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最後の晩餐 〜前編〜

 お食事中は生臭いお話は厳禁。

 と、誰が取り決めた訳でもありませんが、他愛ない話題で場をつなぐ皆様はやはり、聖女である前に貴族のご令嬢だわ、等と現実逃避気味のことを考えておりました。

 マリア様とセシル以外は皆様、自室で軽く召し上がっていたのでしょう。パンが必要だったのは、マリア様曰くの『平民聖女隊』すなわち私とマリア様、セシルだけでした。

 どういう理屈なのかは謎ですが、長い歴史の中で聖女の力=光魔法の発動は王族貴族の、それも女子ばかりで、平民はほぼいませんでした。それはこの国システィーナ王国に限らず、他国でも同様だそうです。

 ですから、セシルが発見された際には良くも悪くも国中大センセーショナルでして(聖女間でも多少は色々ありました)、せめて私は、いいえ、私達だけはセシルを守りましょうね、と『平民聖女隊』は神様に誓ったのです。……いるかどうかわかりませんけれどもね神様。少なくとも私はお会いしたことはございません。

 ミランダ様、ナターシャ様、エスニャ様にはご実家からお連れした彼女達付の侍女がおります。これまでの聖女様方もそうだったとのことでした。ですので、今代6人中3人が単品いえ本人のみで付添いナシというのは、とても珍しい事象だとのことです。


 私は貧乏子爵家の出身で、家風が熱烈な『長男教』信者のそれでした。

 全てのリソースを私の年子の弟に注ぎ込んだ結果、私の貴族学園入学金が払えないという憂き目に遭いました。貴族の子息子女は13歳から18歳までを学園で学ぶのが普通です。というより、ほぼほぼ貴族の義務です。貴族学園を卒業しなくては、貴族家の一員として認められないのですから。

 つまり私の実家は、私に対して『貴族の義務』を放棄したことになります。訴えれば勝てるでしょう。

 そしてその上、借金のカタに小金持ちの準男爵(60代)に売り飛ばされそうになったので、貴族学園への入学を諦め、魔術学院の門戸を叩きました。

 幸いにして特待生として合格致しましたのでお金の心配はなかったものの、そんな勝手をするなら出ていけ! と父に叱責され、はいはい仰せのままに、とスルフェ子爵家との縁を切りました。当時私は12歳。我ながら思い切ったものです!

 父としては、援助して下さる殿方のお家に私を嫁がせたかったのでしょうが、前述の通り貴族学園を卒業しなければ貴族の娘として認められない訳でして……浅はかというか、貧すれば鈍するというか。私を高く売りつけたいならせめて『貴族学園生』という付加価値をつけるべきでしたのに。あるいは学園で父の提示する『条件』を呑むご子息との出会いがあったかも知れませんのに。本当に目先のことしか考えられない男でした。

 そもそもが私の母が強烈な『長男教』で弟を溺愛しておりましたので、私のことはほぼ放置。私は、弟に無駄につけられた家庭教師の先生方にこっそりついでのように教えを乞いて、貴族令嬢としての最低限のマナーや学術を会得するしかなかったのです。

 弟の魔術の先生が、私に魔術学院の存在を示して下さり、試験やら申し込みやら手続きやら何やらを家族の目を盗んで全てして下さったのです。あの方には感謝してもし切れません。




 閑話休題。

 お食事後、マリア様が元気におっしゃいました。


「実家からいいワイン送ってきたんですけど皆さん飲みますか⁉︎」


 マリア様曰くの『貴族聖女隊』の方々がひっそりと、あるいは露骨に眉をひそめました。

 ミランダ様が何故か(はいここ強調!)私に目配せしてきます。あなた彼女の教育係なんでしょう何とかなさい、ということですね……そんなお役目を仰せつかった覚えはないのですけれど。ついでに申し上げますと、私だって年数で言えば充分見習いなんですけれど。


「マリア様、そこは『皆様召し上がりませんか』ですよ」


 私は、後輩の魔術師の卵達に注意する時を思い出しながら言いました。

 繰り返しますが、王族貴族は皆と申し上げても差し支えない程に『聖女』を取り込みたがっています。「平民に限りなく近い」下位貴族、いえ何なら平民そのものであってもそれは変わらないでしょう。彼女達が将来、高位貴族に嫁いだ際に困らないようにというミランダ様の配慮が透けて見えます。


