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第11話 頭中将来訪!貴公子2人の平安美の共演(?)

この日も源氏の君の来訪——

……のはずだった。


しかし、その日。

御門のあたりが、いつもより、ざわ…ざわ…している。


女房たちは声を潜めているのに、空気だけが騒がしい。

さざ波のように視線が走り、袖が揺れ、意味のない咳払いが増える。


(……多いな?)


紗世が違和感を覚えた、その直後だった。


「源氏の君、御到着でございます。

――頭中将殿もご一緒に。」


……え?


女房たちの内心が、一斉にひっくり返った音がした。

もちろん音はしない。しないが、確実にした。


「頭中将」の名前が耳に入った瞬間、紗世の思考が一気に源氏物語モードに切り替わった。


(頭中将……?


……あの?


源氏の君の、親友ポジの?)


脳内でページが高速でめくられる。


(確か、源氏の君よりちょっと軽薄……というか、現実的?

恋愛遍歴も派手で、やらかしも多くて、でも妙に人間臭くて、登場回数やたら多い人!


読者的にはわりと出番多めの、準レギュラー枠!)


——ということは。


(え、待って。実物、見れるの?


源氏の君だけでも事件なのに、頭中将までセットで来るの??


今日なに?ボーナスステージ??)


心の中では完全に祭りなのに、身体は女房として微動だにしない。


(……顔、見たい。


源氏の君が「瓜」なら、頭中将はどんな瓜……?

いや、瓜じゃない可能性もある……?)


そんなことを考えている間にも、女房たちの空気は静かに臨戦態勢に入っていく。


紗世は悟った。


(これはもう、

“頭中将回”が始まる音だ)


そして、顔を見る前からキャラを把握してしまっている自分に、ちょっと笑いそうになるのだった。




六条御息所は、すっと背筋を伸ばし、にこやかに迎え入れた。

その所作は完璧。声も落ち着いている。


だが。


(……え? なに? なんで?)


という気配が、御簾の向こうからじわじわ滲み出ている。


(……なんか可愛いな、この人)


紗世は、内心そっと思った。


やがて二人が御簾の前に進み出る。


先に口を開いたのは頭中将だった。


「突然の訪問、失礼いたします。

源氏の君がですね——

『六条御息所様のお屋敷は、屋敷も庭も、仕える女房達も素晴らしい。

そのすべてをお持ちの六条御息所様が、どれほど素晴らしい方か』

……と、まぁ、日頃から少々うるさくて。」


源氏の君は、さらりと涼しい顔をしている。


「そんなふうに言われ続けますと、ぜひ一度お目にかかりたいと思うのが人情でしょう?

無礼を承知で、同行させていただきました。」


——言い方が、上手い。


(これは……モテるわ。)


紗世は心の中で即座に判定を下した。


さて、ここで紗世は頭中将を改めて見る。


瓜ではない。

やや丸みのある輪郭。

目は奥二重で、源氏の切れ長の目とは対照的。

中肉中背で、栄養状態の良さが全身からにじみ出ている。


(……うん。金ある顔。)


派手さはないが、堅実。

隣に立つと、源氏の「天上の美」に対して、こちらは「現実世界の強者」。


まあ「天上の美」も「現実世界の強者」も平安時代基準ではあるのだが。


そして、ふと思う。


(この二人、10代半ばなんだよな……。)


並んで立つ姿は、どう見てもおっさん管理職二名。

現代でもいる。

年齢は10代なのに、なぜか「部下30人抱えてます」みたいな貫禄の人。


それが今、平安時代で、しかも勝ち組中の勝ち組。


(色んな意味で人生イージーモードだわ。)


女房達が静かに息を詰める中、源氏の君と頭中将は、何食わぬ顔で並び立つ。


——六条御息所邸

この日、情報量が多すぎる回である。


紗世は心の中で、そっとため息をついた。


(今日、長いな。)


そして同時に、

(……でも、ちょっと楽しい。)

