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第五話:冥王ゼル=ファルドの目的

「さあ、昨日教えたことを試してみろ。お前たちの一日目の成果を見せてもらおう」


ゼルは腕を組みながら、リュークとカイルに向かって静かに告げた。彼の赤い瞳が鋭く二人を見据え、その視線には期待と厳しさが混じっている。


「わかった! 俺からいくぜ!」

リュークは短剣を握り締め、目の前のアルミラージに向かって勢いよく飛び出した。昨日の特訓で学んだ静かな動きと細かいステップが彼の体に染みついており、今ではその動きに無駄がない。


アルミラージは耳をピンと立てて警戒するが、リュークの短剣が鋭くその脇腹を捉えた。その一撃は深く突き刺さり、アルミラージはその場に倒れ込む。


「やった! ゼル師匠、どうだ?」

リュークは振り返りながら誇らしげに声を上げた。


「悪くない。動きが洗練されてきたな。だが、まだ音がわずかに漏れている。次はさらに静かに動けるようにしないとな」

ゼルは冷静に評価しつつも、次の課題を与える。


「はい! 次はもっと完璧にします!」

リュークは拳を握りしめ、闘志を燃やしていた。


「じゃあ僕の番だね。」

カイルが一歩前に出る。彼は眼鏡を押し上げながら魔法陣を展開し、風魔法を練り始めた。その動きは昨日よりもスムーズで、魔力の流れが安定している。


「風よ、刃となりて敵を貫け!」

カイルが詠唱すると、緑色の光がアルミラージに向かって放たれる。その風の刃は鋭く、アルミラージの足元を捉えた。その一撃でアルミラージはバランスを崩し、動きを止めた。


「やった……!」

カイルは小さく呟きながら額の汗を拭った。


「威力も速度も向上している。だが、詠唱が少し長いな。実戦ではもっと短縮する必要がある。」

ゼルは的確な指摘をしながら、カイルにも次の課題を与えた。


「わかりました! もっと早く発動できるよう練習します!」

カイルは真剣な表情で頷いた。


二人の成長に満足しながらも、ゼルはまだ彼らには磨くべき部分が多いことを感じていた。この短期間でどこまで伸びるか、それは彼自身にも未知数だった。





 夜になり、三人は森の中で焚き火を囲んで食事を取ることにした。リュークとカイルは持参したパンや果物を取り出しながらゼルに話しかけた。


「ゼル師匠って普段何食べてるんですか?」

リュークが興味津々に尋ねる。


「アルミラージの肉だ。」

ゼルは淡々と答えた。その言葉にリュークとカイルは驚いた表情を浮かべる。


「えっ!? あれって食べられるんですか?」

リュークが目を丸くする。


「美味しいんですか……?」

カイルも不思議そうな顔で尋ねる。


「悪くない。脂肪が少なくて筋肉質だ。焼けば香ばしくなる」

ゼルは焚き火の炎を見つめながら静かに答えた。二人は少し引いているようだった。


「さすがゼル師匠……俺たちには真似できないな」


「ところで、お前たちはどうしてハンター試験を受けようと思ったんだ? 俺と同じ理由か?」

ゼルがふと問いかける。その言葉に二人は顔を見合わせながら少し考え込んだ。


「俺は……ヒーローになりたいんだ。」

リュークが真剣な表情で答えた。その目には強い決意が宿っている。


「ヒーロー?」

ゼルが眉をひそめる。


「ああ。俺の村には昔、大きな赤色の龍が現れてさ。それを倒してくれたハンターがいて、その姿に憧れたんだ。俺もいつかそんな風に人々を助けたいと思ってる。」

リュークは拳を握りしめながら語った。その熱意にゼルは少しだけ口元を緩める。


「僕は……家族を守りたいんです」

カイルが静かな口調で続けた。その言葉には深い思いが込められている。


「ほう?」


「僕の家族は貧しくて、いつも魔物の脅威に怯えているんです。だから僕が強くなって家族を守れるようになりたい。それが僕の目標です」

カイルは眼鏡越しに真っ直ぐな視線でゼルを見つめた。その純粋な願いにゼルは少し心を動かされた。


「なるほど……お前たちは立派な理由を持っているんだな」

ゼルは焚き火の炎を見つめながら呟いた。そして自分自身にも問いかけるように続けた。


「俺も……人々を助けたいと思っている。昔からそうだった。秩序より、弱き者を助けることを優先する。それが俺の信念だ」

ゼルの言葉には静かな力強さが宿っていた。


 その夜、ゼルは焚き火のそばの、丸太の上で眠りについた。ゼルは仰向けになりながら星空を見上げ、自分の未来について思いを巡らせていた。


(この世界で俺がすべきこと……地球に転移してから、考えてなかった。全盛期の力を取り戻したら、すべてどうにかなるとか、思っていた)


……


(そうだな、俺は……もう一度、天界に帰りたい。そしてあいつらを討つ。あいつらがいる限り、宇宙は醜悪のまま。33個の星系の人間を全員、見殺しにするようなやつだ。あいつらは宇宙を支配する権限を持ってはいけない。だから、こんな下界からでもあいつらを超えられる力を手に入れて、宇宙の平和をゼロから作る。これが、俺の目標なのかもしれないな)


静かな夜風が森を包み込み、焚き火の炎が揺れる中、冥王ゼル=ファルドは眠りについた。

次回:新たなヴェノム・ソーン

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