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004 円卓

 マーメント領の妖羊種が、主だって起こした謀反が収束へと向かったのは、俺とアンバーがカンバ砦を守り、閑古鳥の巣に入って来た混成軍を壊滅させてすぐの事だった。


 後で聞いた話だが、ベンデラ砦の置かれた惑わしの山では、大規模な土砂崩れが起きた事により、混成軍の足並みが総崩れ。早々に後退して行ったそうだ。

 この話をアンバーと一緒に訊いた時、最初に思い浮かんだのは、人好きのする笑みを見せる一人の青年だった。


 そんなこんなで幕を閉じた今回の戦争から三か月が経過した頃、ようやく戦後処理が終わったのか、帝都トントドールの騎士団本部から呼び出しを受けた。


 帝都トントドール。それは、小高い山の峰を平らに削り作られた、ファータ帝国の都の名前である。

 緩やかな傾斜が周囲に広がるそこは、黒を強めに表した石壁が八角形にぐるりを囲い、外界とのつながりを薄めている印象を受ける。

 だからかわからないが、俺はあまりこの地に長居したいとは思わなかった。

 卑賎の生まれだからとも考えられるが、陽光を受けたその身の黒を強調している外壁を見上げていると、何か高圧的な生物にでも睨まれている気分になるのが、理由の一つなのだと思う。


 そんな高圧生物の腹の中央には、皇帝の住まいである帝城が置かれ、その周囲にも外壁をそのまま小さくした八角の城壁が守っている。


『力なき者は、この黒壁に近づくことすら叶わない』


 初代皇帝の考えが、トントドールには色濃く反映されている。

 その為、帝都に住まう種族は十割原妖種となっていて、たとえ使用人だとしても、他種族がこの石壁の内側へと足を踏み入れる事はない。

 まして、奴隷の人種を連れ入れようものなら、その行いそのものが反逆の意思有として裁かれる。


 そんな帝都の中央に置かれた帝城のほど近くに、騎士団本部は建てられている。

 だからこそ、そんな場所に行かなければならない今の俺の気分が、どれだけ沈み込んでいるのかは理解できるだろう。


「だからって、招集命令を無視すれば厳罰対象だ」

「そもそもダリル。君は今回の内乱の功労者だろう」


 両隣に並んで歩く二人の友人の言葉は、こちらを案じ評価している風だったが、その実行っているのは俺の逃亡阻止だった。

 現に両脇を固められていて、前に歩く以外の行動を阻害されていた。


「団長だって、今回の事でダリルを、正式に死霊魔術師として他騎士団に周知させて、皇帝から拝謁の機会を賜ろうとしているんだよ。なのにここで逃げれば、最悪反逆罪として捕らえられかねないよ」

「それとなダリル。今回の件での損害報告やら諸々の決済報告なんかを聞いて、俺たちがそれぞれに任されている部隊の今後を話し合わなきゃいけないだろ」


 人好きの笑みを見せるユピタと、呆れ顔でこちらを嗜めるアンバーに挟まれた俺は、きっと今にも死にそうな酷い顔をしているのだろう。


 そうして三人、帝城近くにまで来た。

 十二角形の屋根を被った二つの塔を両脇に抱える、小さな城のような見た目の建物が、正面入り口の大扉を開いて俺たちを待ち構えていた。

 ファータ帝国騎士団総本部、別名『円卓』に到着してしまった。

 芸術品を飾るにふさわしい、古い大聖堂にも似た灰白色の建物だが、その実、中には武器庫やら魔術の研究施設やらが入れられ、正面からでは決して窺うことができない中央の中庭は、ガラス張りのドームになっていてそこでは日夜、魔法魔術の研究が行われている。




