012 開戦の一撃
戦の始まりとしては文句のない快晴の空の下、俺は俺の部隊の最高戦力を率いて空を飛んでいた。
「ここまでくれば、もうマスクは必要ないな」
「いいや。戦中は身分を隠すために付けていてくれ」
隣から聞こえた安堵を含んだ声に、俺は間髪入れずに返した。
「まだたったの三十年だ。覚えてる奴は覚えてるから気を付けろ」
長命種の面倒な部分だなと思いつつ、そうでなければ今頃ベルヴェラムにこの世界は乗っ取られていると考えれば、それも仕方がない。
すべてはあの不死種たちのせいなのだ。
「団長は本当に俺たちに迷宮攻略を命じたのか?」
ユピタが呆れと共にこちらを見た。
「ああ。あの迷宮をどうにかすれば、それだけで戦争する意味もなくなるからってさ」
文字通り、この部隊は死兵なのだから、騎士団から見ればなんの損失もないということだろう。
「ベルベットは入れられないぞ」
「無理やり入り口広げるのは駄目?」
「運が良くて、首都が壊滅する程度で済むね」
アンバーからの意見に俺が冗談を言い、ユピタが的確に現実を突きつける。
いつもの流れだ。
だが、作戦はすでに決まっている。
「迷宮の入り口って、あの国の首都のど真ん中にあるんだ」
「だから?」
「そこに、ベルちゃんを突っ込ませる」
「は?」
腐爛竜ベルベット。
四つの紫水晶を思わせる瞳を持つ蜥蜴の頭に、同じく爬虫類系の上半身。その背中には、蝙蝠のような翼膜が張られた一対の翼が生えている。
対して下半身は足が無く、鱗に守られた五本の尻尾がそれぞれ自由に揺れている。
発見はそこそこ昔の大体六百年とかそれくらい前で、場所は帝国内の山岳地帯だった。
常に瘴気を纏った不浄の竜は、山一つを丸ごと枯らして棲家にしていた。
自身の肉体すら変容させる汚染能力は、その場にいるだけで草木一本生えない命亡き領域を作り出す。
帝国は周辺地域への影響を鑑みて、これの討伐を決めた。
当時の討伐作戦には、俺たちも参加した。
が、戦果は殆どを各団長とその補佐官騎士に取られてしまい、俺たちの活躍は戦後にしか残っていなかった。
死体処理に、倒壊した家屋から逃げ遅れた住民の救助。避難所の設置などなど。
そんな事ばかりしていれば、気分転換が欲しくなるのも当然だろう。
遊び半分本気半分で不浄の竜の死体に近づき、その巨体に残っていた魂の波長を調べて人造魂を作成。そこまでは難なくできたために、ダメもとで同調作業にまで手を伸ばした。
で、腐爛竜ベルベットが生まれたって訳である。
ちなみに、ベルからは幾つか鱗を頂いている。それらを加工して俺たち用の装備にしたのがアンバーだった。
そんな俺たちの自由行動の裏では、ユピタは汚染された地域の浄化作業を不眠不休で行っていたと、後になって言われた。
あの時のユピタの笑みはいつもの人好きの笑みとは異なり、こちらに恐怖を植え付ける静かな怒りを宿していた。
「……本気で言ってんのか?」
「確かに常時の戦争ならこんな事はしない方がいいんだろうけど、俺たちの目的は迷宮の攻略とマルヴェラの殺害だ。迷宮が避難所にされるのは困るんだよ」
外敵から逃れる方法は二つ。
空か地下か。そして、ブランディラークには広大な地下が存在する。
なれば、選択は一つだ。
万が一にも防壁を破壊されれば、ペルトぺス迷宮の一階層を避難所にするつもりなのだろう。
一階層が地下街風に改装されているのが許されていたのは、そのためだったらしい。
「確かに。これ以上あの迷宮に人を入れるべきじゃないね。今でこそ自由に出入りできるけど、昔は外に出た瞬間に死ぬように設定してたんだから」
それは知らなかった。
え? あの迷宮に一度入ったけど、もしかして死んでたかもしれないの?
