007 冒険者パ-ティ
ブランディラークに入国して早一週間、首都コークの賑やかさに、俺の魂は疲労しきっていた。
連日入り乱れた多くの種族を見ていると、吐き気と眩暈が頭を縛り付け、情報収集の足枷となっていた。
とはいえ、やる事をやらなければ帰れないのも事実。
重く怠い体を引きずり、コークに置かれた冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルド。
それは、冒険者の証明証を発行、運営、管理する組織の総称で、その下にはさらに魔法使いギルド、戦士ギルド、商人ギルド、輸送ギルドなど細かく組織が分かれている。
俺が知っている時代の冒険者は、遺跡や迷宮などの踏破と解明に心血を注ぐのが仕事だったはずが、今では、運び屋、傭兵、探検家に護衛と、報酬次第でなんでも行う何でも屋と化していた。
プラタナゴで受けた商人護衛の依頼もその一つだった。
そんな現代の冒険者ギルドは、各役職の専門ギルドに専門依頼を分配し、冒険者自身に熟練度なる制度を設ける事で、適切な難易度の依頼を受けることができる仕組みが構築されていた。
誰でも適正な依頼を受け、少しでも死亡率を下げようとする仕組みであり、そして昔よりも、冒険者の危険度が上がっている何よりの証明だった。
昔であれば、都街村町周辺に現れた危険な生物の討伐は、その地域を担当する騎士が掃討していたはずだ。
しかし今は、その仕事を冒険者が担当している。その分、死にやすくなっているという事だ。
因みに俺は、魔法使いギルドの名簿に名前が載っている。
キールがそういう風に手配してくれていた。
役職は『死霊魔術師』で、剣を振るえる事は伝えてないそうだ。
言えば、面倒事に巻き込まれるだろうと予想できるからだ。
宿から出て、真直ぐにギルドへと向かう。その道中も、もちろん仕事はしなければ。
視線を右へ左へ移し、周囲の音を聞き洩らさないよう耳を立てる。
魚を売る妖猫種。
野菜を値切って購入する牛頭種。
分厚い肉切り包丁をまな板にたたきつける妖馬種が、大きな声で客を呼ぶ。
腰に短剣を二振り下げた妖兎種が、すれ違いざまにこちらをチラリと覗き見て来た。
「おい兄ちゃん」
そんな中、俺に声をかけて来たのは、金属鎧で全身を守った小鬼種だった。
背丈は子供と同じ程度だが、兜から飛び出した大きな耳と、それと同じ大きさのまん丸なお皿のような瞳は特徴的で、ここに来るまでに一緒に護衛依頼を受けたパーティの技師、パラドとそっくりな見た目だった。
「どうした。そんな顔して」
「……別に。ここには始めて来たから、物珍しくてな」
嘘ではない。
新興国家というだけに、まだまだ発展途上だろうと思っていたのが、その実、トントドールと同様の発展具合で、規模はこちらの方が広いと言う状況に、脳が情報を処理しきれなくなっていた。
「そうかい。ここは、トーマ国王が治めるブランディラークの首都コーク。ここで手に入らない物はないとまでは言わないが、まあ、大半の物は手に入ると思っていい。勿論、払うものは払わなきゃいけないがな」
兜の下で明るい笑みを見せた小鬼が、こちらを見上げ、一歩近づいてきた。
「あんたは、ここの住民なのか?」
「ああ。俺は国王様に命を救われた部族の生き残りなのさ」
「生き残り?」
「こっちに来てまだ日も浅いと見えるな。話すと長くなるが、聞くかい?」
小鬼の提案に、俺は首を傾げた。が、答えは決まっている。
