第二話:オーガの能力
しばらく森の中を進みながら、ゼル=ファルドはスライムを次々と仕留めていった。スライムから得た跳躍力は、彼の身体能力を徐々に高めていく。
「これで……四十体目か」
ゼルは最後のスライムを手刀で切り裂き、その残骸が消えると同時に体内に新たな感覚が芽生えた。足元から湧き上がる力、筋肉の引き締まり。跳躍力がさらに向上し、通常時の八倍近い高さまで跳べるようになったことを感じ取る。
「ふむ、これならば……試してみるか」
彼は地面を蹴り上げ、一気に木々の間を飛び越えた。空中で風を切る感覚が心地よい。視界が開け、森の奥に広がる景色が少し見渡せる。その中で、一際目立つ白い毛並みを持つ生物が目に入った。
「……あれは?」
ゼルは着地すると、その生物の元へ向かった。そこにいたのは、一角を持つウサギ――アルミラージだった。その鋭い角は光を反射し、まるで刃物のような輝きを放っている。
「……あいつの能力も試してみる価値がありそうだ」
ゼルは慎重に距離を詰める。アルミラージは彼の気配に気づき、警戒心を露わにする。鋭い目つきでゼルを睨みながら、角を突き出して突進してきた。
「ふん、速いが……」
ゼルはスライムから得た跳躍力で軽やかにその攻撃をかわす。そして空中から木の枝を足場に急降下し、手刀で正確にアルミラージを仕留めた。
アルミラージの体が消滅すると同時に、ゼルの体に新たな変化が訪れる。手のひらから微かな痛みと共に、一本の角が突き出てきた。
「ほう……これは面白い」
彼は試しに角を意識的に射出してみる。角は高速で遠くの木に突き刺さった。その威力にゼルは満足げに頷く。
「この能力、使い方次第ではかなり有用だな。精度は、まあまあかもしれないが、吸収を重ねれば全身から角を射出することも可能かもしれん」
しかしその時、背後から重い足音が響いてきた。
「……何だ?」
振り返ると、そこには巨大な体格と凶暴な目つきを持つオーガが立っていた。その手には大きな棍棒が握られており、一撃で人間を潰せそうな威圧感を放っている。
「ほう、なかなか骨のある相手かもな」
ゼルは冷静に構えながらも内心では警戒していた。この状態では全盛期の力には程遠い。オーガとの戦闘は決して容易ではないだろう。
オーガは咆哮を上げながら棍棒を振り下ろしてきた。その一撃は地面を砕き、土煙を巻き上げる。ゼルは跳躍力を活かしてその攻撃を回避しつつ、空中から角を射出して反撃した。
だが、オーガの皮膚は驚くほど硬く、角は表面を浅く傷つけただけだった。
「なるほど……防御力も高いか」
ゼルは地面に着地し、次の一手を考える。オーガは再び棍棒を振り回しながら突進してくる。その動きには隙が多いものの、一撃でも直撃すれば致命傷になりかねない。
「ならば……跳躍力で撹乱しつつ弱点を狙うしかない」
ゼルは再び空中へ飛び上がり、オーガの背後へ回り込んだ。そして首元を狙って角を射出する。しかしオーガは咄嗟に腕で防御し、その攻撃を防いだ。
「首元は聞くかと思ったが、厄介なやつだ……!」
それでもゼルは諦めず、跳躍力で隙を作る。そしてついにオーガが棍棒を振り下ろした瞬間、その勢いでバランスを崩した隙を見逃さず、一気に首元へ飛び込んだ。
「これで終わりだ!」
ゼルは角を射出し、オーガの喉元に深々と突き刺した。その瞬間、オーガは苦悶の表情を浮かべながら倒れ込み、その巨体が地面に沈黙した。
「ふぅ……手応えあったな」
ゼルは息を整えながら、オーガから得た能力を確認する。その瞬間、全身の筋肉が引き締まり、体が硬化する感覚が広がった。
「なるほど……筋肉強化か。これはとても戦闘に有用だ」
新たな力に満足しながらも、ゼルは周囲の気配に注意を払う。
すると遠くから男性たちの叫び声が聞こえてきた。
「何だ……?」
声の方へ静かに向かうと、そこには巨大なトロールが現れ、人間たちを襲っている光景が広がっていた。その姿にゼルは眉間に皺を寄せる。
「どうやら次の相手も決まったようだ……」
彼は静かに歩み寄りながら、新たな戦いへの準備を整えた。
次回:二人の青年