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第六話:新たな技《ヴェノム・ソーン》

 朝日が森の隙間から差し込み、鳥たちのさえずりが静かな一日の始まりを告げる。焚き火の残り火が微かに煙を上げる中、ゼル=ファルドは目を覚ました。リュークとカイルもすでに起きており、準備を整えている。


「最後の一日だ。今日も全力で頑張ろう!」

 リュークが拳を握りしめて意気込む。


その言葉にカイルは少し不安げな表情を浮かべる。

「頑張るのはいいけど……今日も修行して、ハンター試験に本当に間に合うんでしょうか?」

 

ゼルは冷静な口調で答えた。

「夜に移動すれば問題ない」


「そ、それ危険じゃないですか! 夜の森には強い魔物が出るって言うし……」

 カイルが慌てた様子で反論する。


「大丈夫だと思うよ。ゼル師匠がいれば、何が来ても平気だ」

 リュークはゼルを信頼するような眼差しで微笑む。


「まあ、確かにゼル師匠なら……でも油断は禁物だからね!」

 カイルは念押しするように言いながら、荷物を背負った。


「さて、今日は自由行動だ。自分たちでやりたいことをしてこい」

 ゼルは二人に向かってそう告げる。その言葉にリュークとカイルは驚きの表情を浮かべた。


「えっ、自由行動?」

「そうだ。自分たちで考え、自分たちの力で動くことも重要だ。俺がいつもそばにいるわけじゃないからな」


 二人は一瞬戸惑ったものの、やがてそれぞれの目標を胸に頷いた。


「わかりました! じゃあ俺は短剣の練習をもっと極めてきます!」

 リュークが元気よく森の奥へと走り去る。


「僕は風魔法の詠唱短縮を試してみます。ゼルさん、また後で!」

 カイルも意気込みながら別の方向へ向かった。





 二人が去った後、ゼルは静かに森の奥深くへと足を進めた。彼の頭には、新たな能力の組み合わせについての考えが巡っていた。


(アルミラージの角とサーペントの毒……これを組み合わせれば、新しい技が生まれるかもしれない)


 ゼルは腕を掲げ、アルミラージの角を生成すると同時に、サーペントから得た毒素をその角に注ぎ込んだ。角は紫色に染まり、不気味な輝きを放つ。彼は試しにその角を近くの木に向かって射出した。


 角は木に突き刺さり、その直後、木全体が紫色に変色していく。そして数秒後には葉が落ち始め、やがて完全に枯れてしまった。その光景を目の当たりにしたゼルは口元を緩めた。


「これは……想像以上だな」


 しかし、ふと自分の腕を見ると、血管が紫色に変色していることに気づいた。その見た目の異様さにゼルは眉をひそめる。


「毒の影響か? わからないが、使いすぎると自分にも害が及ぶ可能性がありそうだ」


 そう呟きつつも、この新技の可能性に胸が高鳴る。もしこの毒を全方位にばら撒けば、大量の魔物を一気に倒し、効率的に能力を吸収できるだろうという考えが頭をよぎった。


「スライムから得た跳躍力で高く飛び上がり、この毒の棘を全方位に発射すれば……いや、リュークやカイルがいる場所では使えないな。別の場所で試すべきだ」


 ゼルはそう決意すると、森のさらに奥へ進んでいった。

そして、ゼルはその技をこう名乗った。毒の角(ヴェノム・ソーン)と。





 一方、その森の近くではハンター試験官たちが準備を進めていた。彼らは試験会場となるエリアの安全確認を行いながら、受験者への注意事項をまとめていた。


「この森も最近魔物が増えているな。受験者たちには注意するよう伝えないと」

 一人の試験官が仲間に話しかける。その時だった――


 遠くから無数の紫色の光が飛び散り、木々が次々と枯れていく光景が目に入った。その異様な光景に試験官たちは驚愕する。


「あれは……何だ!? 一体何が起きているんだ!?」

 試験官たちは急いでその方向へ向かった。そしてそこで目撃したもの――それは空中で無数の紫色の棘を発射しているゼル=ファルドの姿だった。


「なんだあれは……!?」

 その圧倒的な威圧感と異様な光景に、彼らは完全に動きを止めてしまった。


 ゼルはその視線に気づくと、一瞬だけ彼らの方を見やる。しかし特に興味を示さず、新技の実験を続けていた。


「ありえない……あんな力、人間じゃない……!」

 試験官たちは、恐怖と驚愕で木の後ろから動けなくなっていた。





 実験を終えたゼルは地面に降り立ち、自分の手を見る。血管の紫色はさらに濃くなっていたものの、その代償以上に新技への手応えを感じていた。


「アルミラージとスライム、合わせて32体か……毒の角(ヴェノム・ソーン)、いい技だ。効率よく能力集めができる」


 冷静な判断を下しながらも、その場から立ち去ろうとした時――


「お、お前! 一体何者だ!」

 金髪の女の試験官が声を上げた。その声にゼルは足を止め、ゆっくりと振り返った。


「俺か? ただの旅人だが?」

 ゼルは淡々と答える。その冷静な態度に試験官はさらに困惑する。


「旅人……? いや、それだけじゃ説明がつかない! お前、その力は一体――」


「質問ならまたいつか。今は忙しいんだ」

 ゼルはそれ以上何も言わず、その場から立ち去った。試験官たちはその背中を見送りながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。





 再びリュークとカイルと合流したゼルは、何事もなかったように二人の成果を確認した。そして夜になり、一行はハンター試験会場へ向けて移動を開始する。


 森には再び静寂が訪れ、夜風だけが彼らの周囲を包み込んでいた。

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