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013 激突、過現の死霊魔術師

 玉座を中心に、半径三メリルを穿った魂爆魔法はしかし、標敵を捉えることはできなかった。

 

「挨拶もなしに攻撃って、いつからお前たちは野蛮な種族に堕ちたんだ?」


 声のした方を見れば、そこには先刻穿った玉座に座っていた子供と、その腹心が立っていた。


「挨拶ってのは、意思疎通を図ろうと相手を慮る意思がある奴らがする事だ」

「俺の気持ちは考えてくれないってのか。酷い奴だ。今日までお前がお前でいられたのは、俺のおかげだってのに」


 向かい合ってはっきりとわかる。

 子供の見た目のあれは、間違いなくマルヴェラだ。

 魂の波が二つ重なって見えるのは不可解だが、異常なまでの傲慢さは何も変わっていないと見える。

 俺、アンバー、そしてユピタには、マルヴェラとの面識はない。それでも知っている。

 魂が、奴はそういう奴だと叫んでいる。


 原妖種(フェアリー)とベルヴェラムは、種族が確立された時から争って来た。

 互いに互いの種を根絶するため、武力を掲げて暴力を振り下ろしてきた。

 故に世界はここまで荒れ果て、しかしながらに生き永らえて来た。


「流石は死なないだけの能無し種族の王だな。自分がこの世で一番だと思えるなんて羨ましいよ」

「勘違い? いいや。間違いなく、俺はこの世界で一番だ」


 朗々と言い放つ子供の前に、四つ目の鬼が一歩前へと進み出た。


「何してる? あいつは俺の獲物だ手を出すな」

「いいえ我が主よ。彼らは強い」


 腹の底から震わせているのかと思わせるほどの重低音が少年を見た。


「そうか。じゃあまずはお前らが遊んでやれ」


 興を削がれたとでも言いたげに口をへの字に曲げた少年は、瞬き一回の間に、粉々に砕かれて陥没した玉座の前へと戻っていた。

 速い。それを実感した瞬間、別の驚愕が俺を襲った。


「デフィニティオーネム・レフタンドー! <忠義は憎悪よりも危を孕む!>」


 声帯などないはずのガイコツが、拳大の宝石を嵌め込んだ長杖を片手に立てて、平坦な声で呪文を唱えた。


「今の呪文の文型って、まさか死霊魔法!」


 ユピタの驚きを含んだ声にハッと我に返った。

 呪文を聞き、思考が停止していた。


「死霊召喚魔法だ!」


 俺の言葉が反響する中、ガイコツの周囲に黒い靄が立ち上り、どこからともなく風が吹いた。

 死の臭いを含んだ嫌な風だ。

 風は靄を下から掬い上げて渦を巻き、靄を円柱にして立ち上らせる。

 その数は、優に五十を超えていた。


「召喚!?」

「まさかあのガイコツフード……トーラス・オーラスか?」


 ユピタの止まらぬ驚愕に隠れて、アンバーが何者かの名を呼んだ。

 それに応えてガイコツフード、もといトーラス・オーラスは綺麗にお辞儀をした。

 空いた左手を胸の中央に当てて頭を下げる、古風な一礼だった。


「私は、アルカム神導騎士団筆頭死霊魔術師トーラス・オーラス。今代の死霊魔術師との決闘を申し込む」


 言葉の結びと同時に円柱は霧散し、その場に揺らめくエネルギー体の人型だけを残した。

 確認したところ、六対七十五の構図が完成している。


「……めんど」

「アホ!」


 一言しか言っていないのに、アンバーに後頭部を引っ叩かれた。


「トーラス・オーラスは、歴代死霊魔術師の中でも初代に匹敵すると言われている死霊魔法の使い手だ。お前以外に相手できる奴はいないんだよ」

「って言っても、俺は死霊召喚使えないしな」


 召喚に必要なのは、生前に親交の深かった相手かつ、合意の上で契約を結んでいる場合のみ。

 死体と魂という最低条件を整えて死者を生き返らせるのと、死者の魂をそのままエネルギー体として呼び出すのとでは、難易度も消費魔力も全くの別物だという事だ。


「術者本人は無理だが、俺の影とユフィで鬼含めた死霊兵は相手できるかもしれない。トーラスはお前がどうにかしろ」


 戦いの場において、アンバーは決して弱音を吐かない男だった。

 だからこそ嫌でも伝わって来る。トーラス・オーラスという人物が、いかに危険であるのかを。


「分かった、決闘の申し出を受ける。世代交代を教えてやるよ、先輩!」


 アヴァリティアの切先を、フードを被ったガイコツへと向けて宣言する。

 不死の王の前に古代の死霊魔術師で試せるのは、正直ありがたい。それに、ここで相手の誘いを断れば、おそらく俺に向くはずだったその注意はアンバーに向くだろう。

 同じ軍勢を生み出せるのだから、その厄介さは理解できているはずだ。


「感謝する。若き術者よ」


 杖を構えたトーラスの、黒く染まった眼窩を見つめる事数秒。

 互いに魔力を練るだけで相手の動きを注視していた。


「……そちらは手勢を増やさないのか?」

「ぅぐ……」


 先制攻撃は、トーラスの精神攻撃だった。


「悪いな。俺には友人なんてもんは持ち合わせてないんだ」

「それはすまない事をした。では、詫びの印として先手は其方に譲ろう」


 杖を少し引き、自然体に戻ったトーラスの様子と魂の波長から、先の言葉は嘘ではないと分かる。が、その事実がまた腹立たしかった。


「舐めやがって」


 言っては見たが、俺とトーラスとの実力の差は確かだ。

 死霊を呼び出す召喚魔法。その数七十二体。それだけの友人がいた事にも驚きだが、問題は消費した魔力量だ。

 一体一体が団長と遜色のない死霊を呼び出して、何故まだ魔力が枯れていない?

