔法をかけました。


「ファティマちゃん⁉︎ 助かるわ!」「ファティマ、すまない。しかし君、あの『掟』ーー」


「私が『掟』を破らなくて済むよう皆様お力添えお願い致します」


 私は魔力切れ寸前の先輩に少量の私の魔力を分け与え、『掟」を気にして下さった研究畑の先輩には威力増幅の魔法をかけました。前者の彼女は魔法剣士で生粋の戦闘員ですが、後者の彼は研究員扱いで実力はあれど『現場』にはあまり出ない方でしたのに……第二王子はよくよく無理を通したものと見えます!


「近衛の方も王宮の方も、お怪我や受毒状態の方は私の近くに。一気に行きます」


 わらわらと寄ってきた兵士達をまとめて癒して毒抜いて、ついでに身体強化の魔法をかけてーーこれで戦力は立て直せました。


「聖女殿、御助力感謝する」


 王宮騎士団長が剣を振るいながらおっしゃるのにお返しで解毒魔法を差し上げて、


「残念ながら私にできることは限られております。魔法で疲れまでは取って差し上げられませんからね」


 皆様お疲れでしょうに気力体力振り絞り、無限にもという表現が過言にならなそうな羽虫の群れに対峙しています。改めて『現場』から上空を見上げれば、空は殆ど見えません。まさに、敵の数が多過ぎて空が青く見えない、黒が7、空が3、という絶望的な状況です。


「ほらキース、ぼーっとしない! おかわりあるわよっ!」

「いやもう腹一杯だよ、皇国のわんこそばじゃないんだからさあ……勘弁してくれよ」

「まぁ! お隣の国では犬さんを召し上がるのですか?」

「ファティマちゃん、今そのボケいらないから! 流石に皇国だって犬は食わない! ……多分」

「皇国ではな、延々蕎麦食わされる地獄の儀式があってだな、……」

「まぁ! お蕎麦お腹一杯まで! 素敵なおもてなしじゃないですか!」

「おかわりイラネ、ご馳走様、が許されないのは地獄だぞっ!」


 どんな絶望的な状況でもこうして軽口を叩きながら己と仲間を鼓舞し合うのは戦闘員のマナーです。不安は伝播します。不安は絶望に直結します。絶望したら負けです。『戦う人』の負けとはすなわち『死』です。

 研究畑の先輩が護符を燃やして戦い始めました。魔力温存の為でしょう。魔術師が描いた魔法陣は、属性に応じた魔力を注げば魔法陣に描いた通りの力を発揮します。魔力消費も普通に魔法を行使するよりずっと少なくて済みます。呪文の詠唱も要りません。キース先輩の卒業論文は『詠唱レスであなたも夢の魔法使いにジョブチェンジ! 呪文を魔法陣に閉じ込めて⭐︎(キラーン!)』です。『⭐︎(キラーン!)』までがタイトルだそうです。優秀な学者様のお考えは高度過ぎてよくわかりません。おふざけが過ぎるタイトルではありますが、内容自体は実践的かつ革新的なものでして、彼の論文は広く国内外で評価され、魔術師界隈ではちょっとした革命が起きました。何しろ、お隣の国こと皇国にまで主賓としてご招待されたぐらいですからね!

 神殿長はキース先輩の理論をパクリいえ拝借致しまして、聖女が作る『護符』にも取り入れるよう強要いえ指導なさるようになったとか。『キース前キース後』という表現は魔術師界隈用語なのでしょうが、『キース前』の神殿印の護符は、おまじない程度の効力しかなかったとのこと……それでも充分信者様にはありがたがられていましたが、『キース後』の『護符』の『加護』は効果覿面で、相当高額なのにも関わらず、求める方が激増したともうかがっております。神殿長はお金儲けが上手です。

 ちなみに、聖女の数あるお仕事の中で「手が空いたものがやる」とされる護符作成は主に『平民聖女隊』が受け持っております。マリア様は器用な方ですから護符作りが上手です。ご実家の商会の店舗でハンドメイドの小物等も自ら作成なされていたとおっしゃっていましたので納得です。セシルはまだ数はこなせませんが、1本1本丁寧に線を引くタイプのようでしてロスがありません。将来が楽しみです。


 と、それはさておき。


「キース先輩、護符はお幾つ残っておられて?」


「ありったけ持ってきた。地風水が8、火が12。あ、火は今1コ使ったから、11か」


 しかしファティマ、君のお嬢様言葉はまったく似合ってないよ背中がゾクゾクする、と、軽口を叩く学者肌の先輩を軽く睨んでおいて、


「では風を3、火を6、譲って下さいまし。対価は体で払います」


「ちょ……言い方! 誤解される! 誤解される!」


 次回のドサ回りでご一緒した際は強化と治癒を優先的にかけて差し上げますわ、という意味でしたが、何かおかしなことを申し上げましたかしら?


「……わかったよ。君が『掟』を守りたいならそうするしかないよな。でもコレも限りなくグレーだ、それでもいいのか?」


「ってかその聖女の『掟』とかイミフすぎでしょ⁉︎ このぐらい、ファティマちゃんならバーっと焼き払えちゃうのにさぁっ‼︎」


 私が魔力を分けて差し上げた先輩は、得物のスチレットに風魔法を付与して絶賛エコ活中でした。彼女の研究テーマは魔法剣、卒業論文は『魔法剣士の戦闘方法のうんたらかんたら』だったように記憶しています。詳細は失念致しました。


「キース先輩、ご心配なく。護符は私が使用するのではありません。リズ先輩、あなたの技、堂々とパクらせていただきますけどお許しを」


 私は最後っ屁のように先輩方に回復魔法をかけ、この場の指揮官こと王宮騎士団長に言伝し、後方支援の弓兵隊の元に急ぎました。勿論、身体強化の魔法を行使致しまして、です。

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