「ユピタル・ジャッジマン、ダリル・ベレッタ、アンバー・バラクスス、到着しました」


 円卓の中へと入り、正面広場を横断して奥へと進んだ俺たちは、調度品が等間隔に置かれた大理石の廊下を進み、そして、両開きのウォールナットの扉の前に立った。

 数分前のことである。

 現在、拳を扉に当てたユピタが中にいるであろう重鎮たちへと声をかけ、その返事を待っていた。


「入れ」


 張られた声量はそこまで大きくないのに、不思議とよく通る底冷えする声が中から聞こえた。

 その声で紡がれた言葉は短く、誰が発したのかは顔を見る必要もない。


「失礼します」


 扉を開けて丁寧に頭を下げるユピタに続いて俺も室内に入り、その顔ぶれを見てさらに気分を下げた。


 まず目に入ったのは、弧を描いた長机の外側に腰を下ろした三人の姿。

 前回の会議の時に見た、団長の背後に控えていた騎士たちだった。

 そして、彼らが見ている方へと視線を動かせば、弧を描いた長机の内側で、円卓を囲み座した四人の団長が目に入った。


 何故、他の騎士団もここにいるのかという疑問については、至極簡単な理由がある。

 今回謀反を起こし、国内で戦争を仕掛けて来たのは、マーメント領の妖羊種だった。

 しかし、その妖羊種に手を貸した国と種族がいたのだ。

 隣国パラゴンと、その国民の妖牛種である。

 そして、彼ら妖牛種には友好を深めた他種族がいた。そう。妖猫種と妖犬種だ。

 俺がロロト平地のリンドーン砦で戦闘を行っていた頃、彼らの母国も、こちらに攻撃を仕掛けていたというそれだけの話だ。

 その対応を行ったのが、他三騎士団というわけである。


 納得したところで、団長らから視線を外して室内を流し見る。

 大講堂を思わせるこの部屋は、円卓を中心に、その外側には円を描くように置かれた机が囲み、さらにその外縁には、椅子の並んだ階段が円卓の形に沿って広がっていた。

 円卓、長机、階段席の三層構造になっている大部屋には、音すら凍らせそうな冷えた空気が張り詰められていた。


 今すぐにでも帰りたい。……駄目、ですよねぇ。

 重苦しい空気が場を支配した会議室へと歩き出したアンバーとユピタの表情は、どちらも引き締められていて、街並みを眺めながら歩いていたときの緩んだ空気は、どこにも残されてはいなかった。


「これで全員だ」


 一歩遅れて俺も室内へと入ると、アレス団長がそう言った。

 早く席に着こうと視線を向ければ、アンバーとユピタの姿は、階段席の最前列に見られた。

 俺もその隣に座ろうと、階段席に一歩近づく。

 が、よくよく見ればアンバーの席は通路に面した端で、隣にはユピタが。

 そしてユピタの隣には、既に他の団員が着席していた。

 他に席はないかと視線を彷徨わせる。


「余っている席は幾つでもある。早く席に着きなさい」


 そんな俺に助け舟を出してくれたのは、円卓の位置に座した騎士団長が一人。

 白銀の髪を後頭部で一つに結い流した麗人、フルーメ騎士団団長、ロゼリア・ヴァーミリオンだった。


 しかし、なんと返せばいい?

 視線だけでなく、返す言葉すら見失った俺だったが、そんな危機的状況においても、それだけは見逃さなかった。

 アンバーとユピタの真面目そうに引き結ばれた口端が、細やかに震えていた。

 その意味を捉えようと、思考を巡らせながら素早く周囲を見渡し、一点で目が止まる。

 アレス団長の左斜め後方、長机の外側の席。

 前回の会議で見た騎士たちも、それぞれの団長の、左斜め後ろに着いている。つまりは、そういう事だ。


 ハメられた! コレは罠だ!


 見渡し気付いたが、アレス団長の背後の階段席は全てヴェントス騎士団の騎士たちで埋まっていた。

 他の団長たちの背後の階段席には空きが見られたが、所属している騎士団ごとに分かれて席についているため、そこに座るのはしのびない。


 ……と、いうよりも、コレはそういう問いかけなのではなかろうか。

 ヴェントス騎士団の領土には空きがないのに対し、他の三騎士団の領地には空席が複数見られる。

 アレス団長からは、お前はどの騎士団の者かと試され、他の団長たちからは、こちらに乗り換えるかという引き抜きを持ちかけられている。

 俺は、誰にも気付かれないよう、こっそりとアンバーとユピタを睨んだ。

 こんなもの、どう答えようが角が立つのは目に見えてるだろ。


 逡巡の後、俺は残されている席へと体を沈ませた。


「これより、四騎士団総会議を始めます」


 ロゼリア団長の背後に控えた、名前も忘れた同期らしき騎士が音頭を取った。

 そうして始まった会議は、アンバーの言う通り、ヴィスカル領とマーメント領の間で行われた戦争と、それに乗っかり攻めてきた三カ国によりもたらされたこの国の損害についてや、騎士団の支払った必要経費など、堅苦しく興味のない話が主だった。

