神殿の聖女達
神殿内の食堂では、今代聖女が勢揃いしておりました。これは大変珍しいことです。
皆様一様に湯浴みもお着替えも済ませておられて、小ざっぱりとしています。ドサ回りいえ第二王子の視察も兼ねた瘴気浄化の旅装のままなのは私だけです。
「お帰りなさいファティマ……それで、どうなりまして?」
気づかわしげに第一声を発したのは、筆頭聖女のミランダ様です。
神殿に仕える聖女は総て神の娘であり平等、という建前の元、ご本人はつまびらかにしませんが、彼女はこの国の筆頭公爵家の長女です。6歳の頃に聖女として目覚めて16年、神殿のお役目と貴族学園での学びを両立なされて、次席で学園をご卒業なされたという才女です。
歴が長いだけでなく、聖女としてーー光魔法の使い手としても当代一で、王国の要とも呼ばれる程。手をかけて結い上げた赤い髪、切れ長のアイスブルーの瞳。一説には、クラウス第一王子の婚約者候補とも……すらりと背がお高く、貴婦人の鑑のようなミランダ様と、長身美男子のクラウス様は、並んだらさぞや眼福でしょう!
年齢的にも、ミランダ様が22歳、クラウス殿下は今年20歳におなりですから、丁度良いのではないでしょうか。
王家は聖女の血を取り込みたがっています。現国王ーークラウス殿下のお父上であるクラウン様も、既に正妃様との間にクラウス様をもうけていながらも、側妃として元聖女シルヴィア様を召されたぐらいです。ちなみに国王陛下は、正妃マイカ様のご子息クラウス第一王子、側妃シルヴィア様のご子息クラトス第二王子とご息女クラリス第一王女と、大変御子に恵まれました。
「お疲れ様、大変だったわね。お腹減ったでしょう? まずはお食事に致しましょうよ。お話はそれからで、ね?」
労わるようにおっしゃったのは、ナターシャ様。
茶色の艶髪を複雑な形に編み込み、所々に花飾りのピンを差し込んで……落ち着いた感じの、少しふくよかな、平均的な貴族のご令嬢、という印象のお方です。丸顔に、丸い目は緑、丸いお鼻。
これまたご本人はつまびらかにしませんが、裕福な子爵家のご出身。この間、21歳のお誕生日を迎えられ、ご実家から食べ切れない程のご馳走やらプレゼントやらが届きまして、私達もおこぼれいえご相伴に預かりました。同じ子爵家でも私が捨てたスルフェとは大分違います。
「あたくしは結構よ、もうお部屋で済ませたもの」
と、けろりと悪びれもせずおっしゃるのは、エスニャ様。
見事な銀の巻き毛を左右で高い位置にくくり、赤いリボンで飾っています。神殿の古株は、銀の巻き髪と言えば側妃シルヴィア様だそうですが、実際エスニャ様は側妃様のご実家の侯爵家……の、分家にあたる伯爵家の次女なのだとか。ご自身でおっしゃるのですからそうなのでしょう。
現在17歳、貴族学園の5回生。側妃様の第一子クラトス第二王子とは同級生で、交流もあるとのこと。やめとけば良いのに、等と無粋なことは申しません。けれど、第二王子の評判は決して芳しいものではないのですよね……そう言えば、私の実家の弟も彼女の同級生でした。思い出したら何だか腹が立って参りましたが、空腹のせいということにしておきましょう。
「ファティマ様! わたし薬膳スープ作っときました! ファティマ様のほど美味しくできたかはちょっとアレですけど」
はきはき元気におっしゃったのは、マリア様。
ご本人曰く「限りなく平民に近い」とのことですが、大きな商会を幾つも経営する男爵家のご令嬢。肩につくかつかないかぐらいの長さのブルネットで、茶瞳。大柄なのに、どことなく可愛らしく憎めない雰囲気。
聖女として目覚めたのは2年程前で、私とはほぼ同期です。てっきり同じぐらいのお年かと思いきや、マリア様は私より2歳も年上でした! 聖女としては私が数ヶ月ばかり先輩ですが、人生という観点では彼女が先輩です。世間知らずの私を笑わず馬鹿にせず、世事に通じて様々なことを教えて下さるお方です。立場としては聖女見習いというご身分ですが、器用な彼女は護符作りがとても上手です。
「ありがとうございます、マリア様」
「いえいえどうしたしまして! セシルも手伝ってくれたんですよ!」
ねっ、と、マリア様が笑いかけた先にはアッシュグレイの短髪に灰褐色の瞳の女の子、セシル。
細い体は7歳という年齢よりも幼く、少年めいた雰囲気さえあります。地図にも載らない小さな村でご両親やご兄弟と平穏に暮らしていたのに、いきなり聖女だ光だと半ば誘拐のように王都の神殿に連れて来られて可哀想に、としか思えません。セシルは聖女として目覚めてまだほんの数ヶ月。今もまた、不安げにおずおずとマリア様に頷き返すだけです。
でも私は知っています。何故か(ここ強調!)私が見習い聖女2人(マリア&セシル)の教育係として他の聖女様達より長くそばにいるので、セシルの笑顔はとても可愛らしいこと、そして、7歳・平民出身という割にはとてもとても賢くて、飲み込みが早いということを。
「ありがとうセシル、嬉しいわ。……マリア様と、セシルと、あとどなたか召し上がりたい方は?」
私は厨房に入り、訊きました。
「ええ、いただくわ」
と、ミランダ様。ナターシャ様も、
「わたくしも。そのスープをいただくと、体の調子がとってもいいの」
「味はちょーっとアレですけどね!」
マリア様が明るく混ぜ返し、まぁそうですわね、と皆で笑い合って……ええ、全く否定はできません。
「魔力の増幅と回復に特化した『薬膳』ですもの、どうしても。魔術師の定番ですのよ」
「そのファティマご自慢の『魔術』で結局、こうなっちゃったワケですけどね〜」
私にかぶせるようにおっしゃるエスニャ様の声に、しん……と、食堂が静まり返りました。
エスニャ、と、ミランダ様が咎めるように呼び、エスニャ様はぷいっと顔を背けて私と目が合いーー彼女は何とも言えない複雑な表情で目を伏せました。




