表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!  作者: ろき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/26

【第16話】英雄の到着と、勘違いの「キャッチボール」

 ギルドマスター・ガンダルが(フェンリルの激しすぎる握手によって)宙を舞い、地面に叩きつけられた――ように見えた瞬間。


 かろうじて保たれていた均衡は、一気に崩壊した。


 「撃てェェェ! ギルドマスターの仇だァァァ!!」


 「これ以上の蹂躙を許すな! 全力で攻撃しろォォ!!」


 恐怖と怒りで我を忘れた兵士や魔導師たちが、各々攻撃を再開する。


 激しい矢の嵐に、視界を埋め尽くすほどの魔法の光が、再びフェンリルへと放たれた。


 (おっ、また始まった!)


 (今度はさっきより派手だなぁ!)


 フェンリルは、自分へ向かってくる攻撃の嵐を「イベントのクライマックスの花火」だと思い込み、目をキラキラさせて見上げていた。


 もちろん、人間の攻撃がフェンリルをどうにかできるはずがない。


 炎の玉が迫ってくるのを見ても、雷がほとばしるのを見ても、フェンリルには「きれい」としか思えなかった。


 しかし――近すぎる光と熱は、さすがに眩しい。


 (うわっ、近い!)


 (……でも、これって、歓迎の演出だよね?)


 そう思った瞬間。


 嬉しさと興奮で、思わずふっと息を漏らしてしまった。


 それは小さな吐息のつもりだった。


 でも、フェンリルの吐息は普通の吐息ではないらしい。


 ふわり、と白い冷気が零れた。


 次の瞬間、火球がその冷気に触れて、パチパチと弾ける。


 雷は光の粒にほどけて、夜空に散った。


 そう――まるで、手元で咲く【花火】みたいに。


 「くそっ……本当に効かないのか……!」


 「終わりだ……この街はもう終わりだ……!」


 圧倒的な戦力差を前に、兵士たちの心は折れかけていた。


 (すごい……!)


 (こんなに歓迎されているなんて!)


 フェンリルは完全に勘違いしたまま、うっとりとその光を眺めていた。


 しかし本人は気づいていない。


 それが【歓迎】ではなく、【撃退】するための攻撃であったことなど。


 絶望が広がる中、ついに城壁の上に設置された街の防衛機構の切り札――国軍の最新兵器【対大型魔獣用巨大魔導砲】が起動した。


 魔導砲から放たれた極大の雷撃が、轟音と共に空気を引き裂き、フェンリルめがけて一直線に進んでいく。


 その時だった。


 ザンッ!!


 鋭い斬撃音が響き渡り、巨大な雷撃が真っ二つに裂かれて霧散した。


 雷光が弾け飛び、夜空が一瞬だけ真昼のように照らし出される。


 「なっ……!?」


 「い、今のは……誰だ!?」


 照らし出された砂煙の中から現れたのは、渦中のフェンリルと――


 全身を無骨な鎧で覆い、背中に身の丈ほどの大剣を背負った一人の戦士だった。


 その男から放たれる覇気は、この場にいる冒険者たちとは桁が違う。


 ただそこに立っているだけで、周囲の空気が張り詰める。


 「あ、あれは……!」


 「間違いない、『剣聖』グレン様だ!!」


 「Sランク冒険者のグレン様が来てくれたぞォォォ!!」


 兵士たちから歓喜の声が上がる。


 ――Sランク冒険者。


 それは国に数人しかいない、単独で軍隊数十人並みの戦力を持つ英雄の称号だ。


 たまたまこの街に滞在していた彼が、ついに動いた。


 「……状況は最悪だな」


 グレンは周囲を見渡し、低い声で呟くと、ゆっくりと背中の大剣を引き抜いた。


 重厚な金属音が響き、その大剣は月光を反射して鈍く輝いた。


 彼の視線は目の前にそびえ立つフェンリルを捉えていた。


 (……でかい)


 (それに、この底なしの魔力)


 (以前、死闘の末に討伐した赤竜レッドドラゴン以上とは……)


 (まさか、生きて神話の怪物と相対することになるとはな)


 歴戦の英雄だからこそ、分かってしまった。


 勝てる見込みなど、万に一つもない。


 しかし、ここで自分が引けば、街は確実に滅びる。


 (俺の命と引き換えにしてでも、足止めしてみせる……)


 (やるしかない)


 グレンは覚悟を決め、全身の闘気を練り上げ始めた。


 周囲の空気がビリビリと震え、肌が粟立つ。


 その圧に、周囲の兵士たちが息を呑んだ。


 一方、フェンリルの方は――


 (おっ?)


 (すごい強そうな人が出てきたぞ!)


 さきほどの巨大な雷を剣で切ったのは見事だった。


 きっと、このお祭りのメインパフォーマーに違いない。


 次はどんな凄い技(芸)を見せてくれるのか、期待で胸が高鳴る。


 ……それに。


 相手が何か闘気を練り上げているのを見た瞬間。


 なぜかドクン、と心臓が大きく跳ねた。


 (……なんだ、この体の奥から湧き上がってくる、ゾクゾクするような興奮は?)


 尻尾が自分の意志とは関係なく、左右に揺れ始める。


 全身の毛がふわりと逆立ち、筋肉が躍動を求めてうずく。


 どうしてだろう?


 じっとしていられない。


 追いかけたい。走りたい。遊びたい。


 (僕、なんでこんなにワクワクしてるんだ?)


 (まるで、散歩の前みたいに……)


 込み上げてくる衝動に戸惑う間に、グレンは大剣を構え、闘気を一気に収束させた。


 その瞬間。


 「行くぞ、神話の怪物」


 「我が命を賭した一撃、受けてみよ!」


 「――秘剣・【龍牙断りゅうがだん】!!」


 グレンが踏み込み、大剣を振り抜く。


 刀身から、圧縮された闘気による巨大な三日月状の衝撃波が放たれた。


 城壁すら紙のように切り裂く剣聖必殺の一撃。


 それが轟音と共に空間を歪ませながら、フェンリルの首元へと飛翔する。


 それを見た瞬間、フェンリルの思考が跳ねた。


 (うわっ、すごいのが飛んできた!)


 (よし、キャッチして投げ返してやろう!)


 (キャッチボールだ!)


 遊び心と、目覚めはじめた何かがそうさせた。


 そのまま【神速】を発動する。


 人間には認識できない速度で、飛来する巨大な斬撃波へ向かって右の前足を突き出した。


 その斬撃波を掴み取ろうとした――その時。


 パァァァンッ!!


 グレンの放った必殺の斬撃波は、フェンリルの肉球に触れた瞬間――


 シャボン玉のように弾け飛び、消滅した。


 「……なっ?」


 グレンの動きが止まった。


 顔から表情が消え失せ、ただ呆然としている。


 周囲で見守っていた兵士や冒険者たちも、全く同じ表情だった。


 「け、剣聖の必殺技が……」


 「素手で……いや、肉球で叩き潰された……?」


 「嘘だろ……人類最強のSランクの攻撃が、あんな……簡単に……」


 一方のフェンリルは、少し残念そうに自分の前足を見つめた。


 (あれ? 壊れちゃった?)


 (……え、今の僕、ちょっと必死すぎない?)


 考える前に、体が動く。


 それが、やけに気持ちよかった。


 (……あれ)


 (……楽しい)


 だが、そんな内面の葛藤など知る由もなく――


 事実上、Sランク英雄の敗北という現実は、街全体を真なる絶望の底へと叩き落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