「いや、それだけで十分だ。あとは自分で見て、調べてみるさ」
「ほう。中々に面白い兄ちゃんだな。俺の名前はギョーザ。よろしくな」
「ああ、よろしく」
軽く会釈して、すぐにその場を離れた。
更に数日が経過した。
分かった事は、この国の国王と住民には、キールの話の通り、種族の壁はあまり存在しないという事。
そして、共和国の名前の通り、国王トーマ・ブランディラークには、国王という役職が与えられているだけで、国の運営自体は住民が選び抜いた代表を元に行われていた。
コーク内を、気軽な服装で出歩いている国王の姿を見れば、その役職がそこまで重要ではないと言うのが嫌でもわかる。
おそらく、あの男を殺したところで、この国が傾くことはないだろう。
そして、さらに驚いたのは、これまたキールの話の通り、トーマ国王が、人種だったことだ。
全てにおいて劣る種族、人種。そんな男に、小鬼種をはじめとした様々な種族がこの地で生きていた。
まだ一か月も経っていないが、それでもこの国の異常性はある程度把握した。
全く共感できない事だけは理解した。
種族は、その名の通り原妖種から始まった。
原妖種が陸地の獣と交わり妖獣種が生まれ、海へと帰り妖海種が生まれた。
そうして分類が広く枝分かれして、その細割れした先端に位置するのが人種だ。
それぞれの種族の優劣は、寿命の長さで見るのが一般的だ。
原妖種は全ての種族の原点。それ故、寿命は一番長く、最長八千年生きた前例がある。
次に長いのが妖海種で、五〇〇年以上八〇〇年未満。
続いて妖獣種で、三〇〇年以上六〇〇年未満。
これらに比べて人種は、未だ百五十年を超えることができていない。
尤も、これだけつらつらと並べたが、俺が種族の優劣の指標にしているのは寿命ではない。
個々の能力だ。
原妖種は種族の原点。だからこそ、同族間では差が出るが、それでも多種族に劣る点は一つとしてないだろう。
妖獣種と妖海種では、生息域が異なる為に比べるのが難しいが、少なくとも人種よりも優れている。
だと言うのに、この国の住民は、誰もかれもがあのパッとしない人種に頭を垂れ、王と推し上げている。
洗脳? 催眠? 偽装? 詐称? どれもあり得る。だが同時に、それだけでここまでの国を興せるとは思えないと言う結論も出ている。
人種程度の知能で俺たち原妖種を欺くなど、不可能とは言わないが、相当の手腕が無ければ国を興すまでに至らないだろう。
「これは、もっと調べる必要があるな……」
それからは、様々な場所を見て回った。
小鬼と会ったのは、市場街と呼ばれる日用品や食料品を取り扱った屋台が多く出され、賑わいを見せる場所の一つだった。
他には、農業地区、養殖地区、開拓地区などなど。作物や家畜の他に、国の首都をこれ以上に広げようと開拓している場所もあった。
首都は勿論の事、街も村も、それぞれ背の高い壁に囲われてできている。
これは、外敵の怪物から住民を守るためだ。
首都なら石壁。小さな町や村なら、何枚にも重ねた木板の壁が聳えている。
コークも例外ではない。
石畳同様、綺麗に削り出された石材を高く積み上げ、隙間を別の素材で埋め込んだ壁が囲っている。
これ以上広げようとすれば、開拓した箇所に石壁を築き、そこから内側の古い壁を取り壊す必要がある。
だとすれば、かなりの時間が掛るだけでなく、維持管理費用が爆発的に増加する。
興したばかりの国に、そんな事が可能なのか?