 どれだけの魔法を保有しているのかは、原妖種の遊色瞳(アイズエフェクト)でも見なければ、早々分かるものでもない。

 しかし、あれだけの戦力を呼び出しておきながら、後ろに退かずにこうして相対している辺り、まだ使えると考えるのが自然だ。

 まさか、アイツもこの迷宮の魂を純粋なエネルギーとして変換した?

 いや、それにしてはこの迷宮に残っていた魂の数は多かった。

 だとすれば、あれは自前の保有魔力での召喚という事になり、それはそれでロゼリア団長と同じかそれ以上を示すわけで……。


「あれこれ考えていても仕方ないか。 カンデラ! <灯火で照らせ!>」


 杖の先端から捩じれた炎が波を打って体を囲う。


「エクスクラマティオ <悲鳴を上げろ>

 モルテムレクソ <死を跳ね除けろ>

 クルクス・ディッシパーレ! <罪を洗い魂は輝く!>」


 アヴァリティアを肩に担ぎ踏み込み肉薄する。

 身体中に魔法を巡らせた事で、トーラスとの距離は瞬時に縮まった。

 炎の波を引き連れ大上段から振り下ろした逆鱗の刃は、正確にトーラスの頭骨目掛けて迫る。

 が、トーラスは微動だにせず、そのままアヴァリティアの刃を受けた。


「アンタ……見た目通りのバケモノだな」

「失礼だね。これでも生前は、君と同じ原妖種だったんだけれどね」


 随分と砕けた口調になってはいたが、トーラスは頭部に斧の刃を乗せたまま、杖の頭をこちらに向けて来た。

 魔法が来る。何だ? この近距離で考えられるのは、壊魂、魂縛、霊憑辺りか。

 呪い除けを掛けているとはいえ、受けるのは得策じゃない。

 思わず下から蹴り上げて杖の向きを変えた。しかし、嫌な予感は消えない。

 そもそも、肉体強化を施した蹴り上げに対して、姿勢を崩す事なく杖だけが上を向いているのはどういう事だ?

 まさかとは思うが、素の身体機能だなんて言わないよな。

 

「マルム・ワンデ・トゥロー <退きなさい>」


 正面から透明な壁を押しつけられたかのような圧力を感じる。次いで、耳元を走り抜ける風の音。

 背中から伝わった衝撃で、捉えていたはずのトーラスの姿がぼやけて見えた。


 予想が全部外れた。

 そもそも、死霊魔法ですらなかった。

 後退魔法。つまりは相手との距離を離すためだけの汎用魔法。

 本当に汎用魔法、なんだよな……。

 だとすれば、それはそれでおかしい。

 何で俺は、後退魔法で吹き飛ばされて、石英の柱にめり込んでいるんだ?

 呼吸ができない。内臓が骨ごと押しつぶされたかのように悲鳴を上げていた。


「この程度か。それで我が主を殺せると、本気で思っているのか?」


 気づけば、トーラスは目の前に来ていた。

 どうやって移動している?

 魔法使いらしいローブで全身を隠しているとはいえ、その体が骨でできているのは顔を見れば、何となく分かる。だとすれば、走るだけの筋肉など残ってはいないはずだろ。

 ぐるぐると回る視界の中で、トーラスの声も幾重にも反響して聞こえて来る。


「やはり、無理か……」


 どうしてだろう。マルヴェルに従っているはずの先輩術師から、哀しみとも怒りとも取れる波長が見える。


「先輩。アンタ本当は、あの厄種を殺したいんじゃないのか」


 マルヴェルの気配は、あの玉座の置かれていた場所から動いてはいない。そこから離れた場所に吹き飛ばしたのは、こうして話したいことがあったからじゃないのか。

 だとすれば、考えられるのはただ一つ。

 マルヴェルの殺害。


「笑わせる。殺す殺さないの話以前をしなければならない状況にいるのにか?」

「…………ああ、そういう」


 一瞬、何を言われているのか分からなかった。が、考えれば分かる。

 俺では役不足。そう言いたいのだろう。

 魔力量も死霊魔法も、先輩には遠く及ばない。そんな俺が、どうやってあの不死の王を殺すというのか。

 何も知らなければ、ただの死にたがりの一行が飛び込んで来たとしか思っていないのだろう。


「だけどな、それを教えるには、もうちょっと確かめたい事がるんだ」


 視界が戻って来た。

 練り上げた魔力をアヴァリティアに移すのも完了している。


「マリティス・テクタス <悪意は消えない>」


 長い呪文故、簡単に阻止されるし避けられる。しかしそれは、相手が俺と同格か格下に限った話だ。


「セクト・ディビオン <それを切り開けるのは>」


 トーラスは、目の前にいる死霊魔術師の先輩は、俺を敵とすら認識していない。だから、これを唱え終えること自体は簡単だ。


「ナティヴィータニア<新たな悪意の魂成り>」


 問題は、同じ死霊魔法の文型を理解している事だ。

 この呪文だって、先輩は知っているし対処は可能だ。


「マリティア・コンタギオーサ! <故に、悪意は滅びる事非ず!>」


 アヴェリティアを横薙ぎに振るった軌道に沿って、俺が練り上げた魔力を混ぜ込んだ魂を放出する。

 魂は崩壊し、魔力に溶け込み無数の刃となって、トーラスへと殺到する。


「これは……外道を、自ら歩むとは…………」


 トーラスの声は、飛来する汚染された魂の刃によって切り刻まれた。

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