表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/13

9 俺が遊んでやるよ!

  10


「あれはいつだったかなぁ。初めて会ったおがみ屋さん。

 ――そう、確か、エンのなんとか言うオジサンだったけど。しきりと僕を黄泉の国へ返そうとするからさ、『僕にお祓いは効かないよ!』って、ひとこと言ってやったんだ」

 立ち上がった童子は、転げ回った時に付いたシャツとズボンの汚れを、両手でパンパンと軽く払った。


「そしたらそのオジサン、急に霊力が効かなくなっちゃって、もう大慌てさ。アハハ・・・」

 声をあげてケラケラと笑い出した。


「エンのなんとかって・・・、まさか、役行者えんのぎょうじゃのこと⁉」

 驚いた紗和子が言う。


「う~ん・・・」

 童子は少しだけ上を見て考える仕草をする。

 と、また前を向いて答えた。 

「そう言えば、確かそんな名前だったかも」


「おい、誰だよ? 役行者って?」

「知らないの? 役小角えんのおづの。――修験道の開祖、飛鳥時代の呪術師だよ」

 その時、横にいる一樹は、紗和子の表情が一瞬曇るのを見た。

「飛鳥時代の呪術師・・・」


「だけどさ、そのオジサン。霊力で僕を祓えないとわかった途端、飼っていた鬼をけしかけたり、持っていた錫杖しゃくじょうで僕に殴り掛かったりして・・・、ほーんと大人気無いよね。こんな幼気いたいけな子供相手に」

 言葉とは裏腹に、ニヤリと笑う童子の顔が妙に大人びていて、何だか気味が悪い。



「なるほど、そりゃいいこと聞いたぜ!」

 瞬時にステップを踏んで目の前まで近づき、身をひねって、一樹が童子の顔を目掛けて拳を振り上げた。


 童子が叫ぶ。


   ――僕は大人!   


 振り下ろした一樹の拳が届くより一瞬速く、むくむくと童子の身体が大きくなり、ガシッと左のてのひらで受け止めた。


   ――僕は強い!


 そう言うと、今度は右手の拳で一樹の腹をしたたか殴りつけた。


 思い切りふっ飛ばされた一樹が、紗和子の前でゴロゴロと転がった。


「野原くん!」

 口元に両手をあて、大きく目を見開いた紗和子が叫ぶ。


「イッテエ・・・。ちくしょう」

 殴られた腹を右手で押さえながら、立ち上がろうとする一樹に、紗和子が駆け寄って来て手を添える。

「大丈夫? 野原くん!」


「クソッ、ガキのくせになんて力だ・・・」

「だって、野原くん・・・。あいつ、もう子供じゃないよ」紗和子が呟いた。

「えっ⁉」」


 紗和子の言葉に顔を上げた一樹の目に、ボーダーのTシャツ 、チノパンツに白のスニーカー姿の大男が映る。筋肉隆々の逞しいカラダ。ボディービルダーよろしくポーズを決める。


「ねっ、見て、見て、僕の言う通り、ほら、強い大人の姿になったでしょ?」

 盛り上がった筋肉に、ぴちぴちのTシャツが今にも張り裂けそうだ。


「そうか。つまり君の言ったことは、何でも本当のことになるってことだね」

 大きくなった童子の姿を、紗和子が険しい眼で見つめる。 

「だとすると、嘘がいつ本当のことになるかも、君の胸三寸むねさんずんで決まるってことね?」


「うん。そうだよ」空言童子の眼が光った。


「なんだ、それ。最強かよ」呆れたように一樹が言った。

「そうさ、僕は強いよ。さあ二人とも、もっともっと一緒に遊ぼうよ!」

 童子がCapのつばを掴んで再び後ろに回した。  


「一つ教えて。なぜ今日になって、仲代なかしろさんから黒子くろす先輩を取り上げようとしたの?」険しい表情で紗和子が尋ねた。

「別に。特に理由わけなんてないよ」対して、童子はさらりと言った。


「いつも、それを気まぐれで決めてるってこと?」

「まあ、そういうことになるのかな」

 腕組みをし、こちらを見てニヤニヤ笑いながら答える空言童子の声が、いつの間にか子供の声から、変声期を過ぎた青年独特の、やや低いそれへと変わっている。


いて言えば、僕のことが見える人が揃っている、君たちがオモシロそうだったから、かな。一緒に遊ぼうと思って」

「なに言ってんの! 大体ね、あんたは面白半分の軽い気持ちなのかも知れないけれど、ウソ話を事実にしたからって、命やら、命より大事なモノを取られちゃ、こっちはたまんないのよ‼」