「……とにかく、前から攻められ後ろを絶たれれば、必然的にあの国は打って出るしかなくなるって事だ」
「だからって、こいつを首都のど真ん中に落とすって……」
ユピタに続き、アンバーからの理解も得られた。
なんだか眉間に皺を寄せている気もするが、マスクでよく見えないしきっと気のせいだろう。
まあ、マスクで隠されているのは中から下なんだけど。
「それに、もう作戦変更も時間もないからな」
眼下に広がるは、ブランディラーク共和国。
二柱の精霊獣の領土を越えた俺たちは、目標地点へと近づいていた。
「それにしても、戦争相手だとしても同情するよ。急に竜が現れたと思えば首都の中央を占領されて、討伐しようにもその竜には弱点がないんだから」
ユピタの言う通り、今のベルには竜の弱点となる胸部から生えた逆鱗が存在しない。
俺がアンバーに頼んで武器にしたからだ。
そして、体中から極少量頂いた通常の鱗たちは、俺たちの手元に現在握られている。
ユピタが腰に差した波打った刃の片手斧と片刃の片手剣。そして指揮棒程度の長さの短杖は、一枚の鱗から作られたユピタ用の武器で、近距離では斧と剣、中遠距離は土壌魔法でカバーするといった立ち回りを可能にしている。
このユピタの武器、俺が少しアンバーに無茶を言った事で、二つの近距離武器の連結が可能になっている。
斧と剣が合体して一振りの大振りな剣になる。そんなロマンを追い求めるのは、決して悪くはないはずだ。……ユピタ自身、それを使っているのを見た事がないことを除けば。
対してアンバーは、ベルの鱗を二、三枚持って行った。
それほどの素材で一体何を作るのかと思えば、魔術を付与した左右一対の手甲だった。二の腕までを覆う刺々しいその武器は、魔術技師らしからぬ肉弾戦を好むアンバーらしいといえばらしかった。
影を使って手勢を増やしながら、それらに紛れて殴り込みに行く彼の背中は大変頼もしいが、それが対面に回ればそれは恐怖へと一転する。
そんな二人と比べれば、俺の戦い方は理にかなっている。
ただ、武器の作りがおかしいだけだ。
正式名称『長杖戦鎚斧アヴァリティア』。
魔術で強度を限界にまで上げた魔鋼の両手戦鎚に、逆鱗を加工して作った片刃を取り付けた三種の複合武器。
三人で考案した後、試作、実験、改良を繰り返した結果生まれたこの武器は、通称『馬鹿の三種盛り』と呼ばれていて、三人の中でまともに扱えたのが俺だったがためにこうして握っている。
他にも、俺の部下である死兵たちにも、それぞれにアンバーの準備した武具を装備させてベルの背中に乗せて運んでいる。
今回俺たちに課せられているのは、ペルトペス迷宮の攻略。その為のメンバーは少数精鋭に絞り、速攻性を重視した。
俺、アンバー、ユピタの三人の生者に、治癒術師のアリス。大楯を構えながらも素早く動ける元聖騎士のフリット・ウォズ。そして、支援魔法の使い手だったメリダ・アバフォールの死兵三人の計六人パーティだ。
「見ろダリル。ガーリッヒが率いてる先発部隊だ」
アンバーの言う通り、コークの防壁付近から騒ぎの声が聞こえる。それもただの小競り合い程度のものではなく、何度も耳にした戦場で聞く断末魔が混じった叫び声だった。
「もうここまで攻め込んでるとはな」
「少し様子見だね」
「俺の部下を貸し出してるから戦力差はあるはず……なんだけどな」
近づいて来た戦場を見下ろせば、俺が貸し出した死兵は一人も見当たらず、戦場を駆け回っているのは全員が完全武装した原妖種の騎士たちだった。
「内乱だったらいざ知らず、国の外で戦争を始めるんだ。体裁や外聞があるんだろ。あいつはそういうのにうるさいからな」
