第5話 調剤Exは伊達ではないようです
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第5話 調剤Exは伊達ではないようです
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「レベルが上がると、新しく恩恵を覚えることがあります。ただし、同じクラスでも個人個人で覚える恩恵が違ったり、覚えるレベルが違うのが一般的です。それに、人によって使える恩恵が少ない人もいれば、多い人もいるのです」
小次郎と四人は実際に恩恵を使ってみることになりました。
薬師関係の書籍が三冊、調剤に必要な器具一式、そして薬の材料になる品々が、小次郎の前に並んでおります。
「これをもらってもいいのですか?」
「はい。国王陛下からの下賜品です。大事に使ってください」
「ありがとうございます」
国王のライドック四世は意外といい人だと思う小次郎ですが、実はこれらの品々はアイザック老師が手配したものです。他の四人に不信感を持たれないために、追放が決定している小次郎にも配慮をしているというアピールであります。
薬の素材として、いくつかのものが目の前に並びますが、それらに共通するのは植物だということでしょうか。樹皮、茎、葉、実などがあります。
統牙と雷斗は剣、理央と美土里は魔法の訓練をしています。
そのため、室内にいるのは小次郎だけです。
「放置ですか……分かっていましたよ、ええ、分かっていたとも」
期待されていないため、こういった対応になるのは納得はできませんが、理解はしています。
まずは薬師用の書籍に目を向けます。分厚いものは一冊で、他の二冊はかなり薄いものです。
これらを読んで自分で恩恵を使えるようになれということです。
「それじゃあ、読みますか」
用意してもらった云々ではなく、読まないという選択肢はありません。教えてもらえないのですから、自分でなんとかするしかないのです。
分厚い書籍を開き、内容を読んでいきます。文字は比較的大きく、一ページ読むのに、そこまで時間はかかりません。それによりますと、恩恵の調剤の効果はいくつかあります。
・薬の素材がなんとなく分かる。
・素材からどんな薬が製作可能かなんとなく分かる。
・調剤の手順がなんとなく分かる。
・一度調剤した薬は、二回目からは器具がなくても製作可能。
これらの効果は絶対にあるというわけではないようです。この四つの効果の中から一つだけ使えたり、全部使えたりとここでも個人差があるようです。
小次郎が『調剤Ex』に意識を集中させると、これら全ての効果を使える気がしました。
(ラノベなどでスキルや加護に意識を集中したら、使い方が分かるというのがあったからやってみたら、本当に分かるんだ……これ、生産が『Ex』の効果なのかな?)
そこら辺は不明ですが、何はともあれ恩恵の効果が分かることはありがたいことです。
調剤の効果により目の前にある素材からどのような薬が作れるか、なんとなく分かりました。
ぼんやりと、こうすれば大丈夫。そんなざっくりとしたインスピレーションが降りてきたのです。
それに沿って調剤を開始すると、なんとなく興が乗ってきて集中して作業を進めました。
樹皮を湯に浸し、柔らかくなったところで不要なものを取り除きます。茶色の部分は全部取るのです。
「ふっふっふんっ♪」
こういう細かいことは嫌いではありません。むしろ没頭できるから結構好きなのです。その証拠に無意識に鼻歌が出ています。
インスピレーションの導きにより、小次郎は白い粉状の薬を作りました。
「これが止瀉薬か」
日本のように蛇口をひねると綺麗な水が出てくるわけではないこの世界では、水や食べ物が原因の下痢はかなり多いのでした。
ですから、止瀉薬の需要は薬の中でもトップクラスに高いのです。
「正露●のように黒くないし、臭いもキツくないんだな」
そもそも丸薬でもないですね。
幸いなことに、小次郎はこちらにきてまだお腹を下してはいませんが、いつ下痢になるか分からないのがこの世界の常識です。
「下痢はヤバいっすからね~♪」
小次郎は鼻歌を奏でながら、今度はなんの加工もしていない樹皮からいきなり止瀉薬を作り出しました。
「意外と簡単にできるものだね」
さすがは『Ex』の調剤です。なかなかの高品質な止瀉薬ができました。
一方、統牙と雷斗は騎士相手に一歩も引かず剣の稽古をしております。
