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真夜中の内緒話 〜後編〜

 私は、ナターシャ様と組んだ時のことを思い出しておりました。

 ナターシャ様とご一緒の際は、魔術師で言うところの『完全分業制』でした。浄化担当はナターシャ様、戦闘サポートは私、と。

 『掟』に縛られ戦えない聖女と言えど、戦闘サポートは多岐に亘り、負傷者受毒者の治癒回復は勿論のこと、身体強化や魔力譲渡、自分自身と浄化担当の聖女を守る結界作成等、臨機応変な働きが求められます。ある意味では、浄化作業そのものよりも『現場』をサポートする方が消耗するかも知れません。

 ナターシャ様は、ご自身にサポートの適性が無いことをよくご存知でいらっしゃいます。だからせめて皆様の足を引っ張らないように、と、常々おっしゃっておられました。


 ーー大丈夫よファティマ。わたくし、自分の分の結界ぐらいは張れますわ。それよりご自分のことに集中なさって。


「そうですわね。ナターシャ様は、そうですわね」


 ですから私達サポートメンバー+戦闘員は、後方を気にせず存分に戦えるのです。そして、露払いが済んだ後には、


 ーー皆様ありがとう。ファティマもお疲れ様だったわね。後はわたくしに任せて、しばらくおやすみなさい。


 そうおっしゃって、ナターシャ様はおひとりで瘴気の浄化に挑むのです。手こずるようなら助力を申し出ますが、大丈夫疲れてらっしゃらないの? と私(達)を気づかって、基本はおひとりで。


「でもミランダ様って基本、丸投げじゃないですか。守られてトーゼン、みたいな?」


 マリア様の言に、クッキーをもぐもぐしながらセシルがこくこく頷いています。


「そうでしょうかしら……?」


 私は、ミランダ様と飛んだ時のことを思い返してみました。

 ミランダ様には神殿長のはからいで、神殿騎士が護衛につきます。いえ勿論ナターシャ様にもついておられますが、規模が違います。ミランダ様には、ナターシャ様の3倍の神殿騎士がもれなくついてきます。筆頭公爵家の令嬢に何がしかがあっては大変だという神殿長のお心が透けて見えます。本来なら、守りの結界など必要もなさそうな編成ですがーー。


 ーーファティマ、お願いね。


と、頼まれるままに私は流れ作業のようにミランダ様(と、その護衛騎士)に結界を張り、


 ーー行ってらっしゃい、気をつけて。


と、促されるまでもなく『現場』の戦闘員のサポートに入り、露払いが済むや否や、


 ーー瘴気浄化に入ります、ファティマ、あなたも一緒に。手順はわかっているわね?


と、流れ作業のように浄化に入る……と。

 私はさして疑問にも思わず、苦にもしていませんでしたがーー。


「ファティマ様は魔術師で、魔力底ナシだからあんなムチャ振り屁でもないんでしょうけどーー」


「マリア様、屁でもないだなんてはしたなくてよ?」


「じゃあ何ですかおならでもない……ってツッコむのそこじゃなくて! 回復魔法治癒魔法ガンガンかけて、魔力切れの人に持ってけドロボー並みに魔力渡した後でーー」


「まぁ、マリア様! 魔力譲渡をマスターなさったのですね! 素晴らしい!」


「はいっ! 教育係の方がわかりやすく教えてくれたのでおかげさまで……って、そうじゃなくて! 魔力ほぼカラ、フラッフラのクッタクタの状態で、『マリア、あなたも一緒に』って浄化魔法強要とか、一体何の罰ゲームですか!」


「あぁ……」


 確かに、そのような見方もできなくはない……のかも知れません。セシルもクッキーをもしゃもしゃしながらさかんに頷いています。


「おっしゃる通り、確かにそうなのかも知れませんわね。エスニャ様との時は、どうだったかしら……」


「さぁ? わたしは組んだことありませんけど」


 マリア様は、遠慮の塊こと最後の1個の薬膳クッキーを、ぱくり、と、これまた一口で召し上がり、


「どうだったかしら? 組んだことない。それが全てじゃないですか?」


 マリア様の口調は辛辣でした。


「確かにエスニャ様は『貴族学園在学中』の名の下に、様々な免除を受けてらっしゃいますものね」


 私はその事実を知った時、自身との扱いの差に愕然としたものでした。

 私とて『聖女』として目覚めた時分は学生でしたのに『貴族学園』でなかったが為に退学を余儀なくされたのです。魔術学院の先輩ラウス様ことクラウス第一王子の働きかけにより、論文を提出することで何とか卒業扱いにしていただけましたが、色々思うところはございます。……けれど。


「けれどまさか、王命で第二王子殿下のお守りを押し付けられているとは思いもしませんでしたわ」


「ですよねー! アレはさすがにホント、ビックリしました‼︎」


 マリア様は大きな目をさらに大きく見開いて叫びます。

 クッキーなくなっちゃった……と名残惜しげにしているセシルに、また作って差し上げるわ、と言いかけ、とどまります。また、も、今度、もありません。マリア様ともセシルとも、今夜でお別れなのですから。


「あのっ、おうめい? って、何ですか?」


 セシルが尋ねるのに、私はただ微笑みを返すのみです。これからセシルを導いていくのはマリア様、あなたですよ、の意を込めて。マリア様は私の笑みの意味を汲み取って下さったようで、


「うーん、えーっと、王様の命令?」


「ざっくりし過ぎですわよマリア様……」


 それでは読んで字の如く、説明になっておりません。

 私はお二方に、システィーナ王国における『王命』について語ることに刻を費やしました。我が王国に当然法あれど、『王命』は法律を超越した権限を持つこと、そして『王命」を違えた者の末路。その処罰は時に係累にも及ぶこと、等々を。


「……と、いうわけでして、王命に背けば十中八九、毒杯を賜ることになるでしょう。聖女の『掟』もおそらくはその類。私が今回追放で済んだのは僥倖としか申し上げられませんわ」


 私の最後の言葉で涙目になったマリア様、そして、きぞくってこわい……と呟いたセシル。私もまったくもってセシルに同感です。


「でも、ファティマさまは、聖女です。神殿長や王様が、そうじゃないってゆったって……」


 セシルは眠たげな目をこすりながら言いました。


「だってここの……いのりの間のドア、開きました」


 私とマリア様はハッとして顔を見合わせました。聖女にしか開けられないとされていた扉は、私を拒みませんでした。


「セシル、あなた……」


 まったく。そういうところです! この子は本当に聡い子です。


「セシル、あなたを一人前の聖女にしてあげられなくてごめんなさいね。マリア様、あなたにすべてを押し付けてしまうこと、本当に申し訳なく思います。

 あなた方をこんな所に置き去りにしてしまうこと、それが唯一の心残りです」


 私は心から言いました。

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