ガーリッヒと呼ばれていた男は記憶にないが、アンバーの口ぶりからして知り合ってはいるはずだ。
まあ、覚えていないという事は、それだけ特筆する能力が何もなかったって事だろう。
そもそも、あれだけの戦力を貸したはずが、戦力差で圧倒できない指揮官など、記憶するだけ無駄だ。
「これは、しばらくかかるかもしれないね」
ユピタからも珍しく呆れの空気が流れ出ている。それくらい馬鹿な事をしているという事だ。
「……ついでに指揮官も死んでくれないかな」
「心の声が漏れてんぞ」
「おっと」
ついつい考えていた事が口をついて出てしまった。
「俺たちの目的はあくまで迷宮内だ。外の事は、他の部隊と騎士団がやるはずだ」
アンバーの言わんとする意味を察した俺は、ベルに高度を下げさせながらの進行を再開させた。
「んじゃ行くか!」
防壁を越えれば、中央区画はもう目と鼻の先だ。
ベルの巨体がゆっくりと、しかし確実に首都コークへと迫る。
ベルの強靭なお腹に、教会の飛び出た屋根が掠って過ぎる。
「これ、このまま乗ってると俺たちも巻き込まれないか?」
「じゃあ飛び降りるか?」
「流石にこの高さは魔法を使わなきゃ危ないよ」
西区画の住民の居住区を通り過ぎた頃には、ベルの体の腹部は建物を押しつぶし始めていた。
振動が背中に乗っている俺たちにも来ているのだから、ベル本人、本竜? に痛覚があればくすぐったいくらいには感じていたのかもしれない。
「丁度あの建物なら飛び移れるんじゃないか」
「あれは研究所? 何の……って、魔術武具の研究だろうなぁ。あの中には、迷宮で見つかった武具が保管されてるよな?」
「だろうね。迷宮の入り口の近くにあるんだから、それ以外に研究する物もないでしょ」
中には、迷宮から持ち出した魔術武具がたんまりとたくわえられていそうだが、それらを回収している暇はない。
ベルが守ってくれている間に、持ち出されない事を祈るしかないだろう。
そんな事を考えていたら、足元が急にガクッと下がった。
視線を下げれば、ベルが特攻の姿勢に入っている。
研究所のすぐ近くには迷宮を管理する受付所の建物が。アレに向かって、ベルは体を傾けていた。
振り返ってみれば、ベルが通った場所は一本の道となって。斜めに削れている。このまま突っ込めば、どれだけの魂が飛び出して来るのやら。考えるだけで頭が痛くなる。
が、それも今回の作戦においては重要だ。覚悟を決めねば。
「それじゃあベル。俺たちが迷宮から出るまで守っててくれ」
立ち上る土煙の中に飛び込んだ俺は、かつて兵士に止められた受付所跡地に着地した。
角に削った石材を積み重ねただけの簡素な建物の姿はどこにもなく、足元には迷宮へと続く階段があるだけ。
ベルが上体を持ち上げると、五本ある尻尾と一本の管のようになった下半身を動かし円を描く。
これで外から中央広場に入るのは難しいし、外に出るのは不可能となった。問題なのは迷宮内の冒険者だが、それはぶつかったときにでも考えればいいだろ。
アンバーとユピタが先頭を進んで階段を下りて行く中、俺は振り返ってコークの空を見上げる。
表現するのならば、瞳の上にかかった薄膜だろうか。
魂を観測する時の俺の感覚としては、もう一枚の瞼を開いてそれを見る感覚がある。
そう。魂の観測は、常時行うものではない。
この世界に浮かぶ魂は無数に存在する。そんな大量の波を常に観測していては目がつぶされてしまう。
だから俺は、魔法を使う時と相手の真偽を確かめるときくらいにしか観測しないようにしている。
瞳に張り付いていたもう一枚の瞼を開けば、上空には快晴の空を隠す荒波が広がっていた。
ざっと、三百後半の数の魂だ。
混合杖を掲げて呪文を唱えた俺は、それらの荒波を引き連れ階段に足を乗せた。
