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第7話 愛の逃避行なのでしょうか?

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 第7話 愛の逃避行なのでしょうか?

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 ガタゴトガッタンッとたまに大きな振動がある馬車は、けっして乗り心地のいいものではありません。

 昨夜は一睡もしてなかった小次郎は眠気に襲われてしまいます。目がショボショボ、頭がホワーン、次第に意識を手放すのでした。


 小次郎は次第に美土里にもたれかかっていきます。意識がないため結構な重量が美土里にかかりますが、美土里は微笑みを浮かべ小次郎を受け入れます。

 この一週間、小次郎は水で体を拭くだけで、お風呂には入っていません。それでもオヤジ臭はないはずですが……クンカクンカ、美土里は小次郎の臭いを最も近くで堪能するのでありました。


 なぜか年上の男性が好き。どうしてなのか分からない。気づくと年上の男性を目で追っているのです。

 誰でもいいわけではないのです。清潔感があり、大人の色気が垣間見える人がいいのです。


 では、その条件に小次郎が当てはまるでしょうか?

 答えは『否』であります。

 清潔感はともかく、大人の色気が小次郎にあるとはとても思えません。それなのに、美土里は小次郎が気になるのです。好みとは全く違うタイプの人なのに、なぜか気になるのでした。美土里でもよく分かっていないのです。ですが、気になる何かが、小次郎にはあるのです。


 馬がいななき、馬車が急停車しました。数人の乗客が飛ばされ、折り重なりました。その中に小次郎もいます。彼は寝ていたため踏ん張ることもできず、天地が逆転したのでした。


「いたた……これ、どんな状況?」

 痛みにより無理矢理覚醒させられた小次郎は、下敷きになった人に謝りながら起き上がりました。


「急になんだしー?」

 柱を掴かんで持ちこたえた美土里は、何が起こったのか状況把握に務めるのでした。


「と、盗賊だ!」

 この国では珍しくもない盗賊が現れたようです。石を投げたら盗賊に当たる。そんな言葉があるくらい、この国では盗賊が多いのです。


 駅馬車の屋根から三人の人影が飛び降りました。この駅馬車を守る護衛の人たちです。

 彼らは盗賊や魔物から駅馬車を守るため、駅馬車の御者が雇っている人たちです。


 護衛がいない駅馬車は駅馬車ではない。生肉を担いで猛獣の檻の中に入るようなものだ。このように言われるほど旅は危険なものなのです。この国では……。


 屋根に一人の護衛が残っています。その一人が魔法を放ちました。赤々と燃え盛る火の槍が盗賊へと飛翔します。

 盗賊は十人ほどでしょうか。彼らの中に戦闘で魔法を使えるような者はいないようです。

 魔法が使えるなら、それなりの職に就けます。わざわざ盗賊をする必要なないのです。

 そして、魔法を受けたら一巻の終わりなのを、彼らは知っています。


 駅馬車の護衛はそれほど高給ではありません。魔法使いなら他にいくらでも仕事はあるのです。

 ですから、盗賊たちはまさか護衛に魔法使いがいるとは思っていなかったようで、かなり慌てております。


「盗賊が逃げ出したぞ!」

 戦いを見守っていた乗客の一人が歓喜の表情で叫びました。

 護衛たちはかなりの腕前だったのでしょう、盗賊をまったく寄せつけませんでした。


 盗賊は四人が死亡し、二人が怪我を負っています。他の数人は逃げ去りました。

 怪我をした二人は、一人では歩けないくらいの怪我を負っているようです。護衛たちは容赦なく二人を殺しました。命乞いをする盗賊に、一切の慈悲を排した行動です。


 そもそも駅馬車は乗客と御者、そして護衛だけで満員なのです。

 護衛が屋根に乗っているのは見張りの意味もありますが、車内に乗るスペースがないからなのです。

 つまり、これ以上の人を乗せる余裕はありません。歩けない盗賊など足手まといでしかないのです。


 また、治療をするアイテムにポーションというものがありますが、それなりに高額なものです。盗賊にお金を使うくらいなら、殺してしまったほうが手っ取り早いのでした。


「あれが戦闘……」

「本物の命のやりとりだったわね……」

 血の臭いが駅馬車にまで届きます。

 小次郎と美土里の二人はその臭いに胸焼けを起こしそうになりましたが、吐いてしまうとお互いに失うものが多いのです。

 特にうら若き乙女である美土里は、死んでもそんな姿を人前では見せたくありません。特に小次郎の前では。


 吐くことなく旅を再開した小次郎と美土里は、夕方前に町に入りました。

 まだシャイドー伯爵領ではありませんが、この町で二泊してまた駅馬車でシャイドー伯爵領へと向かいます。


「へー、なかなかよさそうな宿じゃない。あの御者オジーちゃんいい趣味しているし」

 二人は駅馬車の御者から聞いた宿に入りました。


「お泊りでしょうか」

 女将が二人に定形文で対応します。


「はい。二人ですが、二泊できますか?」

「一部屋、ダブルベッドでよろしいですか」

「いえ、ふた―――」

「それでいいし」

「え?」

「何? あたしと同室は嫌なの?」

「あ、え、い、う、え、お……?」

 あたふたするだけで、ちゃんと返事ができない小次郎です。つまり、美土里の主張が通って一室でダブルベッドの部屋になりました。


(本気なのか? 俺は自分で言うのもなんだが、冴えないオッサンだぞ?)

 今は二十二歳くらいの容姿です。そんな小次郎は、ダブルベッドを前に呆然と立ち尽くすのでした。



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