俺の、きらきら
ーーーぶふっ!☆
先輩からの浮き玉パスを顔面で受け止めた俺は、尻もちをついて後ろに倒れた。
「ご、ごめん!大丈夫!?」
パスを出した先輩が慌てて駆け寄ってくる。
鼻が、痛い。
口の中には校庭の砂利と、血の味がする。
「鼻血出てるよ!…ああ、ほんと、ごめん!」
「おい、ダメだろ。入部したての新人にあんなボール出しちゃ」
「俺、ティッシュ取ってきます!」
「あ、それなら部室に一緒に連れてこ。そっちの方が早い」
気がつくと、周りに先輩たちや同級生が集まって、あれやこれやと言い合っている。
優しくて気のいい人たちだ。
俺がどんくさいだけなのに、こんなにも気づかってくれて。
俺は、部室に戻ってティッシュを鼻に詰めると、皆んなに礼を言って練習に戻った。☆
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
学年が一つ上がって、新学期が始まる。
周りを見れば、2、3人で話している人たちや、それよりも多い5、6人くらいのグループ、そして誰とも話さず一人きりで着席している人もいて、様々だ。
でも、誰かと話している人も、誰とも話していない人も、どこか浮ついてソワソワしているのは、皆んな同じだった。
ーーーあれ…?なんだろう…?
辺りを見回した俺は、一瞬、目に映った『誰か』が気になった。
ーーー誰、だろう?
その人は自分の後ろ、右後ろにいた。
そして、一度意識したらその人のことが気になって仕方がなくなった。
俺は、胸がドキドキしていることに気が付かないまま、それとなく右後ろに目を向けた。
ーーーあ…!☆
その人と目が合った。
きらきらと光るその瞳には、びっくりして驚いている自分の顔が映り込んでいた。
…ドクッ…ドクッ…
周りから音が消えて、自分の心臓の鼓動だけが鳴り響く。
…ドクッ…ドクッ…
俺は、右後ろに座っていたその人に、生まれて初めての恋をした。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
卒業式の3日前、放課後。
「ごめんなさい…」
彼女の瞳から、きらきらと光る大粒の涙がこぼれ落ちた。
初恋の女子に告白し、そして振られた俺は帰り道を一人、とぼとぼ歩いていた。
ーーー何やってるんだ、俺は…
俺は、後悔していた。
振られたことを後悔しているんじゃない。
それよりも彼女にあんなつらい表情をさせてしまったことが悔やまれる。
『友達のままがいい…』
彼女と知り合ってからの2年間、俺は彼女と仲良くやれていたと思う。
彼女は、よく笑う子だった。
俺はそんなに話も上手くないし、彼女の前では緊張して挙動不審みたいなこともたくさんしてしまったが、それでも彼女は俺の一挙一動を笑ってくれた。
だから、笑ってほしかった。
きらきらと輝く彼女の笑顔が大好きだった。
それなのに、泣かせてしまった。
彼女の心を、傷つけてしまった。
『……好きな人がいるの』
彼女が好きな人は、俺もよく知っている男だった。カッコよくて、話も上手で、周りにいる人たちをまとめ上げるのに長け、常に周囲を明るい気持ちにさせてくれる。
自分とは比べるのもおこがましい、同級生の憧れの的。そして、同じ男として、友人として、心から尊敬できる男だ。
だから、俺は笑顔で彼女に約束した。
これまで通り、友達でいること。
そして、友達として、彼女の恋の手助けをすることを。
『ありがとう…』
泣き顔のままだが、それでも彼女は笑ってみせた。
きらきら輝く彼女の笑顔はいつもよりも、ほんの少しだけ、きれいに見えた。☆
ーーーいかん、いかん。
彼女の笑顔を思い出すと、決心がブレてしまいそうだ。
俺は彼女の助けにならなければならない。
ーーーでも、考えてみれば悪いことばかりじゃないかもしれない。
彼女とはこれまで通り、仲のいい友達でいられるわけだし、それに好きな人の為になることができるなら、それは俺の本望なんじゃないか。
ーーーこれで、よかったんだ。
明日からは何事もなかったように登校する。
残り少ない学校生活を悔いが残らないように。
そして、彼女との約束を果たす。
下を向いてばかりはいられない。
上を向いて、歩こう。
ーーーあ……☆
大きなわた雲が目に止まった。
西陽でほんのりとオレンジ色に色づいたその雲は、薄く白んだ青空にゆったりと流れている。
ーーーきれいだなぁ…
ゆったりと流れる雲に目を奪われた俺は、歩みを止めて立ち止まった。
俺は、しばらくの間、夕焼けに染まる空を眺めていることにした。
堪えた涙が目からこぼれ落ちてしまわないように。