ペルトぺス迷宮第一階層。
剥き出しの地面に敷き詰められてできた石畳の上に降り立った俺たちヴェントス騎士団パーティに、迷宮の罠が襲い掛かって来た。
緑の水が体の中で揺れている、ブヨブヨしたアイツだ。
「何だコイツ……」
しかし、迷宮について知っているはずのアンバーの様子は少しおかしなものだった。
いや、アンバーだけではない。
「これって生き物なの?」
ユピタも、足元に迫るそれを見て頬を引き攣らせていた。
「お前らの爺さんたちが迷宮に置いたわけじゃないのか?」
「俺はこんなの見た事もねぇよ」
「俺も。これって何かの罠なの?」
「ああ、多分。こいつらには魂が見えないからな」
俺たちパーティはユピタを中心に円を描き、飛び掛かって来た迷宮の罠を軽く払い除けて、魔法の行使が可能となる領域を形成する。
「行けるかユフィ」
「これだけ広ければ、行けるよ」
罠をいなしながら、それぞれが前へと進んだ数分後、ユピタは杖を地面に向けた態勢でそう言った。
「それじゃあ準備はいい?」
「おう」
「いつでも」
ユピタが呪文を唱える傍ら、俺も再度もう一枚の瞼を開きながら杖を中空へと掲げて、小さく呪文を唱えた。
「カプティスセレーネ <捕縛しろ>」
今回作るのは、二つの魂を回収するための風呂敷ではない。
迷宮に入る前にも行った、大量の魚を引き上げるための巨大な網縄だ。
視界一杯に漂う魂を網にかけると、杖であり鎚であり斧である得物へと取り込んで行く。
いつもの短杖では、これほどのエネルギーを内へと取り込むことは出来ずに、提げるのが精一杯だった。
しかし、アンバーの作ってくれたこの長杖戦鎚斧アヴァリティアであれば、なんも問題もなく取り込めるのである。
地上のブランディラーク国民の魂と、ペルトぺス迷宮一階層の魂。その数、八百六十四。これはかなりの数だ。
純粋なエネルギーとして考えれば、軽く一つの国を地図から消せるだけの威力を発揮できる。
と、得意げに杖を掲げていた俺の体に風が吹き込んできた。下から掬い上げるような風だ。
風はそこまで強くはない。しかし奇妙な事に、風が通り抜ける体は、浮き上がっていた。
視界が茶色に染まり、次いで洞窟を思わせる通路を映して、再度土色の壁を見せる。
これは……落ちてるな、うん。
うん?
「ユピタ!?」
「何?!」
耳元で風が通り過ぎるその向こうから、ユピタの切迫した声が返って来た。
見れば大の字になって落ちているユピタの姿が飛び込んでくる。
「魔法は!?」
「終わってる。だからこのまま、最下層に直下してるんでしょ!」
「こいつ、魂集めに夢中になって気づいてなかったぞ!」
風にかき消されないよう声を大にするユピタに、アンバーがそう叫んだ。
確かに、アヴァリティアの予想以上の性能に興奮していたのは否定しない。
視界が目まぐるしく変わってゆく自由落下の中、三人の死兵は静かに落ちて行く。
そういえば、体を覆うローブを纏っていたアリスは色々と大丈夫かと視線を向ければ、ローブの裾が捲れ上がり、胸元まで見えてしまっている彼女がいた。
「クローディオクロック! <瞳を奪え!>」
「うお!」
「何も見えない!」
三人であれやこれやと言い合っていたが、それより優先する事がある。
これを見せるわけにはいかないのだ。
閉眼呪文を唱えて二人の視力を奪った俺は、中空で手足をバタつかせてアリスの腕を掴んだ。
風に煽られはためく裾を引っ張り抱き寄せると、そこでようやく魔法を解除する。
もう時期最下層に到着するのだから、二人にもその準備をしてもらわなければいけない。
「…………」
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が訪れた。