「この国、ホント平和だよな」
「確かに」
探索を始めて五十日目、つまりは一か月と八日が経過した。その成果は驚きばかりで、あまり進展を感じない。
今は冒険者ギルドの運営する食堂にて、フーゴと共に食事をしていた。
フーゴたちは数日前、ここ首都コークへとやって来た。
話によれば、中立国プラタナスから依頼を受けた冒険者の一団と共に、ここに来たそうだ。
ケケロロから交易路を伸ばすための、地図作りをする一団らしい。
「だけど最近、この付近に蹄翼の混獣が棲み付いてるって話でな」
「地図作りは、その獣たちを散らさないとって事か」
「そういう事だ。ケケロロから来た一団の大半は、そっちに行ってる」
「大半は?」
赤茶の毛並みを揺らす犬の剣士フーゴは、骨付き肉にかぶり付きながら訊いてきた。
「……ダリル、お前もしかして、地下迷宮には行ってないのか?」
「地下迷宮? そういえば、そんなのもあったな」
地下迷宮。それは、俺たち原妖種ですら過去と表現するほどの昔に作られた、地下に広がる不思議な施設の総称だ。
中には金銀財宝と共に、不可思議な武器防具の他に、工具や家具なんかも眠っている。
「どうやって、ブランディラークがこんな速度で発展できたか。分かるか?」
得意げにガラス製のコップをこちらに向けるフーゴは、鋭い犬歯を覗かせて、含みのある笑みを見せた。
「地下迷宮のおかげって事か」
「ご名答」
コップの中で、澄んだ水が天井から降る照光を反射し、きらきらと輝いて見えた。
「地下迷宮には莫大な財宝が眠っているんだと。んで、残りの冒険者たちはそっちに潜ってるんだ」
「こんな場所で掘り起こせたとしても、換金はどうするんだ?」
「国が迷宮の入り口に換金所を設けて、管理してるんだ。交易路さえ作れれば、それらを他国に流せるようになるし、時間はかかるだろうけど、確実に利益にはなるだろうな」
そうはいっても、道を作るには時間がかかるし、その間の運営はどう行うつもりなのだろう。
現実的とは思えない国営方法だ。しかしもし、別経路で既に他国と取引しているのとすればどうだろう?
魔狼と怪鳥の二柱を避けられれば、物品の輸入出自体は不可能ではない。
そう考えれば、迷宮頼りでも国の運営は成り立つかもしれない。
そのためには、雄大で肥沃な地か迷宮が必要となるが、それはこの国の発展具合から考えればわかることだ。
この国の地下迷宮にはフーゴの言う通り、莫大な財宝が眠っているのだろう。
「それに、この国の地下迷宮は世界一安全だしな。正直言えば、みんなそっちに行きたいんじゃないか?」
一人考えていた俺に、フーゴはそんな事を言ってきた。
「安全? 生物が一体も出ないのか?」
長い時間放置された迷宮や遺跡には、危険な生物が巣を作っているものだが、それがないとすれば確かに安全度は跳ね上がる。
だからと言って、地下迷宮の場合、崩落や窒息の危険がまだ残っている。これらすらなければ、確かに世界一安全と言える。が、そこまでの条件が整っていれば、そこにはきっと、お宝など何も残されてはいないだろう。
盗賊や墓荒らしたちが、全て持ち去っているはずだ。
「いいや。もちろん迷宮生物は大量にいる。と言うよりも、時間の経過で生き返ってるっぽいんだよな。まあそりゃあ、こっちだって生き返れるんだから、理屈的に考えればそうなのかもだけどな」
「…………は?」
何を言っているのか、俺には分からなかった。
が、話を最後まで聞けば、納得のものだった。
「死霊魔術師なら知ってるだろ。『死者蘇生』だ」
先に言っておくと、俺のような死霊魔法の使い手は、先ず魂を観測する目を持ち合わせている。
そもそも、死霊魔法を使おうと思えば、魂の観測は必須だ。これができなければ、死霊魔法は使えない。
魂を観測し、それに近しい波長の動力源を生成するのが、死霊魔法の二段階目なのだから。
ただ、一段階目の魂の観測は、産まれながらの才能に近しいものがあるのは否定しない。
訓練でどうこうなる事は、九割八分あり得ないからだ。
とにかく、俺は一段階目も二段階目も難なく通った。
そして三段階目。
肉体に刻まれた魂の記録と、自分で作りだした動力源を繋ぎ合わせる事。これができて、初めて死体の兵士が完成する。
