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第19話 末摘花リアルクローズ

時間は少し、遡る───。


「源氏の君、和泉殿より文が届いております」


惟光は、息子の惟成から受け取った文を、そのまま源氏の君へ差し出した。


「なんだろう? もう仕上がったのかな? それとも……」


そう言いながら、源氏の君は文を読み進める。


「……ふふ。どうやら和泉殿は、飾り髪だけで終わらせるつもりはないようだね。」


小さく笑い、文を畳むと、顔を上げた。


「惟光、自宅へ戻ろう。そして屋敷にある反物の中から、赤、黄、青、緑の色が明るく濃い色、淡い色、それから……青みのかかった桜色のものを、すべて出してくれるかい?」


「赤、黄、青、緑の色の明るく濃い色、そして淡い色、と、青みのかかった……桜色、ですか?」


武官寄りの惟光には、明らかに不得手な分野なのだろう。少し間の抜けた返答になる。


「和泉殿のご要望だ。きっと、末摘花を見て、何か案が浮かんだのだろう。」


すると、横で控えていた惟成が口を開いた。


「和泉殿より、伝言でございます。

飾り髪に、もうしばらく時間がかかるため、常陸宮邸へは日が沈む前頃に戻ってほしい、と。」


「わかったよ。こちらも、それくらい時間がかかりそうだ。日が沈む前に戻ると、和泉殿に伝えておくれ。」


源氏の君は、そう言って立ち上がった。



再び、末摘花邸───。


末摘花は、頬を伝う涙をそっと拭いながら、年老いた女房を見つめた。


「しの……。私の髪、どうですか?」


「ええ……ええ、姫さま……!

お美しゅうございます……!

真っ黒な髪でなければならぬなど、誰が申したのでしょう……。

こんなにも、花のように美しいのに……。」


一番の古株の女房は、末摘花以上に涙を流していた。


紗世は、その様子を、胸をなで下ろすような気持ちで見つめていた。


「確かに、真っ直ぐな黒髪が美しい、という常識はあります。

ですが、常陸宮の姫君の美しさが知れ渡れば、波打つ淡い色の髪もまた美しい、髪にはそれぞれ異なる美しさがある……そう、思われるようになるでしょう。」


「本当に……ありがとうございます。和泉殿。」


末摘花がそう言って、深く頭を下げようとした、その時だった。


「え? 何を仰っているのですか、常陸宮の姫君。」


紗世は、きょとんとした顔で言った。


「まだ、飾り髪を結っただけですよ?」


「え……?

飾り髪を結った……“だけ”、と……?」


「言いましたよね。変身させる、と。

まさか、飾り髪だけで変身完了だと、お思いではありませんよね?」


そう言って、紗世は――ぱん、と手を打った。


「女房の皆さま!

常陸宮の姫君の衣、反物、すべて!

この部屋へ運んでください!」


────


バサバサバサッ!


ドンドンドンッ!!


さすが、父君が元皇族。

衣や反物のストックは、すべて屋敷の中に揃っていた。


───が。


(……姫君の今日の装いから、なんとなく予想はしてたけど……。)


色、渋い。


小豆色、ねずみ色に茶色が混じったような色。

そんな衣ばかりが次々と運び込まれてくる。


(古風で伝統的、と言われればそうなんだけど……)


そう思っている暇はない。


「では、ここにあるものを、色別に並べ直してください。それから、それぞれ淡い色から濃い色になるように。」


女房たちが「はい」と声を揃え、衣擦れの音を立てながら忙しく動き始めた。


「あの……和泉殿。これは一体……?」


末摘花が、戸惑いがちに尋ねる。


「最初に、常陸宮の姫君はご自身のことを“醜い”と仰いましたよね。

ですが、それは――私から見れば、醜いのではなく、お召し物が姫君のお顔色を悪く見せていただけのように思うのです。」


「……私の、着ている衣が……?」


「ええ。色には、その人に合う色、合わない色があります。

合う色は顔色を明るく見せますが、合わない色は、どうしても顔色を悪く、陰鬱に見せてしまうのです。」


末摘花は、自分の衣を、まじまじと見下ろした。


「私が拝見するに……」


紗世はそう言って、近くにあった青鈍色の衣を手に取った。


「このような色は、常陸宮の姫君のお顔色を悪く見せてしまいます。」


そう言って、その衣を末摘花の胸元に当てる。


すると、しのが息をのんだ。


「……確かに。姫さまのお顔色が、少しお悪く見えます。」


次に、藤色の反物を手に取り、末摘花に当てた。


「では、こちらの色は、どのように見えますか?」


「……姫さまのお顔が、明るく見えます!」


「常陸宮の姫君のお家柄は、伝統を重んじる立派なお家柄です。

ですが、伝統色というのは、比較的……姫君には合わないお色が多いのです。」


「そうなのですね……。

伝統色であっても、自分に合わないことがあるのですね。」


気づけば、末摘花の口から卑屈な言葉は消え、興味から自然と会話が続いていた。


「そうです。

ですから――これから、姫君の衣の“選別”をいたします!」


部屋いっぱいに並べられた、色別・濃淡別の衣と反物を見渡し、


「これと、これ、それから……これ。

あ、それも」


紗世は迷いなく指を差していく。


「はい!こちらに避けた以外は、すべて片付けてください!」


女房たちは、再び大量の衣や反物を抱え、部屋を出ていった。


「……これが、すべて、私に似合う色なのですか?」


「はい。似合うはずです。」


しのが次々と衣や反物を末摘花に当てていく。


「確かに……こちらも、お顔映りがよろしい。

これも……この反物も……」


その様子を確かめると、紗世は残された衣の中から、明るい黄色、薄い桜色、そして白色の衣を選び取った。


「こちらを、重ね合わせで着てみてください」


几帳の向こうで、女房たちが末摘花の着替えを手伝う。


やがて着替え終わると、紗世は末摘花の手を取り、再び庭に面した廊下へと連れ出した。


そこへ、衣を片付けてきた女房たちが戻ってくる。


そして――末摘花の姿を目にした瞬間、足を止めた。


「……姫さま?」

「え……姫さま……!?」


驚嘆の声が、次々と漏れる。


「姫さまの周りが……明るく、輝いて見えます!」


「そ、そんなに……普段と違いますか……?」


末摘花は、扇で口元を隠しながら、控えめに言った。


「全然違います!

衣は、姫さまがお持ちのものなのに……とても明るく、華やかに見えます!」


(……とはいえ、合う色の手持ち、かなり少ないんだよね。

この組み合わせ以外、正直かなり厳しい……でも)


そこへ、来客取次ぎの女房が慌てて入ってきた。


「源氏の君が、お戻りになりました。

あの……かなり沢山のお荷物をお持ちで……。」


「はい!

その荷物はすべて、姫君のお部屋へ運んでください!」


(ないなら、あるところから貰えばいいのよ!

ナイスタイミング!瓜!!)


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