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第四話:ゼルという名の師匠

 「なあ、それより! あんなでかいトロールを一人で倒すなんて、どうやったんだ?」

リュークが目を輝かせながら尋ねる。


「ちょっと待って! ゼルはどこから来たの? どうしてこんな森にいるの?」

カイルも気になる様子で質問を重ねた。


「それにしても、あの角みたいな攻撃、あれは魔法なの? それとも武器?」

「跳躍力もすごかったけど、どうやってそんな動きができるんだ?」


次々と浴びせられる質問に対し、ゼルは少し面倒くさそうな表情を浮かべながらも、冷静に答えた。


「まず俺は……まあ、旅人みたいなものだ。森にいたのは偶然だ。角の攻撃は得意なんだ。跳躍力は昔から鍛えててね」

ゼルは必要最低限の情報だけを伝えたが、それでも二人は感心した様子で彼を見つめていた。


「ゼルってすごいんだね! 俺も昔から足、鍛えとけばよかったぁ。そしたらもっと素早く動けるのに」

リュークが憧れの目で言う。


「じゃあ、どうせなら……特訓してみるか?」

ゼルはふと提案した。ハンター試験まであと三日。時間もない。あと、情報も少し聞き出したい。この世界のことや、ハンター試験のこと。


「本当に!? お願いします!」

リュークが勢いよく返事をし、カイルも頷いて同意した。





 ハンター試験までの三日間は、特別に自己責任で狩猟が許される期間だった。ただし狩猟の上限は15体までと決まっている。


「じゃあまず、あいつらを試しに倒せ」

俺が指したのは一角のアルミラージ。


「は、はい!」先行でカイルが飛び出した。そして緑色の魔法陣を作り出し、唱え始めた。そしてーー

「当たった!」カイルの風の玉はアルミラージに直撃したが、威力が足りずに逃げてしまった。

「そ、そんなぁ」


「じゃあ次、リューク」

「はい!」リュークはアルミラージへ直線的に移動した。しかし、耳がいいためすぐに剣先を避けてしまう。

「あれ? あれ?」リュークの剣は一回も刺さらなかったのだ。


「これじゃあハンター試験とやらも、受からないんじゃないか?」

「「……」」

「じゃあ、まずは基本的な戦闘技術からだな。リューク、お前は短剣使いだったな。動きをもっと細かくしろ。そしてなるべく音を出すな。カイル、お前は風魔法を使うなら、もっと早く。威力を上げろ」

ゼルは的確な指導をしながら、それぞれに課題を与えた。


特訓中、ゼルはスライムやアルミラージなどの魔物を倒しながら、自分の能力もさらに磨いていった。跳躍力や角の射出を駆使し、効率的に魔物を仕留めていく姿にリュークとカイルは驚きを隠せなかった。


「ゼル師匠、本当にすごい! 俺たちもこんな風になりたい!」

リュークが興奮気味に叫ぶ。


「ゼルさん、あなたの動きはまるで芸術みたいです!」

カイルも感嘆の声を漏らした。





 三日目の夜。リュークとカイルが持参したテントで休むことになったが、ゼルは静かにテントから抜け出した。


(夜の方が強い魔物が多い。この時間帯に狩猟を進めれば、さらに有用な能力を得られるかもしれない)

そう考えたゼルは、森の奥深くへ向かった。


彼はアルミラージを次々と仕留めていった。13体目を倒した頃には、角の発射能力がさらに進化していた。今では全身から角を高速で放つことが可能となり、その威力と精度は格段に向上していた。


「これなら……さらに強い相手でも十分戦える」

そう呟いた直後だった。


大きな影がゼルを覆う。ゼルの前に巨大なサーペントが現れたのだ。その体長は10メートル以上もあり、鋭い牙と鱗が威圧感を放っている。


「ほう。さすが夜の魔物……手応えがありそうだ」

ゼルは冷静に構えながら右手から角を発射し、サーペントに攻撃を仕掛けた。角はサーペントの鱗を貫き、その巨体を次第に追い詰めていった。


しかし連続攻撃による疲労で、ゼルは息が上がり始めた。角の射出には3秒ほどのクールダウンが必要で、その間にサーペントが反撃してきた。


「っ……!」

ゼルはサーペントの牙からでた紫色の毒を、跳躍力で回避しつつも、体力の限界が近づいていることを感じていた。しかし、サーペントも同様だった。鱗は角が突き刺さり、赤く染まっていた。


ゼルは周りの木をうまく使い、サーペントが混乱する隙を狙い、クールタイムも確保した。

そしてゼルは、最後の力を振り絞り、角の一撃を放った。

「いけ!」

「っ………」サーペントは前方にグラリと倒れた。


「……これで」

ゼルはその場に倒れ込み、疲れでそのまま眠りについた。





 翌朝、リュークとカイルがゼルを探していると、森の中で眠っている彼を見つけた。


「おい、ゼル師匠! 何してるんだよ!」

リュークが驚きながら声をかける。


「まさか……夜中に狩猟!? これサーペントですよ!?」

カイルは驚きながらも、俺を起こすため揺さぶる。


ゼルはゆっくりと目を開け、二人を見上げた。

「ああ。少し気になる魔物がいてな。やっといた、疲れたけど」


無邪気な笑顔をするゼルに、リュークとカイルは呆れるような表情を浮かべつつも、彼の努力と実力に感心していた。


「ゼル師匠、本当にすげぇよ。俺たちももっと頑張らないとな! な? カイル!」

リュークが俺の拳を握り締めて言う。


「ゼルさん、あなたみたいな人が仲間にいてくれて、本当に心強いです! これからもよろしくお願いします!」

カイルも微笑みながら続けた。


ゼルは彼らの言葉に軽く頷きながら、再び森へと歩み出した。ハンター試験まであと二日。この短い期間でさらに力を磨き上げる決意を固めていた。

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