 


 会議が始まり二時間が経過した頃になって、ようやく一段落付いたらしい。

 尤も、戦争に巻き込まれた国民の遺族から、戦地で燃えて駄目になった牧草の一本に至るまでの賠償の話をするのだから、これで終わりという訳でもない。


『力なき者は強者にへりくだり、力ある者は命をもって、庇護下の弱者を守る事。これに反する者、何人も等しく罰する』


 ファータ帝国が建国された時に、初代皇帝が下した絶対の命令である。

 また、この命令には続きがある。


『下った弱者は、いかなる理由があれど強者には絶対の忠誠を誓う事。また強者は、庇護下に置く弱者から何物も奪ってはならない』


 例えば、弱者から搾取したい一人の男がいたとする。

 その男には多くの弱者が追従していたが、その弱者たちを虐げ攻撃する事は、初代皇帝によって禁止されていた。

 これで弱者が不当に虐げられることは防がれた。

 が、男はどうしても力を振るい益を搾取したいと渇望し、そして行動に移した。

 それは、自分とは別の強者に従う弱者から奪うこと。

 自身の庇護下に入らないのならば、敵でなくとも味方でもない。故に制限がない。

 結果起こるのは、強者同士の武力による対話だ。

 一方は自身の益のため。一方は庇護下の弱者を守るため。

 というように、国内の弱者絶対保護、強者絶対支持の構図が完成している。


 騎士は国内でも上位に入る有力者だ。故に、国民の平和と安心、幸せを守る義務がある。

 つまり何が言いたいかというと、まだまだ会議は続くという事だ。




「続いて、魔術武具についての報告です」


 損害、被害の話が終わり、次に出されたのはカンバ砦でも使われていた魔術武具の報告だった。

 この頃には、俺の眠気の登山行脚は雲間を抜けて心地よい青空の下へと飛び出していた。

 薄くなった酸素が、意識をどこかに持ち去ろうとする。


「戦地にて、魔術武具の装備および使用した妖獣種が、複数確認されました」


 騎士の説明を受け、会議室中にざわめきの声が広がった。


「静粛に! 今回の内乱の首謀者である妖羊種が使用したのは、千年前に帝国で流行った『風扇(フウセン)』という名の、突風を起こす魔術道具でした。また、後乗で攻めて来たパラゴンの妖牛種、ペリダンテの妖犬種、ダンデリオンの妖猫種の中にも、それぞれ魔術武具が確認されています」


 会議室のざわめきを方耳に通しつつ、人種が持っていたという話が出てこなかった事に、疑問とも理解とも取れない感情が渦巻いた。

 まず、人種が魔術武具を手にできるはずがない。

 魔術武具そのものは、国内外で表立って取引されている。但し、豪邸が建てられるほどの高値で。

 人種がそれだけの財を築けるはずがないと考えれば、おのずと答えは見えて来る。

 妖獣種が所有していた魔術武具を奪ったのだろう。

 だが、今度はこちらに疑問が生じる。

 人種に奪われても、そこまで騒ぎにならないほどの数を確保していた?

 ありえない。一つで豪邸が建つ魔術武具を複数用意するだけでも現実味がないのに、それを失っても騒がずにいる?