「あっいっけないそうでした! で、えっと、みなさま、いかがですか?」


「いただくわ」「わたくしも」


 ミランダ様とナターシャ様がほぼ同時に。エスニャ様が、


「あたくしも飲みたいわ」


と、おっしゃるのにマリア様がすかさず、


「えーっ⁉︎ エスニャ様未成年じゃないですかダメですよ!」


「むー……クラトス様なんかそんなの全然気にしないで飲み歩いてるのにぃぃ〜……」


エスニャ様はむくれながら、何やら聞き捨てならないことを口走り、ついっ、と私に視線を寄越し、


「じゃあファティマもダメね」


「私、一応成人済です」


「ええっ、ウソぉっ⁉︎」


エスニャ様は素っ頓狂に叫びました。他の方々も同調し、まじまじと私を眺めます。どうやら私、成人しているように見えないみたいですね。


「この間、18歳になりました」


 この国での成人は18歳です。貴族学園の卒業年イコール成人です。留年退学等の特殊な事情がなければ、ですが。

 ちなみに、婚姻可能な年齢も18歳と法で定められております。つくづく実家の両親が何を考えているのかわからなくなります。とは言え、高位貴族の方々ですと、成人前に既に婚約者がいるというパターンが多いのですが。


「見えないわね……」


 ミランダ様が思わずといった風に呟きます。

 でしょうねぇ、としか申し上げられません。ただ単に面倒だからという理由だけで伸ばしっ放しのミルクティーブロンドの髪を無造作に束ね、化粧っけもなく、成長期に充分な栄養が摂れなかったせいでか「棒っきれのような(by.某神殿長)」体つき。せめて顔立ちが大人っぽければよかったのにと嘆かずにいられない母譲りの童顔に、さして珍しくもない琥珀の瞳。魔術学院時代の先輩ラウス様が初対面でいきなり「何でここにコドモがいるのさ?」と失礼なことをのたまった過去が過ぎります。もっともその頃、私は名実共に「コドモ」でしたので反論の余地はなかったのですが。


「ファティマ様って、セシルよりわたしの方が年近いんですよ! みなさん……っと、皆様知らなかった……えっと、お知りにならなかったんですか⁉︎」


「マリア様、そこは『ご存知なかったのですか』ですよ」


 私はミランダ様の圧に負け、再び訂正を入れました。お知りって……お尻じゃないのですからマリア様。

 ナターシャ様が貴婦人然としてころころ笑って、


「別に年齢を引けらかして生きている訳でなし、可愛らしいのも個性でしてよ、ファティマ。けれどあなた、お誕生日のお祝いなどご実家から届いたりはしなかったのかしら?」


 これは、貴族女性特有の皮肉かマウントでしょうか? 要は、差し入れのお裾分けはないの? と、暗にほのめかされているのでしょうか。


「魔術学園入学時に実家とは絶縁致しました」


 幾ら何でも貴族学園の入学金も払えず借金のカタに無理矢理嫁がされそうになったので苦肉の策でどうにか魔術学院に逃げました、とは言えません。


「スゴいね、子供の頃からアタシは魔術の道を行く! って決めてたワケかぁ」


 エスニャ様は銀の縦ロールをいじりながらしげしげと私を見つめ、


「あ、別に褒めてなんかないからねっ!? そりゃ光魔法だってすぐ使いこなして即戦力のハズだわとか言ってるワケじゃないからねっ⁉︎」


「ふふっ、わかっておりますわ。エスニャ様」


 エスニャ様は普段はツンツンなさっておられますのに、時折こうしてデレたりなさるのです。お可愛らしい。私はにっこり笑って言いました。


「ではエスニャ様とセシルには、私特製ブレンドのハーブティーを淹れて差し上げましょう」


「え……」「やだっ!」


 セシルもエスニャ様も、酷く嫌そうなお顔をなさいました。


「あの、あたし……じゃなくてえっとわたくし、お水でいいです……」

「あたくしも結構よ。だってあのお茶、ゲロマズなんだものっっ‼︎」

「魔力が上がるのに……」


 自分でブレンドしておいて何ですが、美味しいか美味しくないかで申し上げれば確かにゲロマズ……って嫌ですわ、お口の悪さが移ってしまいました。エスニャ様のご学友も、あまり彼女におかしな言語を吹き込まないでいただきたいものです、ねぇ、第二王子殿下?

 クラトス殿下といい実家の弟といい、今年の5回生はいわゆる魔術学院教官役の先輩方がおっしゃるところの『ハズレ年』なのでしょうか。……色々思い出したら何だかムカムカして参りましたわ。


「えーっと、ウチの商会で新しく始めた葡萄ジュースがあるんですけど。果汁100%でとーってもおいしい……」

「それ下さい!」「あたくしもそちらがいいわ!」


 マリア様の助け船に食い込むように全力で乗っかるセシルとエスニャ様に、私はがっくり肩を落としました。解せぬでございます。


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