統牙は剣身が一メートルほどの両手剣、雷斗に至っては小次郎よりも大きな包丁のような剣を扱っています。
統牙は恩恵・魔法剣刀術により初心者とは思えない剣の鋭さがあり、雷斗は恩恵・重撃と大得物によってバカデカい剣を軽々と扱っております。
二人は小次郎と違い、さすがは英雄といった視線を集めているのでした。
理央と美土里も素晴らしい魔法の才を発揮しております。
特に理央の攻撃魔法は、これでレベル一なのかと疑問に思うほどの威力がありました。
美土里も素晴らしい魔法の才でありますが、理央には一歩、いえ、二歩は劣るでしょうか。
ただし、美土里の真骨頂は回復魔法にあります。骨折している騎士の腕をたった一回の治療で完治させたのです。
骨折はレベルが高い熟練の神官系クラスや医師系クラスでも、複数回の治療が必要になります。熟練の神官でもできない治療を、一回で完治させるのですからさすがというべきでしょう。
美土里は疲れたと大きな胸を張って両腕を上げて伸びをしながら食堂に入りました。
その後ろに続く高校生三人も疲れた顔をしています。
朝から一般常識と剣や魔法の訓練でくたくたなのであります。
小次郎といえば、一人で黙々と調剤をしていました。むしろ一人のほうが捗りました。
美土里は小次郎の姿を捜しますが、姿はありません。小次郎は今も調剤をしていたのです。
ロザンたちは小次郎のことをすっかり忘れており、夕方になって終わるように声をかけるのを失念していたのです。
「あの人、どうしたのかな~」
「美土里はオジサマ趣味っだからね。ウフフフ」
オジサマというよりは、年上が好みというだけだと美土里は頬を膨らまします。
今の小次郎は二十代前半まで若返っており、オジサマというには些か無理がある容姿をしていますが、なぜか気になるのです。
「なんか放っておけないんだよね~」
「私たちの召喚に巻き込まれたのは気の毒だけど、どうにもならないよ」
「あの人を見ていると、母性がくすぐられるんだ~」
女子二人が楽しくお喋りするその横で、統牙は苦虫を嚙み潰したような表情で食事を摂っています。
統牙は美土里に惚れているのですが、美土里にまったく相手にされないのです。
美土里は年上の男性が好みであり、同世代の統牙や雷斗はただの友達でしかないのでした。
チラチラと美土里に視線をやるため、周囲の者には統牙の気持ちが丸わかりですね。
その頃、小次郎は部屋の中が真っ暗になったことで、ようやく調剤を終えて自室に戻ったところでした。
机の上にロザンからもらった薬師関連の書籍、器具、素材、そして本日作った止瀉薬を置き、小次郎はベッドに座ります。
「ふー。なんかいい感じだったな。やっぱり能力の『生産Ex』と恩恵の『調剤Ex』は凄いなぁ」
少し休憩し、再び調剤を使って止瀉薬を作ります。止瀉薬の素材を全部使い切るまで止まらないでしょう。楽しくなるとのめり込んでしまうのが小次郎の悪しき癖なのです。
ドンッドンッドンッと太鼓でも叩いているかのようなノックがされました。大きな音に驚いた小次郎はおっかなびっくりとドアを開けます。
「あんた、夕食食べてないでしょ」
来訪者は美土里でした。今の彼女はこちらの世界の下士官用の軍服を着ています。小次郎にはなかなか萌えるコスチュームに見えてしまうのは仕方がありません。
「あ、うん。忘れてました」
頭をかいて気恥ずかしそうに美土里の鋭い視線を躱そうと思うのですが、そうはいきません。
「もう食堂しまったから、はい、これ」
「え?」
「サンドイッチを作ってもらったわ。ちゃんと食べないと、駄目……ん?」
「?」
美土里の目がどんどん細くなっていきます。その視線の先には、机の上にある大量の止瀉薬でした。
「あんた、もしかして部屋に帰ってもやっていたの?」
「はい。楽しくてつい」
「ふ~ん。ほどほどにしなさいよ」
オカンのような生暖かい言葉をかけ、美土里は去っていきます。
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氏 名 佐藤小次郎
称 号 巻き込まれた工員
クラス 薬師
レベル 4
生 産 Ex
恩 恵 調剤Ex
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寝る前にライフカードを確認したところ、一日でレベルが三つも上がっておりました。
午後から薬師の書を読み、それから調剤をしたにしては上がっているほうでしょう。