 これは、どこか陽の当たらない場所で、やりとりが行われていると見るべきだ。


「我々原妖種の中に、他国に協力している裏切者がいる」


 思考を巡らせていると、意識の向こうから重く冷たく、そして静かな声が会議室に響いた。

 ざわめきの波が急速に引いて行く。

 そして、波の中の一騎士が、これに異を唱えた。


「まさかそんな!」

「私の言葉が、信じられないと?」


 その言葉を、アレス団長は鋭い眼光と共に圧をかけてへし折った。


「今は会議中だ。発言の許可を得てから話せ」


 ヴォルド団長の活火山のような声が響く。

 それで会議室は、完全に沈黙を落とした。


「では、発言の許可を」

「許可する」


 不気味で気まずい沈黙を破り、声と手が上げたのは、背後の階段席最前列に座したアンバーだった。


「私は、閑古鳥の巣のカンバ砦にて、雷魔法を扱える魔術武器を所持した妖猫種と交戦しました」

「それだけか?」


 アレス団長の冷めた返答に、他の騎士たちが息を飲む。それを受けて平然としていたのは、俺を除いてわずか数名。

 アンバーとユピタは、勿論その中に入っていた。


「いえ。三体の妖猫種のうち、一体はその場で殺しましたが、残りの二体は生け捕りにし、尋問にて情報を吐かせました」

「そんな報告は受けていないはずだが。まさか、情報を隠したのではあるまいな」


 肩越しに振り返り、目を細めたアレス団長の新緑の瞳には、静かな怒りが湧いていた。


「いえ。少々尋問に手こずり、会議前報告書提出期限に間に合わなかったのです。私の力不足です、申し訳ありません」


 これは本当の話だろう。

 アンバーはあの時、二体の妖猫種を確かに生かしたまま捕らえていた。

 きっと、殺さずに情報を吐かせるのに苦労したのだろう。

 アンバーは手先は器用でなんでも作り出すことができる反面、こと対生物になると、力加減を間違えて殺してしまうと言う欠点があった。

 アレス団長も、それを知っているからこそ、これ以上の追言は避けているように見える。


「それで、ヴェントスの若手技師。お前は一体、どんな情報を手にしているんだ?」


 錆色の髪を全て後ろに流した巨漢、イングニット騎士団団長ヴォルド・ガンクがアンバーを見た。


「はい。彼ら曰く、魔術武具は他国からの支援物資に入っていたと証言していました」

「その証言の裏付けは」

「……私の真偽鑑定魔具のみ、です」

「そうか。他にこの場で話しておくことはあるか?」

「…………ありません」


 アンバーの作る魔術道具、通称『魔具』はどれも便利で強力だ。がしかし、バラクスス家は元は、魔法武具の作製一家。

 魔術武具しか作成できないアンバーの作品の価値を、真に理解している者は少ない。

 実祭、アンバーは血筋だけで出世したと、裏で色々と言われている。

 アレス団長ならば、アンバーの今の話だけで、この情報の信ぴょう性がどれだけ高いかは理解しているはずだ。しかし、それを他の騎士団に語って聞かせるのは難しいだろう。


「他に報告のある方はいますか?」


 無言が会議室を支配した。

 これ以上この話題を続ける利点も見えない。ここは、静観に徹するのが吉と見る。




 その後の会議は粛々と進み、最後の議題へと入った。


「次で最後、なのですが……」


 が、ここで司会進行を行っていたフルーメ騎士団の騎士が言い淀み、その一瞬の躓きで、四人の騎士団長は一体何の話なのかを即座に理解し、俺の方へと目だけを動かし見て来た。


 えっ、俺!?


「ヴェントス騎士団上級魔術師、ダリル・ベレッタの旗換えを希望する団長が三名出たため、これより旗換えの審査を行います」


 本当に急に始まったな。俺の意見は無視かよ。

 旗換えの審査。それは、特定の騎士団に所属する人員を、他の騎士団に移籍させたい時に行われる、騎士団長同士の審査会。

 こんな大勢の場でするものでは決してない。だから、俺たち一介の団員は、名前とその存在事知ってこそいるが、それそのものに参加した事も無ければ、見た事もなかった。


「ダリル・ベレッタの旗変えを望む団長に対し、同団の団員から質問を行ってください。もし、質問に対して理解できる返答を団長から聞くことができなかった場合、即座に申し出て下さい。その時点で、その団からは旗換えの権利が剥奪されます。尚、既に所属しているヴェントス騎士団にも同様の質疑応答が可能です。これにアレス団長が理解を得られる回答を述べられなかった場合、ダリル・ベレッタ上級魔術師から、ヴェントス騎士団の旗を没収、即刻この場からの退去を命じます」


 これ、本当にする意味ある?

 そんな事を考える話題の中心である俺を他所に、開始の合図とともに各席から手が次々に上げられた。


「ルークス騎士団所属、マクラ・ペーベレ」


 え? もしかして、この場にいる全員の名前を覚えてるの?