とも思ってしまったのだった。




六条御息所の御前は、いつもよりも賑やかだった。


「このお屋敷は、いつ来ても心が整いますね。」


源氏の君が、しみじみとした声で言う。


「庭の手入れも行き届き、女房たちの立ち居振る舞いも美しい。

 やはり、主の品格が隅々にまで行き渡っているのでしょう。」


隣で、頭中将も大きく頷いた。


「ええ。

 格式がありながら、堅すぎない。

 こういう屋敷こそ“都の理想形”というものですな。」


(褒め大会、始まった。)


紗世は控えめに頭を下げつつ、心の中で拍手した。


(いいぞいいぞ。

もっと褒めて。六条御息所様は褒めて伸びるタイプ……たぶん。)


六条御息所は、御簾の向こうで静かに微笑んだ気配を見せる。


「そのように申していただけるとは。

 皆の働きのおかげでございます。」


完璧な返し。

無駄がなく、隙もない。


――と、ここで。


源氏の君が、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば……。

 最近、噂で耳にしたのですが。」


(この時代ってほんっと噂好きだよね。)


「お父上が皇族で、学問や儀礼に明るく、

 古風で格式を重んじる……まるで“由緒の塊”のようなお方がいらっしゃるそうですよ。」


(ふぅん、親は皇族なのに…由緒の塊って…褒めてんの?ディスってんの?)


「今は世を離れ、ひっそりと暮らしているとか。元は大層高貴な家柄だと聞きましたが……。」


(元は高貴なのに、今はひっそり……って……)


――その瞬間。


紗世の脳内アラームが、けたたましく鳴った。


(ちょっと待って。


父親が皇族

学問・儀礼

古風で格式

今はひっそり


……言葉選んでるけど、それ.ほぼ“落ちぶれた名門”って意味だよね!?)


隣を見ると、頭中将が一瞬だけ眉を動かし、すぐに軽く笑った。


「古風で格式、ですか。

 それはそれで立派ですが――」


そこで、ちらりと御簾の方を見る。


「私はどちらかと言えば、

 六条御息所様のように、

 格式を保ちながらも、雅やかに流行を取り入れる方が好みですな。」


(御息所様を持ち上げるのはナイス!!だけど、ちがう。元は高貴で今は落ちぶれたって、源氏物語でいたじゃん!そういうキャラ!)


「それに……。」


頭中将は、わざとらしく周囲を見回した。


「これほど美しい場所で、他家の姫の噂話をするのは、少々無粋ではありませんか。」


(そうなんだけど!無粋なんだけど!今はちょっと情報欲しい!!)


六条御息所は、少し間を置いてから、柔らかく答えた。


「いえ。私はこうして訪ねてきてくださる方々のお話で、世の中を知るような者ですので。


どのようなお話も、興味深く聞かせていただいておりますよ。」


――完全に無難。ファビュラス姉妹のようなセ言い方!そして、完璧。


(さすがです、御息所様。)


しかし。


紗世の内心は、完全に別の方向へ暴走していた。


(今の話……。


父が高貴で、今はひっそり。


それ……。もしかして……。


末摘花のことじゃない????)


脳裏に浮かぶ、源氏物語の断片。


・鼻先が赤い

・容姿がどうのこうの

・源氏が想像と違って絶句

・でも情で通い続ける


(あああああ。

 あの、容姿ボロクソに書かれてて

 読者からも同情されがちな姫……。


っていうか末摘花の話題が出てきたってことは、源氏物語はもう始まってる!?末摘花の巻は源氏物語では初期だったはず…。)


紗世は、静かに拳を握った。


(物語は確実に進んでる。御息所様が生霊になるのはまだ先だけど。


これから光源氏のプレイボーイストーリーが本格化するってことだ。


この瓜のプレイボーイっぷりで御息所様の生霊発生の有無が変わってくる!)


御簾の向こうでは、源氏の君がまだ楽しげに話そうとしている。


紗世は、心の中でそっと呟いた。


(……瓜め。御息所様が本気になる前に何とかせねば。


でも、どうやって?


御息所様が本気になる前に、瓜の興味を他へ逸らして訪問回数を減らさせるとか、瓜の幻滅、イメージダウン事件を起こすとか…?)


まだ始まったばかりの物語に紗世はぐるぐると答えの出ない危機回避プランを巡らすのだった。

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