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回想

 そもそもの事の起こりは今朝、出発前の無茶苦茶な予定変更からでした。

 元々今日は、王都の外れに出現した瘴気の沼を浄化する為に現地に向かう予定の日ではありました。瘴気は主に水辺に発生し、人の体には毒です。放置すれば魔物の巣にもなり得ます。瘴気浄化は光魔法でしかできないとされており、まさに聖女の主要任務と言うべきものでした。

 王城や神殿のある、いわゆる『貴族街』での瘴気発生は私が知る限りではありません。ここシスティーナ王国では、神殿を中心に王都を包むように結界が張られています。聖女の力で張られた結界のおかげで王都の中心では魔物も瘴気も出現しない、というのが定説でした。

 今回も、王都とは言えど他領に近い位置でしたので、いつも通りの予定が組まれ、いつも通りの出発となるはずでした。

 主たる浄化担当はミランダ様、私はそのサポートとして見習いのセシルを連れ同行するという予定でしたので、私は日の出前には朝のお努めーー神殿と王城、貴族街を守る結界を張る為、朝・昼・夜と聖女達が交代制で祈りを捧げるのですーーを終え、『祈りの塔』を出てすぐに、てんやわんやの大騒ぎに巻き込まれました。

 何と、急遽クラトス第二王子殿下が飛び入り参加なさるとのこと……今日の今日、しかもたった今決まったという無茶振りで、神殿内は混乱を極めておりました。いつものルーティン瘴気の浄化ならいつもの面子、いつもの流れで済んだものを。気まぐれも程々になさっていただきたいものです。

 私達を守る神殿騎士団員と、瘴気あるところ常に魔物ありということで魔物との戦闘に特化した王宮騎士団プラス魔術師団。ここまではいわゆるいつもの面子です。

 第二王子が参戦ともなれば、彼を守る為に近衛騎士団もついてきます。さらに、第二王子の我がままいえご要望で、聖女は全員同行しろとのお達しでーー本日安息日だったマリア様は勿論のこと、既に学園に到着し授業中だったエスニャ様も急遽呼び戻され、神殿に聖女が誰もいなくなってしまう時間帯があるのは困る、その間に何かあったらどうするのだ、せめて今日昼の努めの予定のナターシャ様だけでも置いていってくれという主旨のことを極力マイルドな表現で神殿長が第二王子に伝えましたが無駄でした。

 たかだか近所の浄化任務に(地方遠方ばかりに出向いている私に言わせれば、王都内ならご近所扱いです)まるでこれから戦争ですかとツッコミ不可避な大所帯。出発前から既に疲労感が物凄いです。


 クラトス第二王子の焦りも理解できなくはありません。今、国内では、次代の国王の継承争いで揺れています。文武両道、魔術師としても有能で民の暮らしに気を配り、国民からの人気も高い、正妃様のご子息クラウス様を推す第一王子派と、現国王の寵愛をほしいままにする元聖女である側妃様の長男クラトス様こそ王位を継ぐべきだ、何しろ今まで国王は皆、聖女の血を引いているではないかと主張する第二王子派と。

 私自身、それらに思うところはありますが、あえて口には致しません。

 クラウス第一王子殿下は何もおっしゃいませんが、魔術学院の先輩ラウス様は、実にくだらない、と、前置きしつつ、こうおっしゃっておりました。

「王位なんて継ぎたい者が継げばいいのさ。俺は興味ないね」と。


 異母兄がそんな調子で飄々と、しかしやるべきことは淡々と成し遂げているのに対し、第二王子はどうでしょう。側妃様譲りのプラチナブロンドの巻き毛に華やかな顔立ち、青い瞳は現王と同色。見た目だけなら夢見る少女の理想の『王子様』そのものですが、いかんせん中身が伴いません。

 クラウス第一王子が瘴気浄化に視察員として同行することは多々ありましたが、そのせいで現場が混乱するということは皆無でした。むしろ、魔術剣術の心得のあるクラウス様は貴重な戦力。その上、研究員として現場で有意義なアドヴァイスを下さることもしばしばです。ちなみに『ラウス先輩』の魔導学院卒業論文のテーマは『瘴気の特性及びその発生条件』。ライフワークは『魔力量が低い者でも魔法もしくはそれに準ずる力を揮える魔道具作成』だそうです。

 クラウス殿下の場合ですと、お守りする必要も余計な気づかいも必要なく、むしろ頼もしい助っ人が来てくれたとばかりに現場の士気も上がります。魔術師は基本的に人見知りや変人が多いので(私にもその自覚は多少はあります)武闘派揃いの騎士団員の中で浮いてしまいがちなのですが、学院で馴染みのクラウス様がいて下さるととてもやり易いのです。

 そして何よりクラウス様は野営等も苦になさいません。テント設営などお手のもの、何なら自ら獲物を狩って食材現地調達のワイルドな漢飯などふるまって下さいます。美味しいものを食べさせて下さる方は、それだけで充分高ポイントです。騎士団員で第一王子に胃袋を鷲掴みにされてしまった方々を私は複数存じておりますが、そのお気持ちは重々お察し致します。何故なら私もそのひとりだからです。

 対して、異母弟クラトス第二王子は、お母様が元聖女なのですから魔法使いとしての素質はあるはずなのです。が、いかんせんご本人が努力がお嫌いな方のようでして、初級魔法すら怪しいとのこと。剣術武術は言わずもがな。せめて学術ぐらいは……と期待した方が馬鹿でした。と、同級生のエスニャ様がおっしゃるのですから本当のことでしょう。


 そして今回、初めてドサ回りいえ浄化任務にご一緒させていただいて、日頃のエスニャ様の第二王子に対する辛辣な悪口は、あれでも相当控え目な表現だったことが判明致しました。

 まず出発からバタバタで、第二王子たるオレ様が向かう視察に聖女がたった3人、しかもそのうち2人が平民とは何事だとお怒りになられ、たかだか近場の浄化に国内の全聖女(=神殿にいる私達6人です)を集結させ、ご自身は王家所有のご立派な馬車で(まさかの白馬の4頭立てです! パレードでもなさるおつもりなのでしょうか!)悠々と現場に向かわれ、無駄に多い第二王子の護衛の近衛騎士団、まさかの備えの戦闘員こと王宮騎士団+魔術師団、さらに聖女6人とその護衛たる神殿騎士団まで引き連れて……一体我々は何をしに? 戦争にでも行くのか? という物々しい編成での行軍です。

 ちなみに聖女6人は人数過多で一台の馬車には乗り切れず(護衛の方達も同乗しなければならないという危機管理上のルールなのです)、『貴族聖女隊(by.マリア様)』ことミランダ様、ナターシャ様、エスニャ様はいつものドサ回り用の神殿所有の馬車に乗り、『平民聖女隊』は戦闘員仕様の馬車の空きのある所にそれぞれバラバラに収納されました。私は古巣の魔術師団の顔馴染みの先輩方とご一緒できて、不満どころか懐かしくも嬉しい気持ちで一杯で積もる話に花を咲かせたのですが、裕福な男爵家のご令嬢マリア様は戦闘仕様の馬車に酔い現場に着くなり嘔吐され、セシルは見知らぬゴツいおじちゃん達に囲まれただただ沈黙という苦行を強いられたそうで、これまた現場に着いて私を見るなり抱きついて号泣……まったく、お二方には可哀想なことでございました。

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