 俺の同期っぽい彼は、実は中々に優秀なのかもしれない。


「ルー団長、何故彼をルークス騎士団に引き入れようとしているのか、その理由をお聞かせください」


 まあ、当然の質問だよな。

 他の騎士の団員たちだって頷いてるし。


「死霊魔術師、即戦力」


 至極簡潔な説明に他の騎士団員は驚き、ルークス騎士団員は、何故かその説明で納得しているようだった。

 あれだけの答えで、本当に理解できてるのか。

 俺の疑問は当然他の団員も思う所だったらしく、ざわめきが階段席中から聞こえた。

 振り向けば、困ったように眉を下げて笑みを浮かべたユピタがいた。


「次の質問者は手を上げて下さい」


 審査は続く。俺の意思を無視して。


「イングニット騎士団所属、バンジャン・シリウルス」

「団長に質問します。彼の実力は、如何程ですか」


 それ、俺に訊いた方が速くない?

 なんなら、今この場で証明できるけど? ……なんで俺は、自分の価値を証明しようとしてるんだ。

 こんな場所で、こんな空気で俺の有用性がどうこう言われれば、いやでも承認欲求が湧いて出てくるという事なのだろうか。


「ロロト平地に置かれた砦を一人で死守する防衛力。敵軍を撤退にまで追い込む戦闘力。そして何より、戦地に増援を送る仲間への信愛も持ち合わせている。これ以上の人材が、今度の入団試験で出会えるか? 俺は、否と見た!」


 腕を組み、獣の咆哮を思わせる声で説明するヴォルド団長が、こちらを見てニコリと笑んだ。

 彫の深い顔でその笑みを見せられると、肉食獣が獲物を見つけて意気揚々と狩りの準備を始めているような気がして悪寒が走る。


「次の方」


 ヴォルド団長の説明を受け、質問した団員もこちらに友好的な笑みを見せて来た。

 あれで理解したらしい。

 順番的に、次はフルーメ騎士団だろうか。

 

「ヴェントス騎士団所属、フラン・キシルシム」

「はい」


 予想が外れた。

 ってか、何で所属してる騎士団員からも質問を受けなきゃいけないんだ?

 いや確かに、最初の説明でそんなようなこと言ってたけどさ。


「アレス団長。彼をこのまま、ヴェントス騎士団に席を置く理由はなんですか?」


 おい、それは一体どういう意味だ?

 ああ、いや分かってる分かってる。

 確かに俺は、部下の一人も付けてない部隊長ではある。あるけど、それは使うのが死霊魔法なんだからしょうがないでしょうが。

 生きた部下がいないってだけで、死んでる部下は大量にいるんだから。

 ざっと二万人くらい。

 妖猫種一割、妖犬種二割に、妖牛種二割。残りの四割が妖羊種で、最後の一割が原妖種。

 人種はいても利用価値がないから、わざわざ戦力にする意味がない。


「お前以上に役に立つからだ」


 端的に言ったアレス団長。しかし、それでは足りないでしょ。

 案の定、フランと呼ばれた騎士は、不満げに顔を顰めた。


「理解できません! そいつは、死体漁りに食人趣味のケダモノですよ?」


 理解できない、か。言われ慣れてるし、自分でも時々自分が分からなくなることが未だにあるから、強くは言えんね。


「アレス団長、団員からの理解を得られなかったので、ダリル。ベレッタの所属権を破棄して下さい。また、ダリル・ベレッタは即刻退室を」


 おいおいおいおい。勝手に俺を無視にするんじゃあないよ。多分同期君。

 次の就職先も見つかってないんだから、一か月ぐらいの猶予は与えてくれてもよくない?


