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「そらごとを聞きて真と為す事」
こちらは作品世界を広げるための挿入です。刺身のつまみたいなもんです。読みたくない方は飛ばしていただいて大丈夫です。ストーリーに影響はありません。
「そらごとを聞きて真と為す事」
今は昔、ある僧の武蔵国の某山の峠よりふもと行きけるに、日暮れ時になりぬ。この僧、はや日も暮れぬ。疾く行かむと思ひけるに、いづちよりか、人のわれを呼ぶ声聞こえけり。
「誰か呼ぶ」と問へば、「われこそ呼ぶなれ」と答ふ声聞こえたり。
僧、あやしと思ひて見るに、縞の衣着たるわらはの、双の目にゑみ浮かべたるあり。
「誰そ」と問へば、「われは空言童子なり。何か噺聞かせ給へ」といふ。
「何の噺ぞ」と問へば、「をかしき噺なり」と答ふ。
童いふやう「もしわれにいとをかしき噺を聞かさば、その噺、やがていかやうにてもかならず真になりなむ」とぞいひける。
(後略)
(『古今霊異記』より)