 たまりかねて紗和子が叫んだ。


「ふん。だって、――それが僕という存在だもの」

 紗和子の言葉に相好そうごうを崩した童子に、悪びれた様子は微塵もない。



「下がってろ、さわこ」

 二人のやり取りを聞いていた一樹が、紗和子の手を取り、そっと後ろに回すように促して小声で言う。

「野原くん⁉」

 驚いた紗和子が一樹を見た。


「お祓いが効かない、祓えないと言うのなら、とりあえず、俺の能力で攻撃してみるしかないだろ」

「だけど…」

 追いすがるようにその背中に紗和子が言う。

 振り向くことなく、一樹が両腕を交差させる。


「これ以上厄介なことになる前に、一気にケリをつける」

 その言葉と同時に、蒼白い光を伴って、一樹の全身からバチバチと火花が飛ぶ。

「まあ、あんな子供の姿じゃ気が引けたけど・・・。大人の姿になってくれたし。あれなら、今度こそ遠慮なくぶっ飛ばせる」


――空言童子! そんなに遊びたきゃ、俺が遊んでやるよ!

 

 叫んで一樹が飛び出す。

 その刹那せつな、目の前に現れた一樹を目掛け、すぐさま童子の鋭い拳が飛ぶ。

 間一髪でそれをかわし、その勢いで跳び上がった一樹が、童子の太い右腕を掴んだ。満を持して溜め込んでいた電気をそのまま一気に放出する。


    バリバリバリバリ‼

 

 不意に落雷に撃たれたように、マッチョな姿に変わった童子の全身を一樹の電撃が貫く。


「うわぁぁぁ!」堪らず童子が悲鳴をあげた。


 思い切り足を踏ん張り、その丸太のような太い腕に力を込めて、童子が思い切り一樹を振り払った。

 無理をせず、そのまま飛んで宙を舞い、一回転して着地した一樹が振り返った。


「やったか⁉」

 見ると、肩で大きく息をする空言童子が、元の子供の姿に戻っている。電撃で焼かれた全身から白い煙が上がっている。


「見ろ、さわこ‼ 童子の術が解けて元に戻っている。今なら祓えるかも⁉」

「やってみる!」

 紗和子が目を閉じ、手を合わせ、気を集中する。



「ふぅぅ、やるね・・・、これが、おにいちゃんの力かい? ・・・ははっ、オモシロいよ‼」

 切れ切れに言った童子の息が上がっている。


「強がりはやめろ。大人しくこのまま祓われろ! さもなきゃ、もう一発・・・」


 しかし、空言童子は一樹の言葉を無視して言葉を続ける。


「僕はさ、いつもこんなふうに子どもの格好をしているだろう・・・。――だから・・・、いつも、大人たちがいろんなモノをくれるんだ」

 俯き加減で話す童子の息遣いが、次第に落ち着いてくる。


「いつだったか、漫画がたくさん載っている雑誌をもらったよ。あれはオモシロかったなあ」

 再び童子が顔を上げた。

 その顔には、例の大人びた薄笑いが戻っている。


「何言ってんだ、お前?」

 訝るように一樹が言った。


「一番好きだったのは、凄く強い男が出てくるヤツ。あれは格好よかったな、その強い人のセリフ。知ってる? 確か・・・」 

 不意に、童子が祓いの祈りに集中する紗和子を見て指を指す。


  ――お前はもう・・・


「なっ! やめろ!」

 童子の言葉の意味に気付いた一樹が叫んだ。


 が、次の瞬間、視線を移した童子は、一樹の方を見て指を差した。

 

「死んでいる! て、いうんだよ‼」


 突き出した右腕の掌を開き、ぎゅっ、と一樹の心臓を掴む真似をする。


「ぐっ!」一樹がうめく。

 見えない手に自分の心臓を鷲掴みにされた感触が、一樹の胸にはしった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