「断る」


 同期らしき騎士の言葉を正面からバッサリと拒否したアレス団長へ、非難と怒りの眼差しが集まった。

 当然、その中には他の団長たちも含まれている。


「アミュー。この旗換えの審査は、お前からの要望に応えて質疑応答形式にしたんだ。他ならないお前からの提案だったから、俺たちは承諾した。だのになんだ、自分で決めたルールを自分で破るってのか?」


 ヴォルド団長が怒りを露わに、アレス団長を睨みつけた。

 周囲の空気が揺れて陽炎が立ち上るヴォルドに対して、空間そのものを凍り付かせそうなど冷え切った眼光で、アレス団長は対峙する。

 互いに激しい温度差で睨み合う団長を、他の二人の団長は一歩引いて静観の構えを取った。


「いいや。何も破ってはいない」

「おい、誰でもわかる嘘を平然とついてんじゃねえぞ」

「嘘などではない。今質問した者を、私はたった今、解雇処分とした。つまり、先刻の質問は無効だ」

「そんな!」


 アレス団長の言葉に、会議室にいた騎士たちが騒めき出した。そして、質問したフランと呼ばれた男は、顔面蒼白になってその場で呆然と立ちすくむ。

 静観していた二人の団長を見れば、アレス団長の言葉に眉を顰めど、口は挟まなかった。


「貴様! 自分の部下を、自ら切り落とすか!」


 当然ながら、ヴォルド団長は怒りが頂点に達していた。


「観察力も判断力も、私の騎士団に所属するには足りていないと見た。だから切る。それだけのことだ」

「ちょっと待てよ!」


 フランが声を荒げる。

 まさか自分が切られるとは思っていなかっただけに、その衝撃は大きかったらしい。


「まだそこにいたのか。お前はもう騎士ではない。さっさと立ち去れ」


 そんなフランからの反発に対し、アレス団長は見向きもせずに言い放つ。

 ヴェントス騎士団に所属している他の騎士たちは特段何も言わず静観するが、他の団の騎士たちは動揺を隠せずにいた。


「俺は、そんなケダモノよりも弱いって、そう言いたいのか!」

「この状況になって、まだその程度しか理解できないのか。やはり、お前は私の騎士団には不要だ」


 アレス団長の考えは揺るがない。

 このままいけば、おそらくは……。

 おや? もしかしなくてもこれは、フランって奴を利用しようとしてる?

 団長の恐ろしさに舌を巻いていた俺へと、殺気が向いた。

 言わずもがな、フランだ。


「お前なんかが、なんで!」


 腰に差した剣を抜いたフランが、魂を激しく揺らしながら眼前に飛び込んで来た。

 が、それでは遅い。


「プロケーラ <魂の壁>」


 死霊魔法に分類される結界魔法を唱えながら左手をかざせば、剣を振りかぶって迫ったフランは俺が展開した魔法の壁にぶつかり、そのまま大理石調の床へと落ちた。


「モンスピクルム <魂の崩壊>」


 床に転がったフランの頭を掴み、呪文を口にする。

 魂を崩壊させる即死魔法。

 心臓から魔力を通し、フランの体内へと流し込んだ。あとは魂が肉体から離れれば、事態は収束する。……はずだった。

 呪文は唱えた。魔力も流した。勿論、魂だって観測できている。が、フランの肉体の内側に存在する魂は、依然正常に、殺意に満ちた波を漂わせていた。


「そこまでよ」


 剣士と魔法使いの攻防によって静まり返った会議室に、清涼な声が響き渡る。


「それ以上は規律違反になる」


 ロゼリア団長が円卓に両肘を突き、重ねた手の甲に顎を乗せてこちらを見ていた。

 他の二人の団長もそれぞれにこちらを見て、ヴォルド団長に至っては、俺の背後に回り込んでいた。

 速い。そんなデカい図体で、なんでそんな速く動けるんだよ。

 団長という立場の彼らは、そろって生物の枠を超えている。


「これで、私の有用性は証明できたと思います」


 フランから手を離して席に座り直した俺に対して、沢山の視線が向いていた。


「旗換えの審査はこれで終了とする。異論は認めない」


 姿勢を正し、両手を叩いたロゼリア団長が、俺をじっと見つめたまま審査会の閉幕を宣言した。

 フル―メ騎士団は、審査に参加しないのか。

 まあ、ここで厄介事が長引けば、俺には不利しかない。ここは黙って従うのがいいだろう。


「ダリル・ベレッタ上級魔術師の身柄は、今後もヴェントス騎士団所属とする」

「これで会議は終了だ。皆、通常任務に戻れ」


 ロゼリア団長の言葉を引き継ぎ、アレス団長が会議の終了を宣言する。

 これでようやく、面倒事は終了だ。

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