000 外来種の想い
あのペンダントが、かの種の手へと渡ったと報告を受けて数年が経過した。と、思う。
ここには時計が無く、だだっ広い王の間と王城の廊下を思わせる広い通路が広がり、他には俺の指示に従うばかりの死者の兵士ばかりが存在している。
つまりは時間の経過を知らせるものなど何もないから、時間の経過は感覚だけが頼りだった。
「かの者が戻った形跡は有りません」
従者の四ツ目鬼は俺の前で跪き、そう報告する。
何度も同じ報告を受ければ、聞き飽きるというものだ。他に何か面白いものはないのかと思考を巡らせると、それを察知したわけではなさそうだが、鬼は続けて口を開いた。
「かの者が引き連れていた従者の犬、羊、小鬼の三匹は、依然この地を目指して進軍中です。ただ、かの者がいなくなってからはその進みはとても緩やかで、このままでは、三百年はかかるものかと」
「それ、間違いなく死んでるよね。つまりは、彼らにはこの迷宮は踏破不可。他の冒険者って呼ばれてる奴らにも、これといったのは見つかってない。やっぱり、あの隣人が返ってくるのが先になりそうだな」
だとすれば、それは二つを意味している。
一つは俺の完全開放。
俺の魂は、バラクススの盟約によって、ここペルぺトス迷宮の最下層、七十二階層の王の間につなぎ止められている。
それを肉体に戻してくれたのが、今目の前で跪く従者の四ツ目鬼と、かつて天才死霊術師としてその名を世界中に広げた友、トーラス・オーラスだ。
あとは、この魂に掛けられた鎖を、バラクススの後継者が解き放ってくれさえすればいい。
だが、二つ目の可能性の戦争になりそうな空気は、ペンダントを受け取った青年の表情を聞けば、想像する事ができた。
やはり、時代が変わろうが世代が変わろうが、俺たちに対する感情は何も変わらないらしい。
「トラスは?」
「散歩に行くと言って、通路を徘徊しております」
「認知症予防でもしてるっての?」
既に死んでいるのに。とは、心のうちに留めた。
「軍の準備は?」
「八割終了していると報告を受けています」
「そう。じゃあ後は、冒険者たちがここに来るのが先か。それとも迷宮が完全に潰されるのが先かってとこかな」
こちらの質問には答えるが、雑談には一切興じない従者の鬼にため息を吐きつつ、俺はこれから起きるであろう時代の変化に思わず笑みを浮かべた。
「俺たちは、お前たちに平和的交渉を持ちかけた。それを断り、種の絶滅と世界の崩壊を選んだのはお前たちだ隣人ども。これは反逆でも復讐でもない。受け取るべき対価を受け取る受領式だ」
ただただ広い空間に、俺の独り言は不気味なほど反響した。




