【第2話】 白銀のフェンリルと最初の遭遇
はじめての執筆なので、至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。
週最低一回は更新予定です。
……あれ? 先ほどまで感じてた、腕の中の温もりはもうどこにもない。 代わりに、アスファルトではない、ひんやりとした土と湿った草の匂いが鼻腔を突く。
僕は、白瀬 陸空は、死んだはずだ。 それなのに、意識が急速に浮上してくる。
(……生きてる?)
重たい瞼をかろうじて開くと、視界に飛び込んできたのは、見慣れた会社の天井……などではなく、鬱蒼とした森の中だった。 月明かりが、木々の隙間から差し込んでいる。
(なにか身体が……おかしい……?)
起き上がろうとするが、手足の感覚がいつもとはまるで違う。 視界を手の方へ向けるとそこにはいつもキーボードを叩くためだけにあった手が無く、
太くて、筋肉質で、雪のように真っ白な毛に覆われた「前足」があった。
「―――?」
声を上げようにも声が出ない。 出そうとした声は、「くぅん」という情けない鳴き声になってしまった。
混乱する頭のまま、いつもより重い身体を引きずり、近くにあった水たまりへ這っていく。 月明かりに照らされた水面に映った自分の姿を見て、僕は絶句した。
銀色に輝く瞳。 ピンと立った耳。 まだ幼いであろうが、明らかに「狼」とわかる精悍な顔つき。 そして、神聖さすら感じてしまう、圧倒的な白銀の「もふもふ」。
(……これは……フェンリルじゃないか?)
物語やゲームでしか見たことのない、あの伝説の魔獣。 すべて察した。
(ああ、そうか。僕、転生したんだ)
トラック、子犬、異世界。 よくある話だ。だが、なぜよりにもよって魔獣なんだ……。
重たい体にも慣れてきたので少し歩いてみる。 森は不気味なほど静まり返っていた。 RPGならゴブリンの一匹でも出てきそうなものだが、羽虫の音以外、生き物の気配がしない。
(もしかしてこれが転生直後によくある魔力漏れってやつか? 僕の魔力に怯えて、弱い魔物は近寄っても来ないんだろうか?)
フェンリル(幼体)とはいえ、きっとこの森の生態系では上位になるのだろう。襲われる心配は無さそうだが、同時に孤独であるということだ。
(さて、と)
一旦安全そうな岩陰に身を隠し、僕は異世界転生のお約束を試みる。
(頼む、あってくれ……!)
僕は、すがるような気持ちで強く念じた。
「ステータスオープン!」
目の前に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。 ……やっぱりあった!
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名前: (なし) 種族: フェンリル(幼体) レベル: 1 状態: 良好
スキル: ・【神速(幼)】 ・【氷結の息吹(弱)】 ・【魔力感知】
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(うわぁ……本当に魔獣なんだ)
出てきたスキルも戦闘的なものばかりだ。
「クゥゥン……(そうじゃないんだ……)」
僕は天を仰いだ(岩陰だけど)。
どうせ転生するなら人間、せめてエルフとかで、 「テイマー」とか「召喚士」みたいな何でも手なづけられるチートジョブについて、 朝から晩まで「もふもふ」に囲まれて、あのサモエドの「凛」みたいなかわいい子たちを愛でながら、癒しの毎日を送りたかったのになんで?!!
僕が絶望に打ちひしがれていた、その時だった。
――ガサガサッ。
(!)
岩陰からそっと顔を出してみる。 草木の擦れる音。 さっきまで、僕の魔力を恐れて誰も近づかなかったはずなのにどうして急に?
月明かりの下、茂みからぴょこんと現れたのは――3羽の「うさぎ」らしき生き物だった。
(うさぎ……? いや、魔物か)
普通のうさぎより一回り大きく、額に小さな一本角が生えている。 【魔力感知】スキルが、あれが微弱ながらも魔力を持つ「ホーンラビット」という生物であると教えてくれる。
(おかしいな……)
あんなにか弱そうな魔物が、なぜフェンリルの僕(魔力がダダ漏れ中)に近づいて来れるんだ?
3羽は僕の魔力など気にも留めず、僕のいる岩陰に向かって夢中な様子で近づいてくる。 そのつぶらな瞳は、まっすぐ僕を捉えていた。




