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第25話 結われる髪、絡まる思惑

「……と、ここで束ねた髪に、こう……簪を差して、ぐるっと回して……」


紗世は指先で丁寧に動きを示しながら説明していた。


「そして、頭皮に対して垂直に立てた簪を――真横にして……このまま、ぐっと差します。

こうすると、簪が抜けません。」


ほお……

ほう……


小さな感嘆の声が、室内に静かに広がる。


そこは六条御息所邸の一室。

紗世は他家の女房たち数名を招き、“飾り髪の手ほどき”を行っていた。


飾り髪の依頼の文は、日に日に増えるばかりだった。

断りの返書を出しても出しても、文は途切れず――ついには対応が追いつかなくなった。


そこで出た案が、


「ならば、少しずつ教えていきましょう。」


というものだった。


だが、時は都に不穏な噂が流れる頃。

原因不明の体調不良、急に倒れる女人、生霊や呪詛の噂。


「和泉を外へ出すのは心配です。」


六条御息所はそう言い、“信用できる他家の女房のみを自邸に招く”という形での講座が決まったのだった。


(現代で言うと……セミナーだよね。)


紗世は内心でそう思いながら、事前に図入りの簡単な解説書まで作って配っていた。


「まあ……これなら、帰っても忘れずに結えそうですわ。」

「和泉殿は、教え方もお上手ですね。」

「とても分かりやすいです。」


年上の女房たちから次々とかかる言葉に、紗世は少し照れながらも、悪い気はしなかった。


ふと視線を向けると、六条御息所が、どこか誇らしげな表情でその様子を見守っていた。


「和泉殿」


一人の女房が声をかける。


「このような、見慣れぬ形の髪留めや簪は……どこで手に入るのでしょうか?」


それに紗世は少し考えてから答えた。


「私が職人に特別に頼んで作らせたものなのですが……」


女房たちの間に、ざわりとした空気が走る。


「ですが……そうですね」


紗世は微笑んで続けた。


「皆様もお使いになりたいでしょうから、私がまとめて職人に注文いたしましょう。」


「まあ……!」

「それは助かりますわ。」

「よろしいのですか?」


「はい。もちろんです。」


紗世の返答に、場は和やかな空気に包まれた。


だがその一角で、口に含みのある笑いを浮かべたまま、静かに紗世を見つめる女房が一人いた。



その夜──


「いかがでしょう、姫君?」


その女房は、今日習ってきたばかりの飾り髪を、主人である姫君に丁寧に施した。


「ふうん……。」


姫君は鏡を見つめながら、くるり、くるりと首を左右に回し、髪型を確かめる。


「確かに新しい髪型ね……でも、何か、華やかさに欠けないかしら?」


「和泉殿のお話では、華やかな飾り髪ほど難易度が高く、まずは基本から教える方針だそうです。本日習ったものは“基礎の型”とのことでした。」


「六条御息所様の飾り髪は見た?」


「拝見いたしました。他家の女房を招いていらしたので、いつもより華やかに整えておられました。

今日習った基本の飾り髪よりも複雑で、格段に美しく、雅やかでした。」


その言葉に、姫君の表情が歪む。


「……やっぱり、教えてもらうだけじゃ駄目ね。」


声が低くなる。


「和泉って女房を、連れてこなきゃ。


私は都一美しくならなければならないのよ。源氏の君に来てもらわなきゃいけないの!!」


声を荒らげ、畳を叩く。


女房は一歩下がり、静かに頷いた。


「姫君、私も同じように思います。」


「和泉殿が六条御息所邸にいる限り、六条御息所様以上に美しい飾り髪を結ってもらえることはありません。

それでは、姫君が“一番”になれませんもの。」


姫君は、苛立たしげに爪を噛みはじめる。


「……何とか……何とかして、和泉って女房を、この邸に連れてこなきゃ……っ。」


その言葉を待っていたかのように、女房の口元が、ゆっくりと歪んだ。


「姫君。

本日、和泉殿が仰っておりました。飾り髪に使う簪や髪留めは、すべて和泉殿が特別に職人へ注文する、と。」


「……だから、なんなの?」


苛立ち混じりの声。


女房は静かに続ける。


「和泉殿は六条御息所様の庇護のもと、滅多に外出なさいません。護りも堅く、他人が容易に近づけるお方ではありません。」


一拍、間を置く。


「……ですが、自らが呼んだ“職人”であれば」


姫君の目が、わずかに見開かれる。


「……油断なさると思うのです。」


「油断……?」


女房は、ゆっくりと顔を上げ、不穏な笑みを浮かべた。


「姫君……和泉殿を、この邸へお連れする“方法”がございます。」


その言葉と同時に、室内の空気が、ひたりと冷えた。


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