魂はエネルギーの塊だ。そのエネルギーの余波というのか、漏れ出たシミのようなものが、地上に残された肉体に差はあれど存在する。
そのシミを取り除くことは不可能で、これらが同調するよう調整してやる必要があるのだ。
それが、三段階目。
動力源、人造魂と、素材となる肉体の接続。
これらが難なくできるようになって初めて、死者の蘇生に挑戦する事ができる。
死者の蘇生とはすなわち、肉体から離れた魂を回収し、それが入っていた肉体に戻してやることだ。
この世界には、肉体から離れた魂が無数に中空に浮いている。
これらは何処にも行くことはできず、ただ時間の流れと共に消滅するのを待つだけだ。
その自然の流れに横槍を入れるのが、死者蘇生。
死後数日程度であれば、魂の自然消滅度合い的に、後遺症無く生き返らせることができる。
但し、これには条件がある。
先ず、肉体の損壊具合。
魂が肉体から離れると言うのは、二つを意味している。
器となる肉体が、魂を繋ぎ止め続けられないほどに損傷しているか、著しく風化しているか。
つまりは、事故、病気、あるいは戦地で死んだか、寿命で死んだかという事だ。
前者なら、先ずは肉体の修復が必要となる。
後者の場合はもう諦めるしかない。魂を戻しても、肉体が古すぎればその負荷に耐えきれずに、崩壊してしまう。
肉体の修復が済めば、次に魂の捜索だ。死んだ場所でおとなしく浮遊していればそのまま接続が行えるが、魂は、自身の行きたい場所に移動するのが基本だ。
それは故郷だったり、思い出の深いどこか別の場所だったりする。
これらの事から、死者蘇生はかなり難易度が高い。
損壊した肉体の修復自体難しいのに、魂がどこに行ったか分からないからだ。
前者をどうにかできたとしても、後者は運次第だろう。
故郷に帰っていたとして、それが死地から数日の場所かどうかで結果は変わるのだから。
「つまり、この国が所有する地下迷宮には、魂をその中に留める効果があると?」
「そういう事だ。しかも、その魂ってのは、地下迷宮の出入り口にもなってる地下一階に集まってるって話だ」
「それは……本当の話なのか?」
「俺はそう聞いた。ただ、俺には魂どうこうの話はさっぱりだからな。ダリルが直接確認してくれよ」
豊かな毛を、鋭い爪の生え手でガシガシと撫でながら、フーゴはそんな事を言ってきた。
確かにこれは、一度調べる必要があるかもしれない。
もし仮に、ここブランディラークで地下迷宮の仕組みが解明されれば、それは不老不死の生成にどの国よりも速く近づける事になるのだから。
死霊魔法の極致、それこそが不老不死。
五段階目。魂の縛りを開放し、そのエネルギーで肉体を包む事。
魂とは、無限のエネルギーを放出する事ができる永久機関らしい。そのエネルギーで肉体に自動修復を施すことができれば、そこには不老不死が完成する事になる。
言葉にすれば簡単だ。しかし、それが叶った事例はない。
原妖種の天才死霊術師が、過去に掲示したこの理論ばかりが、世界には広がっている。
「こんな不気味な国に不老不死の法が知られれば、どうなるか分からないか…………」
一人呟いていた俺の言葉は、肉のおかわりを注文していたフーゴには届かなかったらしい。
「だけどな、この事が帝国に知られれば、きっと騎士団が動くぞ」
注文を終えた犬の剣士は、こちらに視線を戻しながら冗談めかして言ってきた。
が、それは冗談などではなく事実となるだろう。
どの種族も、長命な原妖種は邪魔だと考えている。俺たちさえいなければ、もっと自由にこの世界で生きて行けるからだ。
だから種族間で手を組み、仕掛けてくる。
しかし、その考えは間違いだ。
原妖種は、ただ種の原点だからと言うだけの理由で、他の種族を支配しようとしているわけではない。
原妖種の目的は、種と世界の存続。そのために争いことすれ、世界に傷を与えるようなことはしない。
が、他の種族は違う。
奴らが争えば、争いの地となった場所が不毛の大地と化す。焦土と化す。
それをさせないために、俺たちは奴らを攻撃する。
大規模な土砂崩れを起こしたユピタも、戦後はその土を元に戻し樹木を立てて、そこに住まう生物の巣を修復していた。
巻き込まれた野生動物がいないかも、入念に確認をとっていた。
