最後の晩餐 〜中編〜
神が召される最期の夜、弟子達にワインを振る舞った、という記述が『聖典』にありました。
奇しくも『聖典』をなぞるかのように、最後の夜にワインで乾杯(一部、葡萄ジュースの方もいらっしゃいますが)。私は口火を切りました。
「結論から申し上げますと、私は破戒聖女として魔封じの首輪を着けられ北の辺境伯領へ追放、とのことでした」
どなたかがヒュッと息を飲みました。ピン1本を落としてもその音が大きく響き渡りそうな程の、沈黙。
私はボロボロの聖女のローブの襟を開き、首元を曝しました。何の素材かは判りませんが、クラウス殿下の手元にあった時は乳白色の石の、素朴なデザインのチョーカーのようにも見えました。
今、私からは見えません。ただ首周りが重い、というだけです。
「何て酷い……」
ナターシャ様が思わずといった風に呟き、口元を手で覆います。彼女は基本的に善人なのです。
ミランダ様は無意識に上がる息を意識して落ち着かせる仕草をなさっています。普段は冷静沈着で完璧な淑女の彼女にしては珍しいことです。ミランダ様は大きく息をつき、
「それは罪人用の首輪よ。ただ魔力を封じるだけじゃない、一目で罪人と判るよう、見せしめに着ける為のものでもあるわ。そして、一度着けたら外せない。外れるのは、罪人が死ぬ時だわ」
あら? と私は首を傾げました。クラウス殿下は、外れる、外せる方がいらっしゃる、というニュアンスのことをおっしゃってましたけど……。
「あら? じゃないわよ! ファティマあなたわかってるの⁉︎ 北の辺境伯領って、サザナミでしょ⁉︎ あそこは危険よ。結界はない、魔物はバンバン出る、『魔の森』のせいで瘴気ハンパない、しかも皇国に狙われてて国境争いで隙あらば戦争。そんなトコに魔力封じられた聖女放り出すとか、死にに行くようなモンじゃない! 王家はホント何考えてるの⁉︎」
エスニャ様は流石、元聖女である側妃様を輩出したお家の方だけあって情報通です。
「なるほど、『上』は私に死んで欲しいと思ってらっしゃるわけですね」
私は何やら腑に落ちた気が致しました。
「さもありなん、というところでしょう。私、『上』に疎まれそうなことを散々申し上げてきましたし。
エスニャ様、王家が、と、おっしゃいましたけど、『上』の……神殿の意向を無視して王家が何かしらの処分を決定するのは事実上不可能です。むしろこんな状態でクラウス殿下はよくぞここまで頑張って下さったと感謝しなければ」
「何で……何でですか! 何でファティマ様がこんな目に遭わなきゃなんないんですか⁉︎」
マリア様の目からは大粒の涙がポロポロこぼれています。
「ファティマ様は何も悪くないじゃないですか! ファティマ様が守ってくれなきゃわたし達きっとみんな死んでました! 大体、第二王子が戦えもしないのにしゃしゃってくるからそのせいでーー!」
「マリア、それ以上は駄目よ」
ミランダ様が凛として、号泣しながらまくし立てるマリア様を止めました。
『上』、すなわち神殿長の手先こと神殿騎士や巫女達が今も聞き耳を立てているかも知れません。
内輪同士、聖女間での愚痴であっても、第二王子を貶める発言をすれば、王族に対する不敬と取られてマリア様まで処罰されてしまいます。
「でも、だけどっ!」
「マリア様……」
尚も言い募ろうとするマリア様を止めようとして、しかし私は控え目に私のローブの袖を掴む存在に気付きました。隣の席で、うつむいたままのセシルの、小さな手。
「セシル?」
「ファティマさま……あたしも、っ、わたくしも一緒に、行ったらダメですか?」
「セシル……」
「ファティマさまは、あたしのきょういくがかり? で、あたしのこと、一人前のせいじょになるまでめんどう見るってゆってくれました。あたし、だから、……きたのへんきょうはくりょう? も、一緒に……」
セシルのたどたどしい申し出に、マリア様はますます号泣し、ナターシャ様ももらい泣きしています。
私は少しかがんでセシルに視線を合わせて言いました。
「セシル、それは駄目なの、できないの。私はもう聖女ではなくて、北の辺境伯領へは罪人として流されるのだから」