分かってる。でもさ、流石にちょっとどうかと思うんですよ。
死兵と言っても相手は年頃の女性だったわけでして、そんな彼女の尊厳をどうこうなる場面においては最適解だったでしょうが。
心の中で反論している俺に対して、心なしかユピタの視線には冷たいものが混じっている気がするし、アンバーは平常通りの鼻にかけて笑っているのだろうことが窺えた。
そんな事をしているうちに、眼下に白い光が明滅し始めた。
終点はすぐそこまで迫っているらしい。
気を取り直して、杖の先端を眼下の光に合わせる。
横目に確認すれば、二人もそれぞれに手甲と短杖を向けていた。
「「「フェスティナ・レンテ!」」」
三人が同時に呪文を唱えた。
瞬間、迷宮最下層の地面と、俺たち攻略パーティ全員の間に透明なカーテンが現れた。
風の有無とは関係なく靡くカーテンは温かい春先の香りを放って、ふわりと体内に蓄積された落下エネルギーを全て拾い去る。
残された俺たちの体は、地に足を付けた状態からの跳躍と同じくらいのエネルギー量で着地した。
「よし、何とかなったな!」
「何がよし、だ! 危うく目隠しでの飛び降り自殺になるところだっただろ!」
「あ、あはは…………。まあ、結果何とかなったんだから、気にしてもしょうがない……よね?」
アンバーもユピタも不満を口にする。が、それ以上は続かなかった。そして俺も、目の前の光景に言葉が喉の奥で詰まってしまった。
俺たちの姿を反射するほど磨かれた大理石の床。
天井から降る光を透過し、きらきらとその身を輝かせる等間隔に並んだ無数の石英の柱。
この真上の地上に広がる中央広場いや、中央区画よりも広いのではと思わせるここ最下層には、これらがずらりとどこまでも広がっていた。
更に、柱一本一本には、図体が肉食獣時見ている尾長のウサギの黄金像が一体ずつ飾られている。
「アンバー。お前の爺さんだかひい爺さんは、どんだけ金を持ってたんだ…………」
驚きに口が開きっぱになってしまう。しかし仕方ないだろう。こんな場所、ここ以外には一つとして存在しないと断言できてしまうのだから。
「いや……こんなバカでかい空間は爺さんたちの趣味じゃねぇ」
「お婆様でもないね。あの人、どちらかと言えば根っこは貧乏性だから」
「とすれば、この階層は七十二階層じゃない」
この階層に落ちて来た時から、あれらの気配は感じていた。
というよりも、威圧感とでも呼ぶべきか。全身を鋭い槍で貫かれたかのような刺々しい感覚だった。
死兵のフリット、メリダ、そしてアリスの三人は、いつでも戦えるように獲物を構えてそちらを見ていた。
大理石の敷かれた広間の向こう。石英の柱と柱の間に開かれた通りの真ん中にそれはいた。
玉座に片膝を立てて座った一人の少年と、その両脇に控えた二体の腹心。
不死の王マルヴェラ。
「あれが、不死の王」
「マルヴェラか。隣にいる四つ目鬼とガイコツフードは見た事ないな。普通の迷宮生物と違うのは確実だが……」
ユピタとアンバーも、それぞれに短杖と投げナイフを構えて臨戦態勢を見せた。そんな二人の隣で杖の先端を向けた俺は、早々に蓄えていた莫大なエネルギーのほんの少しを解放した。
魂を三つほど、純粋なエネルギーの集合体へと変質させる。それに合わせて、杖の先端に頂いた爛鱗が紫色に怪しく光る。
輝きが最高潮にまで達した瞬間、紫の光が朝露のように一滴落ちた。
大理石から跳ね上がった飛沫は靄となって周囲に広がり、杖の動きに合わせて流れを作って俺の正面で渦を巻く。
「トルメンドゥームズ! <苦しみと魂の開放!>」
渦は光の奔流となって、不死の王が座する玉座を撃ち砕いた。




