プロローグ:神々の判決は、追放と決まった
光も影も存在しない、ただ静寂だけが支配する広間。
そこに並ぶ十二の座は、宇宙群を束ねる最高神々の席。
その中央に立つのは、一人の男――冥王ゼル=ファルド・ルシフェリオン。
「ゼル=ファルド。我らはお前をこの宇宙より追放する」
主神の声は低く、しかし揺るがぬ。
「理由を聞こうか」
淡々とした口調の裏に、微かな怒りが滲む。
「お前は確かに秩序を守護していたといえた。しかし、辺境連合戦争において、全議会が停戦を決議した後も、貴様は独断で侵攻を続け、三十三の星系を焼いた。理由は“暴政を放置すれば民が苦しむ”と」
「事実だ。民の嘆きは議場には届かぬ。だから私が終わらせた」
「それは秩序ではない。お前の勝手だ」
主神の言葉に、広間の空気が重く沈む。
神々にとって秩序は、数千年先までの均衡を維持する計算の果てにある。そこに感情は確かに不要だ。
だがゼル=ファルドは、秩序よりも目の前の命を優先した。
その行動は、神々の体系から見れば最大の逸脱だった。
「……なるほど。お前たちにとって、救う価値のある命は、計算に組み込めるものだけだということか」
その皮肉を最後に、ゼル=ファルドは前を向く。
「いいだろう。私を追放しろ。ただし覚えておけよ。どこに落ちても、私は同じことをする」
主神が手をかざす。十二の座から一斉に封印光が放たれ、彼の存在をこの宇宙から削り取る。
空間が崩れ、視界に青い星が映り込む。
――地球。
その海は濁り、空は霞み、それでも人々は必死に灯りをともしていた。
ゼル=ファルドは小さく息を吐く。
「新しい舞台か……。まあいい、何にせよリスタートだ」
次の瞬間、彼は青い星の重力井戸へと飲み込まれた。