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11 誰がバカだ!

    12 


「どういうこと?」

 ムッとして、不満気な表情の空言童子が振り返り、黙ってうつむく紗和子の姿を見た。


「お願い、野原くんを助けて…」

 紗和子は振り返った童子のことを見ることなく、下を向いたまま同じ言葉を繰り返した。


「ふ~ん、そう・・・」

 童子は両手を頭の後ろで組んで口を尖らせた。

「ああ~あ、つまんない。もうお終いかぁ…」



 その時、誰かが背後から童子の口の両端りょうはしに指を突っ込み、口が裂けんばかりに、思いっきり左右に引っ張った。

「んがぁ、誰⁉ ひゃ、ひゃめろー‼」ぎょろ目をいて、驚いた童子が叫んだ。


「こんのぉ、クソガキぃ~! なにしてくれやがったぁ~‼」

 声がしたと思うと、ぬらぁっとして、蒼ざめた幽霊のような、血色の悪い顔が、童子の背後からのぞいた。


 ただならぬ様子に紗和子が顔を上げると、一樹が左腕でがっしりと童子の胴を掴み、右手で口をふさいでいる。

「野原くん! どうして…⁉」

「そんなこと知るか! それより今のうちに早くコイツ、祓ってくれ‼」


(テメエ死んだはずだろ、なんで? どうして?)

 二人の頭に、口をふさがれてしゃべることの出来ない童子の心の声が響いてくる。


「うるせえガキ、黙ってろ!」

 言うが早いか、一樹と童子、二人の全身が燃え上がり、見る間に炎に包まれる。一樹の持つ発火能力だった。


(うあぁぁぁ、熱い、熱い、熱い。離せ、離せよぉ!)

 童子はバタバタと身悶えするが、その身をがっしりと掴まれ、子供の姿のままでは一樹の腕から抜け出すことが出来ない。


「どうなってるの・・・?」

「いいから早く! さわこ。――はらえ‼」

「う、うん、わかった!」

 

 ぱん‼ っと、紗和子が勢いよく柏手かしわでを打つ。


  ――なんじ、もののけよ 我、汝が魂にれいを下す

  我の命ずるところにりて、速やかに汝が元なる棲み処(すみか)、闇へと去れ‼



 紗和子の全身から幾筋もの紅いオーラが立ち昇った。

 そうして、それらが一本の光となり、童子の創った結界の低い天井に集まって、小さく渦を巻き始めた。

 その渦を見上げた童子が慌て出した。


(わぁっ、バカ、バカ、やめろよぉ‼)

「うっせー、黙ってろ!」

 怒った一樹がそう言って、さらに力を込めると、二人を包み込む周囲の炎が一段と大きく燃え上がった。


(熱い! 熱い! 熱い~っ!)

 ジタバタしながら叫ぶ童子の姿が形を崩し、見る見る黒い影のように歪み出す。


(くっそぉー)

 ぐにゃり、とその姿がじ曲がったかと思うと、空言童子は、ぬるっ、と一樹の腕を擦り抜け、引っ張った水飴のように伸びて、天上の光の渦へと、どんどん吸い込まれて行く。


「ばぁか、バカ、ば~か、もう二度とお前たちなんかと、一緒に遊んでやんないんだからなぁ~‼」

 童子の最後っの叫びを吸いこんで、天上で渦巻いていた光が、瞬く間に消えて行った。


「ふん! そんなの、こっちが断りよ」

 閉じていた目を開き、 紗和子が天井を仰いでぽつりと言った。



「そうだ、野原くん!」


 一樹は脱力したように、紗和子のすぐに近くに座り込んでいる。

 いつの間にか結界は消え、気が付くと、いつぞや一樹と二人で妖怪に遭遇し、そのあと戻って来た、あの駅前の公園にいた。

 辺りの様子をうかがいながら、もしかするとこの辺りには霊道でもあるのかもしれないと紗和子は思った。 


「大丈夫、野原くん?」 

「ああ…、まぁ、なんとか…。それより、童子は? 祓えたのか?」

 一樹も結界の消滅に気が付いたようで、周囲を見ている。


「あの子、自分にお祓いは効かない、って言ってたし、わからないけど。野原くんがだいぶ力を弱らせてくれてたから、たぶん」


「そうか…」大きく息をいた。



「でも、なんなの? 心臓が止まって、息もしていなかったのに。どうして生きているの?」

「さあ…。そう訊かれても、そんなの、自分でもよくわかんねえよ。ああ、ほら、きっと俺ってバケ…」

「オバケだから?」

 わざとらしく紗和子が一樹の言葉を遮った。


「ちがう!」

「じゃっ、おバカだからだ!」

「誰がバカだ!」


 不意に、紗和子の制服のポケットから、メッセージの受信音が響いた。紗和子がスマホを取り出して確認する。


      めぐむの意識が戻った!

