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夜のお努め

 本来でしたら私は本日、朝のお努めと夜のお努めのお当番のはずでした。

 朝のお努めはゴタゴタ前に済ませておりましたが、昼のお努めのお当番のはずのナターシャ様まで『現場』に駆り出されてしまいましたから、その遅れを取り戻さなければならない夜の方は、さぞや大変なことでしょう。

 私は『祈りの塔』に足を向けました。神殿敷地内、中央にそびえ立つ小ぢんまりとした石造りの塔です。この塔を中心にぐるりと取り巻くように円形に、神殿の本館、執務館、来賓館、居住区棟、生活区棟、神殿騎士団の館に鍛錬所が設えられております。

 塔の内部はひんやりと冷たく、心なしか清浄な空気です。私は塔内部の螺旋階段を昇りました。陽が差さず、昼なお暗いこの塔内部。まして今は夜。足元がおぼつきません。せめて灯りの類を常設していただけませんか、と神殿長にお願いしたところ、贅沢言うなの一言で却下された過去が蘇ります。聖女なら光魔法初級のライトニングで自家発電せよとのお達しです。

 確かに、ライトニングも行使できないようであれば『お努め』など到底無理ですから、それはそれでこの階段は聖女としての第一関門として機能しているのかしら、と、おかしな納得を致しました。

 けれど、私達聖女はそれで何とかなりますが、清掃担当の巫女にとっては死活問題でしょうに。結局、由緒ある家の出の巫女達には「危ないから」と神殿長がお止めになり、元々『祈りの塔』の管轄は聖女だろうということで「聖女で、気づいた者が」塔の清掃も通常の任務の間にすることに落ち着きました。この場合の「気づき」は個々によって差があり、気づかない方は一生気づかないものです。結局「気づく者」は常に一定です。……えぇ、私でございます。私が気づかなければ(と申しますか、あえて気づかないフリをしていれば)ミランダ様からご指摘があります。

 地上3階程の螺旋階段を昇り切りますと、目の前はいきなり扉です。何の変哲も無さそうな木の扉は、ちゃんと開きました。聖女にしか開けられないとされている扉でしたから、もしかしたら開かないかも、と半ば博打の気持ちで開けたのですが、あっけなく開いて拍子抜けです。


『祈りの間』と呼ばれるこのフロアは円形で、床は乳白色の謎石。ほのかに発光しており、ここでは灯りの必要性を感じません。壁面の無骨な岩石とのコントラストが凄いです。

 その謎石の床の全面中央に大きな魔法陣が描かれており、さらにその真ん中に置かれたびろうど張りの台座。台座の上には人の頭程の大きさの水晶球がひとつ、置かれています。

 水晶球の前ではマリア様とセシルが一心に祈りを捧げておられます。聖女の祈りで水晶球を光の魔力で満たすことーーそれを神殿では『(朝昼夜の)お努め』と呼称しています。私はお二方のお祈りを邪魔しないよう、ひっそりと待ちました。水晶球の黄金色は、半量程。……もう少し時間がかかるようです。

 3分の2を光の魔力で埋めたところでセシルが目を開け、祈りのポーズを解きました。


「ファティマさま!」


 その声でマリア様の祈りも解かれました。


「お邪魔をしてしまいましたね、すみません」


「ファティマ様! 気づかなくてごめんなさい。いつからいたんですか⁉︎」


 びっくりしたー、と、無邪気におっしゃるマリア様に私は言いました。


「その水晶球の中身が半分程の頃からでしょうか」


 一応私とて魔術師のはしくれ、気配を消すのもそれなりに。……と申しましても私、あまりそちら方面は得手ではなかったのですけれどね。


「お祈りに集中できるのはいいことです。さ、お二方とも私に構わずお続けになって」


 水晶球を満たせばお努めは終了です。逆説的に、満たすまで彼女達は眠れない、ということです。

 私は神殿長に、未成年者で成長期のセシルはせめて夜のお努めから外していただけないかとお願いしましたが、それも容れられませんでした。セシルはまだほんの7歳、充分な睡眠が必要なお年頃ですのに。


「私もお手伝いして差し上げたいのですがーー」


 私が祈りを捧げても、水晶球の中身は変わりません。それを見たマリア様とセシルは絶句し、


「ホントに魔力、封じられちゃったんですね……」


いつになく沈んだお声のマリア様に、


「えぇ、そのようです」


とだけ返しておきます。光魔法は、という注釈がつきますが。

 セシルがまた泣き出しそうになったのに慌てて、私は言いました。


「それを確認したくてここに寄せたのですが、お二方とも最後に色々お話したいわ。残念ながらお努めのお手伝いはできませんけれど応援は致しますから」


「……っ、はいっ! セシル、さっさとやっちゃおう!」


「はい!」


 その後のお二方の集中力は凄まじいものでした。水晶球はクイーンビーの猛毒を受けた兵士の体力減ぐらいの超高速で黄金色を増し……私もこっそり『応援』させていただきましたがーー補助魔法も問題なく行使できるようです。本当に、光魔法だけを封じる首輪なんて、一体どんな原理なのでしょうか? 許されるのならこの技術についても是非とも詳しく調べてみたいものです!

 水晶球が光の魔力で満たされるのはすぐでした。やはり、2馬力だと早いですね!


「凄いです! 最短記録更新かも!」「がんばりました……」


「えぇ、えぇ、お二方ともよく頑張っておられまます。神様がご覧になっていなくとも、私は知っていますよ。マリア様もセシルも、自信を持って」


 私は心から言いました。マリア様もセシルも、下位貴族だからとか平民だからとかで『上』からスポイルされています。それが彼女達の自尊心を削っているように私には感じられるのです。お二方とも聖女としての資質は充分ですのに……『上』は貴重な『聖女』を潰したいのでしょうか?

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