【第11話】絶望の火球と、勘違いの歓迎
冒険者たちと僕の間に、微妙な空気が流れている気がした。
(……あれ?)
一旦、立ち止まってみる。
よく見ると、手前にいる剣士の手が小刻みに震えていた。
(どうしたんだろう?)
とりあえず敵じゃないと伝えたい。
僕はその場に座って、尻尾をふりふり振ってみせる。
……反応なし。
むしろ、みんな一層、青ざめた顔をしている。
そして目が合った瞬間、ものすごい顔になった。
(え、もしかして僕の顔に何かついてる?)
自分では、かなりもふもふで可愛い寄りだと思うんだけど。
じゃあ、僕の方から近づいてみよう。
ゆっくり歩み寄る。
その瞬間。
「く、来るなァァァ!」
「キャァァ!!!」
「やめてくれぇぇ!!!」
悲鳴と絶叫が飛び交った。
魔法使いのミナが、泣き叫びながら杖を突き出す。
杖の先が赤く光り、炎が灯った。
(おお、火だ!)
その光景に、思わずテンションが上がる。
(この人、火の魔法が使えるんだ!)
(これならオークの肉、焼いてもらえるかもしれない!)
僕がまだ見ぬ焼肉に浮かれている間に、向こうは騒然としていた。
「撃つなミナ! そんなの効くわけがない!」
「やめろ! 下手に刺激するんじゃない!」
必死に止めるアルヴィンとガルド。
「うるさい! やらなきゃ殺されるのよ!」
泣きわめきながら魔法を続けるミナ。
涙で真っ赤になった目が、僕を捉える。
次の瞬間。
「最大出力! 【クリムゾン・フレア】!」
ドゴォォォン!!
猛烈な爆音とともに、真っ赤な炎の塊が一直線に飛んでくる。
(すごい! こんな大きい火の玉、初めて見た!)
興奮しかけて――すぐ我に返った。
至近距離。
直撃コース。
(まずいまずい! 顔面はダメ!)
当たったら全身の毛がチリチリの焼きフェンリルだ。
全身がヒヤッとして、背中の毛が勝手に逆立つ。
(もふもふ、絶対死守!!!)
ゴォォォッ!!
思わず息を吐く。
冷気が前に広がり、爆炎とぶつかった。
あたり一面が、真っ白な霧に覆われる。
「やったのか……!?」
誰かの声。
霧がゆっくり晴れていき、そこにいたのは――
「ワフゥン♪」
傷ひとつ負っていない、フェンリルの姿だった。
……というか。
(あれ……なんか気持ちいい?)
鼻先をひくひくさせる。
焦げ臭さはない。
この感じ、覚えがある。
生前に一回だけ入った、サウナ。
あの、いい感じの熱さと湿気だ。
体がふわっとした気がする。
熱で毛が、いい感じにふくらんだのかもしれない。
ついでに軽く乾かしてみる。
そうすると――
毛並みがさらに艶々で、ふわふわになった。
僕は嬉しくなって、
「アオォーン!!!」
大きく遠吠えをした。
その光景を見た冒険者たちは――固まった。
「……う、嘘だろ」
「爆発で無傷……冗談だろ?」
「わたしの最大火力が、効いてない……?」
ミナはへたり込み、アルヴィンの手から剣がこぼれ落ちる。
シオンとガルドも、終わったと言わんばかりに膝をついていた。
ただ一人。
セレンだけが、うっとり空を仰ぐ。
「ああ……やはり……」
「人の魔法など、届きもしないのね……」
(あれ?)
僕は首を傾げた。
みんな座ってる。疲れたのかな。
(じゃあ、お礼にこのもふもふを味あわせてあげよう)
(きっと元気になる!)
僕は、さっき爆炎を放った魔法使いの少女に歩み寄り、そっと顔を近づけた。
仕上がった自慢のもふもふを、堪能させてあげよう。
――僕としては、善意百パーセント。
銀翼のみんなからすると、たぶん恐怖二百パーセントだった。




