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白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!  作者: ろき


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【第15話】対話の試みと、最強の「握手」

 城壁都市『バルド』の正門前は、奇妙な静寂に包まれていた。


 数千の兵士と冒険者たちが、息を呑んで一点を見つめている。

 視線の先では、巨大な白銀の神獣――フェンリルが、まるで忠犬のように行儀よく「お座り」をしていた。


 「……どういう、状況だ……?」


 兵士の間を割って現れたのは、白髪の屈強な老人だった。

 この街の冒険者ギルドを束ねるギルドマスター、ガンダル。

 歴戦の猛者である彼でさえ、目の前の光景には困惑の色を隠せない。


 「報告では、災害級魔物が街を襲撃しに来たと聞いたが……あの様子は、どう見ても敵意があるようには見えんぞ」


 ガンダルの横で、豪華な鎧に身を包んだ領主が、脂汗を拭いながら呟く。


 「しかし、あのプレッシャー……間違いなく本物のフェンリルだ。機嫌を損ねれば、この街など一晩で地図から消える」


 ガンダルは険しい表情で、フェンリルの前に立つエルフの女性――セレンに目を向けた。

 彼女は恍惚とした表情でフェンリルを崇めている。


 「……あの『銀翼』のヒーラーが、何とか抑えているようだが、いつまで持つか。領主様、ここは私が対話を試みましょう」


 「正気か、ガンダル!? 相手は言葉など通じぬ化け物だぞ!」


 「言葉は通じずとも、意志の疎通はできるかもしれん。それに、このまま睨み合っていてもジリ貧だ」


 ガンダルは覚悟を決め、武器をその場に置いた。

 両手を上げ、敵意がないことを示しながら、ゆっくりとフェンリルに近づいていく。


 (おっ、新しい人が来た)


 僕は、近づいてくるおじいさんに目を向けた。

 立派な髭を生やした、強そうなおじいさんだ。

 お祭り(と勘違いしている騒動)の責任者だろうか。


 「……偉大なる森の賢者、フェンリルよ。我々は貴殿と争う意志はない」


 ガンダルは僕の数メートル手前で立ち止まり、腹の底から声を絞り出した。


 「もし何らかの要求があるのなら、可能な限り応えよう。だから、どうか静かに森へお帰り願いたい」


 (なるほど、わざわざ挨拶に来てくれたのか。丁寧な人だな)


 僕はおじいさんの言葉を「歓迎の挨拶」だと解釈した。

 せっかく責任者が出てきてくれたのだ。ここはこちらも礼儀正しく、友好的な態度を示すべきだろう。


 (よし。丁寧な挨拶には、丁寧な挨拶で返さないと)

 (人間界の基本――「握手」だ!)


 僕は口角を上げる(ように見える表情をして)、右の前足をゆっくりと持ち上げた。

 人間が握手を求めるみたいに、肉球のある掌をガンダルの前に差し出す。


 「ワフッ♪」《よろしく!》


 友好の証、「握手」のつもりである。

 巨大な前足が、ガンダルの目の前に迫った。


 「……ッ!?」


 ガンダルの全身が硬直した。

 歴戦のギルドマスターの目には、フェンリルの行動がこう映ったのだ。


 ――『我と対等に話したければ、その資格を示してみせよ』という、絶対強者からの試練。

 あるいは、これ自体が“ある種”の契約の儀式なのか……?


 「くっ……! 承知した……!」


 ガンダルは覚悟を決め、震える手で、差し出された巨大な前足の指先あたりを、そっと握り返した。


 プニッ。


 神獣の手――肉球の柔らかい感触。

 想像を絶する弾力と、温かさ。


 (えっ?)


 ガンダルは思わず目を見開いた。

 とても魔物の手とは思えない、その極上の感触に、思考が一瞬停止する。


 (おおっ! 握手してくれた!)


 僕は嬉しくなった。

 このおじいさん、話が分かる!


 嬉しさのあまり、握り返してくれたガンダルの手を、親愛の情を込めてブンブンと上下に振った。


 「ぐわぁぁぁッ!?」


 フェンリルにとっては「喜びの握手」。

 だが人間にとっては「巨大な獣による高速シェイク」である。


 ガンダルはそのまま宙に持ち上げられ――激しく揺さぶられた末、地面に叩きつけられた……ように見えた。

 実際には、僕が手を離した反動で尻餅をついただけだが、周囲にはそうは見えなかった。


 「ギルドマスターがやられたァァァ!!」

 「交渉決裂だ! 攻撃開始ィィィ!!」


 兵士たちが再びパニックに陥り、一斉に攻撃態勢に入る。


 「ま、待てぇぇ! 攻撃するな! まだ生きてるぅぅ!」


 目を回したガンダルが必死に叫ぶが、もう遅い。

 再び魔法と矢の嵐が、きょとんとしている僕に向かって放たれるのだった。

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