奴らは、そんなことをしない。
木を切り倒せばそのまま腐らせ、土を穿てばその穴は放置され、血溜まりと雨風によって、不浄の水のため池となる。
最悪、死体すらその場に残す。
そうして領地全体が死病の瘴気に覆われたのが、ファータ帝国の北北東に今尚残され続けている『忘れられた領土』だ。
帝国中の結界魔術師によって封鎖されたかの地は、俺が使役する死体以外に住むことができない、虚構の街ばかりが広がる、領主を失った荒れ果てた土地となっている。
自身の起こす一つ一つの行動に、中途半端な寿命しか持たない奴らは、責任を持つことができないのだ。
未来のため、子供のためと言いながら、心のどこかでは思っている。
どうせ、そのころにはもう自分は死んでるし、と。
そんな奴らを、俺たち原妖種の進化の結果だなどと認めるわけにはいかない。
そんな奴らに、この世界を託す事などできない。
だから、今の考えしか持てない奴らに不老不死の方法を知られれば、この世界は間違いなく滅ぶ。
それだけは、何がなんでも防がなければならない。
「ダリルほどの死霊魔法使いなら知ってるだろ。『原妖種の死神』って呼ばれてる、騎士団の死霊魔術師の事」
背筋がゾワリと揺れた。
フーゴの口にした『死神』とは、俺の事だ。
自分からそう言いだしたわけでは勿論ない。
ヴェントス騎士団の誰かが、そう言いだしたのだろうと見ているが、気づいたころには、その名前を消し去る事ができないほどに広がっていた。
しかし、その名が他の種族にまで広がっているなどあり得るのだろうか。
原妖種の誰かが捕まり尋問を受け、その時に話した?
少し無理のある話だ。
ならば誰が?
疑問に思う一方で、アレス団長の言葉が俺の脳裏で響いた。
すなわち、裏切り者の存在。
誰かが情報を他所に流している。
「死神様は、この前の内乱でも活躍したらしいぜ」
「……フーゴは、そんな情報をどこから手に入れてるんだ?」
いくらなんでも、話が回るのが速すぎるのではないだろうか。
「何って、新聞だけど?」
「新聞?」
「ああ。『狭ノ間新聞』って名前のやつ。あれ凄いんだよな。プラタナス国内だけじゃなくて、帝国内部のことだったり、この国の事まで書いてあんだから。一体どんな奴が作ってるんだろうな」
キールも、新聞でこの国の状況を把握しているような事を言っていた気がする。
「死神の名前も、そこに書かれてたのか?」
「ん? ああそうだ。だけど、どうした? まさかお前、新聞読んだ事ないのか? あんな面白いもの読まなきゃ損だぜ」
「そんなに簡単に買えるものなのか?」
紙もインクもダタではないだろうに、一介の冒険者程度の収入で買えるものなのだろうか。
そんなものに、国内の状況が書かれているなど狂気の沙汰だ。
情報は、使い方によっては武器になり得ると、アレス団長は言っていた。
俺にはその辺の才能はなかったから言っている意味の半分もわからなかったが、そんな俺でもわかる。
狭ノ間新聞なるものは、危険極まりない存在だ。
しかし、これで情報漏洩の線は薄くなった。そちらを探すよりも先に、不老不死の技術の鍵になり得る地下迷宮を見る方が優先度は高いだろう。
「……行ってみるか」
ボソリと呟いた俺の言葉に、食事を終えてコップの中に長い鼻先を入れながら水を飲んでいたフーゴが顔を上げた。
「一緒に行くか?」
その目は期待に満ち溢れ、椅子の上に垂らされていた尻尾がテーブルの端からチラチラ揺れているのが見えた。
「そうだな。どれだけ危険かもわからないし、そうさせてもらえるならありがたい」
「ダリルなら大歓迎だ。きっと、アメリアの奴も喜ぶ」
「……パラドに嫌われた覚えはないんだけどな」
パラドは小鬼で、背が低くて頭の回転が早い。
なるほど、二人に見えていないはずの俺の素顔を完全に見抜き、正体まで見破られている可能性は捨てきれない。
「は?」
「ん?」
しかし、フーゴは席を立ちながら、首を傾げて俺を見た。
その犬にそっくりな顔には疑問が浮かび、こちらの言葉が理解できないと示していた。
ともかく、これで次の目的地は決まった。
この国は変な事尽くしです、キール。
もしかしたら戦争になるかも知れません、アレス団長。