      中臣があの子を祓ってくれたの?  ありがとう♡♡  


「よかった! 黒子先輩、意識が戻ったって‼」

「ホントか⁉」

「うん! ――えっ、あっ! 大変、野原くん、もう七時半過ぎてるよ!」


 スマホで時間を確認した紗和子が言った。いつもなら、もうそろそろ電車に乗り込んでいなければいけない時刻だ。

「ええっ、どうなってんの? もう朝?」


 ふと見ると、まばらに建ち並ぶ駅前のビルの隙間から、こちらに向かって朝陽が射している。

「なにぃー! 空言童子とやり合っている間に、もう一晩過ぎたってのか?」

「そうみたい」

「そんな馬鹿な。ちくしょう、童子のヤツ!」



「ああっ! 大変だよ、野原くん!」

 スマホの画面を見ながら、再び紗和子が叫んだ。

「なんだ? 今度はどうした⁉」

「野原くんと一緒に人を捜している、って連絡した後、そのあと一晩中、連絡もしないで家に帰らなかったから、お父さん、かんかんだよ!」

「なあんだ、ハハっ。――まあでも、そうだよな、そういうとこ、女の子は特に大変だよなぁ」


「どうしよう、殺されちゃう…」

 眉を寄せ、深刻な顔で紗和子がつぶやいた。


「まさかそんな。可愛い娘にそんなことしないって」

「ちがうよ、殺されちゃうのは野原くんだよ」真剣な目でこちらを見た。

「えっ?」


「私が朝まで男の子と二人で一緒に居た、なんて聞いたら、お父さんきっと逆上して、愛用の包丁で野原くんのこと、ブスッ!と…」

 いきなり、紗和子が手にしたスマホを刃物に見立て、恐い顔で一樹の胸に突き刺す真似をする。


「ひぇっ!」

 不意討ちに、思わず一樹が仰け反った。

 けれど、紗和子は構わずそのまま勢いよく彼の胸に飛び込んで抱きついた。

 そうしてゆっくりと顔を上げると、耳元にそっと囁いた。


「でもよかった。ほんとうに。生きていてくれて…」




 

 『附記』


「ちょっとほら、あんた早く来なさいよ!」

 階下から美穂の声がする。


「ええっ! そんな、ちょっと待てって、これ結構重いんだって!」

 大きな段ボール箱を上に三つ重ねた状態で、ふらふらと階段を下りて来た一樹が、二人の後を追って、左へ行こうとしたが、前がよく見えない。


「まったく、それにしても、ほんとうに人使いが荒いわよね、あの顧問」

 いかにも憎々しげに美穂が言う。

「でも今日は男手があってよかったじゃない」紗和子が応じた。

「そうねえ。まぁ、あんなんでも居ないよりはマシかもね」

 二人、顔を見合わせてケラケラと笑う。


「あっ、野原くん、どこ行くの、倉庫はそっちじゃないよ!」紗和子が叫んだ。

「ええっ~、ウソっ!」


「あんた、どこ見てんのよ、こっちに決まってるでしょ!」

「なんだよ、先生よりお前らの方がよっぽど人使いが荒いわ!」

 そう言って、一樹が方向転換しようとした時、前から小走りでやって来た女子生徒と、すれ違いざまにぶつかりそうになった。


「おわっ!」

 それを避けようと身体をひねった瞬間、バランスを崩して段ボール箱を落とし、そのまま廊下に転がった。


    イッテぇぇ・・・


「ごめんなさい‼ 大丈夫ですか⁉」

 すぐに通り過ぎた女子生徒が、驚いて振り返った。


「何やってんのよ、あんた」

 それを見ていた美穂が近寄って来て言った。


「ああ先輩、大丈夫です。この男、頑丈だから」

「でも、怪我してたら大変」

 心配そうな顔で、廊下に座り込んでいる一樹を覗き込むようにして言った。

「すぐ保健室に・・・」


「ホント、平気です。この人、殺しても死なないんで」

 駄目押しに紗和子が横から顔を出して言った。

「でも・・・」


「お前らなぁ・・・。ちったぁ人のこと心配したらどうなんだ!」

 起き上がり、美穂と紗和子を見て口をへの字にする。


「ああ、でも本当に俺、大丈夫なんで御心配なく。すみません。荷物で前が見えなくて」

 そう言って振り向き、笑顔をつくる。


「ほんとうに、大丈夫ですか?」

 それでもまだ心配そうに、彼女が一樹の顔を覗き込んだ。

 その時、一瞬二人の眼が合った。

  

   ――この人・・・


「麻里子! 何やってんの? 行くよぉ!」

 廊下の向こうの方から、数名の友達が彼女を呼ぶ声がした。


「ああ、うん、わかった、今行く!」

 大きめの声で友人たちに返事をすると、深山麻里子は、振り返って三人に軽く一礼し、そのまま向こうへ駆けて行った。



   ******



「そう言えばさ、あんたが空言童子にした『ツマラナイ噺』って、ほんとは何だったの?」

 荷物を運び終えた帰り道、ニヤニヤしながら美穂が言った。


「『オモシロイ噺』の間違いだろ! またその話か、もういいだろそんなこと」

「でも、私もそれ、やっぱり気になるなぁ」紗和子が言う。


「まぁ、あんたのことだから、どうせ自分は超能力なんかとは無縁な、平凡な人生を送るんだ、とかなんとか、そういう『ツマラナイ噺』でもしたんでしょうけど」

 そう言って、美穂はゲラゲラ笑い出した。


「だから、『オモシロイ噺』だろ!」

「ほんとにそうなの?」

「んん…、まあ、そんなとこだ」

「はあぁ…、野原くん。そりゃ童子にもオモシロクない、とか言われるわけだよ」

 呆れたように紗和子が言った。


「うるせえなぁ、ほっとけ!」


                    (完)


                    

最後までお読みいただきありがとうございました。



「トデン研始末記」はあと一つふたつ、ネタはあるのですが、ここらで紗和子たちには一旦お休みしていただいて、これから何か別のモノを書く予定です。「トデン研始末記」の方は折に触れて、今後また出していければと思います。

いつも見てくださる方々、本当にありがとうございます。新作はいつ出せるかわかりませんが、その際はまたよろしくお願いいたします。_(._.)_



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