第三話:二人の青年
ゼルは巨大なトロールの前に立ち、襲われている少年たちを見据えた。彼らは必死に逃げようとしても、恐怖に足がすくんで動けなくなっている。
「……なるほど、手応えがありそうだ」
ゼルは静かに息を整え、トロールに向かって歩み寄った。少年たちはその姿に驚きの表情を浮かべた。
「おい、危ないぞ! 逃げろ!」
赤い髪の少年が叫ぶ。彼はバンダナを巻き、短剣を二本握りしめていた。
「大丈夫だ。お前たちはそこで見ていろ」
ゼルは冷静に告げると、跳躍力を活かして一気にトロールの頭上へ飛び上がった。そしてアルミラージから得た角を射出し、トロールの目を狙う。
しかしトロールはその巨大な腕で防御し、角を弾き返した。その硬い皮膚と圧倒的な力に、ゼルは眉をひそめる。
「……なるほど。オーガよりも厄介か」
トロールは咆哮を上げながら棍棒を振り下ろしてきた。その一撃は地面を砕き、大量の土煙を巻き上げる。ゼルは跳躍力で回避しようとしたが、その衝撃波に巻き込まれ、背中から地面に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
強烈な痛みに一瞬意識が遠のきかける。
「オーガの能力がなかったら危なかった」
ゼルは立ち上がり、再びトロールに向き直った。今度はオーガの力を試すべく、全力で地面を蹴り上げ、一気にトロールの懐へ飛び込む。
「これでどうだ!」
ゼルは鋭い手刀を繰り出し、トロールの首元に深々と突き刺した。その瞬間、トロールは苦悶の表情を浮かべながら倒れ込み、その巨体が地面に沈黙した。
「オーガの力、とてつもないな……」
ゼルは息を整えながら、トロールから得た能力を確認する。
……何が変化した? またハズレか?
「はぁ」
ゼルは肩をすくめながら少年たちの方へ歩み寄った。
「お、お前すげえな! 俺たちと同じくらいの年なのに、あんな魔物を倒すなんて!」
赤い髪の少年が興奮気味に話しかけてきた。その言葉にゼルは眉をひそめる。
「……同じくらいの年?」
「え?」ゼルは自分の手を見つめる。その肌は若々しくなっていた。彼はいそいで近くの湖へ向かい、水面に映る自分の姿を確認した。そこには、15才くらいの白髪で赤い目をした少年が映った。
「これは……?」
彼は驚きを隠せず、水面に映る自分の顔をじっと見つめた。その顔立ちは15歳前後の少年そのものだった。
「おい、お前名前は何て言うんだ?」
赤い髪の少年が尋ねてきた。
「お、俺か……ゼルだ。ゼル=ファルド」
ゼルは淡々と答える。
「俺はリューク! 見ての通り、短剣使いだ!」
赤い髪の少年――リュークが胸を張って自己紹介する。
「ぼ、僕はカイル。風魔法の使い手だよ!」
黒髪でメガネの少年――カイルが穏やかな口調で続ける。
「で、お前どこへ行くんだ?」
リュークが尋ねる。
「まだ決めていない。お前たちは?」
ゼルが問い返すと、リュークとカイルは顔を見合わせて答えた。
「俺たちは3日後のハンター試験に向けて特訓中なんだ!」
リュークが嬉しそうに言う。
「ハンター試験?」
ゼルは首を傾げる。
「知らないのか? 狩猟の権利を得るための試験だよ。この辺りには魔物がうじゃうじゃ湧いてるから、狩猟の権利がないと安全に活動できないんだ」
カイルが説明する。
「狩猟の権利を持ってないで狩猟をしていたらどうなるんだ?」
ゼルがさらに尋ねる。
「捕まるか、遠くへ流されるって聞いたことがあるよ」
リュークが答える。その言葉にゼルは内心焦りを覚えた。
(今の状態で捕まったりしたら終わりだ! これはーー)
「……そうか。一応受けることにするよ」
ゼルは静かに決意を固めた。
「受付は当日だから安心して!」
リュークが笑顔で言った。
次回:ゼルという名の師匠