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第七話:第一関門 ~Bランク級の魔物~

 森を抜けると、ゼルたちの目の前に広がったのは石造りの街だった。西洋的な建築様式が特徴的で、石畳の道が整然と敷かれている。街の中心には時計塔がそびえ立ち、その影が夕日に照らされていた。しかし、まだ日は完全に沈んでおらず、人通りはまばらだ。


「ここが試験会場の近くの街か……静かだな」

ゼルが周囲を見渡しながら呟く。


「夕方になると人が増えるんですけどね」

カイルが説明する。


「よし、まず宿を探そう。疲れも溜まってるしな」

リュークが大きく伸びをしながら言った。


ほどなくして彼らは街の端にある石造りの宿屋を見つけた。木製の看板には「緑の風亭」と書かれており、中からは暖かな光が漏れている。ゼルたちは受付を済ませ、自分たちの寝室へ向かった。


宿屋の二階にある部屋は広々としており、三人分のベッドが整然と並んでいる。壁には装飾的な絵画が飾られ、窓からは街並みが見える。リュークは部屋を見渡して満足そうに頷いた。


「いい部屋だよな! 俺もよく一人旅でここに泊まるんだ!」

リュークが得意げに言う。


「リュークさんのお家って裕福なんですよね……羨ましいです」


しかし二人は疲労がピークに達していたようで、

「あと二時間寝られる……」と言いながらそれぞれのベッドに倒れ込むと、すぐに眠りについてしまった。





 夜明けの光が淡く空を染める頃、俺たちは城壁の外れにある広場へと到着した。

 すでに二百人を超える受験者が集まっており、武器も服装も種族も実に多様だ。大剣を背負った獣人、ローブ姿の魔導士、軽装の弓兵……。


「すごい数だな……」

 隣でリュークが呟き、カイルは周囲の魔力反応を測るように視線を巡らせている。

「魔力量、みんなすごく高いよ……」

「ああ、油断するなよ。あいつらは全員、俺たちと同じハンター志望だ」


 しばらくすると、試験官たちが整列し、中央に一人の女性が進み出た。

 腰まで届く金髪が朝日に輝き、冷ややかな表情が印象的な人物だ。


 ……前、会った気がする。あの時は俺をじっと見てきたが――まあ気にすることでもないか。


ただ視線を受験者全体に流し、淡々と口を開く。

「これより、第一関門を開始します。この広場から十キロ先の遺跡まで、制限時間は三時間。途中に魔物が現れますが、倒さなくても構いません。ですが、討伐した魔物の希少性に応じて加点があります」

 金髪試験官の説明は簡潔で、無駄がない。

「なお、途中で倒れたり、対人戦を行ったり、制限時間を過ぎたりすれば即脱落です。では、現在をもって開始します!」


 金髪試験官の火の魔法が上がると同時に、大半の受験者が一斉に走り出した。俺たち三人もそれに続く。

 広場を抜けるとすぐに森が口を開けており、濃い緑が視界を覆った。


 足を踏み入れた途端、周囲に漂う湿った空気と、草の香りが強まる。

 木々の間から差す光は斑に揺れ、葉の影が絶えず地面を踊っている。どこからともなく獣の唸り声が響き、緊張感が肌を刺す。




 

 「来るぞ!」

 リュークが前方を指差すと、数匹のアルミラージ――。一本角を持つ兎が、低い姿勢で跳びかかってきた。

 リュークは短剣を抜き、正面から迎え撃つ。

 鋭い爪が空を切り、草が舞う。彼は素早く身をかわし、首元へ刃を走らせた。鮮血が飛び、アルミラージが地面に崩れ落ちる。


 しかし、数は多い。左右からも飛び出してきた。

「風よ、盾となれ――《ウィンド・バリア》!」

 カイルの詠唱と同時に風の壁が立ち上がり、突進を受け止める。リュークはその隙に短剣を投げる。

 頭部に命中したアルミラージが昏倒し、戦線は崩れる。


「よし、進むぞ!」

 俺たちは息を整える間もなく、さらに森の奥へと駆けた。



 しかし、進むにつれて、魔物の密度が増していく。半数以上の受験者は既に脱落か、遅れを取っているようだ。

「なにか、異常事態か?」

 

そんな中――森の奥から、低く喉を鳴らす音が近づいてきた。


 そこに現れたのは、漆黒の毛並みに覆われた黒豹型の魔獣。体長は三メートル近く、両目は怪しい紫光を帯びている、グラリスだった。

 鼻腔をつく甘い香りが漂い、同時に視界がぼやけ始めた。……毒と幻覚の魔法か。


「おい、あれって……」

「Bランク級だ。森の奥に生息してるはずが……」

 リュークが短剣を握り直すが、足が竦んでいる。カイルも魔力を集めようとするが、幻覚に阻まれて集中できない。


――俺がここで全力を出せば目立つ。だが、あいつらを守るには何かしら動かねばならない。

ならばこれだ。


ゼルは木々を超える高さまで上昇した。

 毒の角(ヴェノム・ソーン)! 部分的だが、五本をグラリスの腹部に当てることに成功した。


もし発光のことについて聞かれたら……光魔法だとでも行っておこう。


 グラリスへ毒が回ると、動きがわずかに鈍ったため、

「今だ!」

 リュークは幻覚を振り切ることができ、渾身の二連撃を腹部に叩き込む。


グラリスは、うめき声を上げ、大きな音と共に倒れた。


「……カイル、動けるか?」

「はい……大丈夫です」


(グラリスの能力は……!? 幻影能力か……。冥王の時、さんざん振り回された能力だ。

なんせ、幻影は自分を含めた者に発動するのだから)

 そして、俺は大きな声で「俺らが倒せたのは偶然だ」と叫びその場を後にした。




 残り3分。制限時間ぎりぎり、俺たちは遺跡の入り口に到着した。

 すでに九割以上の受験者が姿を消しており、試験官が到着者の名前を記録している。


「おい。運が良かったな。グラリスに遭遇した連中は、ほとんど脱落だ」

 試験官の一人がそう言い、俺たちの第一試験合格を告げた。


安堵の息を吐いた瞬間――森の奥から、氷のように冷たい視線を感じた。


 なんだこの気配? ――俺よりもつよい気配。




次回:第二関門① ~神々の刺客~

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