第22話 エルバーニュ国に入ったどー!
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第22話 エルバーニュ国に入ったどー!
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小次郎と美土里は無事にエルバーニュ国の町に到着しました。
この町はゴルリア・デ・ゼマード国やリッシュ共和国の国境から馬車で五日ほど内陸に入ったビルヘイトの町です。
あまり国境に近いと、暗部に気づかれるかもということで、街道を通ることなくここまでやってきたのでした。
暗部に気づかれても返り討ちにするつもりですが、どんなことにも絶対はないことから、攻撃されるリスクは避けるべきでしょう。
「町の雰囲気はいい感じだね」
かなり人で賑わっている町で、旅人や商人が多そうに小次郎には見えました。
「うん。悪くない感じだし」
人で賑わっているのですが、メトロンの町や水の都リバンズよりも治安はよさそうです。
リッシュ共和国では、美土里をナンパしていたハンターの二人が統括ギルド内で剣を抜いても、翌日には解放されていました。さらに、そのことを小次郎たちに知らせることもありませんでした。
それに職人組合の副組合長が条件も提示せずに、新レシピの公開を要求してきました。
さらにシャイアーという職員が新レシピの公開を要求してきました。こちらも条件を提示しなかったのです。
リッシュ共和国にはいいイメージはありませんし、町の空気も重かったのでした。
それに比べて、このビルヘイトの町は雰囲気がいいのです。温かな感じがします。
「とりあえず、薬を売ってくるよ」
「あたしも魔物を売ってくるし」
二人は統括ギルドに向かい、それぞれ受付カウンターに並びました。
小次郎は大きな背嚢を背負っており、いかにも旅の途中といった風体です。
「お待たせいたしました。本日のご用件はどういったことでしょうか」
「薬を引き取っていただきたいと思います。これが組合証です」
受付職員は拝見しますと、組合証を手に取った。
「組合証を確認いたしました。お薬を査定させていただきますので、トレイの上にお出しください」
受付職員がカウンターの上にトレイを置き、その中に小次郎が薬の小瓶を置いていきます。
トレイが一つでは足りず、二つめをほぼ満たしましたが、受付職員は顔色を変えず対応してくれます。
査定が終わり番号を呼ばれた小次郎に、受付職員は紙を提示します。査定内容が記載されたものです。
そこに記載されている内容を受付職員が説明してくれました。
「止瀉薬が二十本で六万六千ギル、解熱剤が二十本で八万八千ギル、鎮痛剤が三十本で二十二万ギルになります。合計で三十七万四千ギルになります。また、どの薬もとても品質が良いため、一割で申しわけないのですが、買い取り価格に上乗せをしております。この金額でよろしいでしょうか」
今回、小次郎は珍しい薬を出すと騒ぎになりかねないため、止瀉薬、解熱剤、鎮痛剤の三種類の薬を提出しました。
どれもリバンズにいた頃かその直後に調剤した薬ばかりです。
リッシュ共和国ではこのような上乗せはありませんでした。
一割と言ってはそれまでですが、このような対応を見てもこの国の印象がよくなるのは当然のことでしょう。
(この国は当たりかな)
何はともあれ、エルバーニュ国の通貨を得られました。
あとはこの三十七万四千ギルがどれほどの価値なのかを確認しないといけません。
統括ギルド内に併設されている購買部に立ち寄ります。
ここで調剤用の器具や薬の材料を購入するのです。
「へー、結構な種類がおいてあるんだ」
調剤の器具一つとっても、お値打ちなものから高級なものまであります。
小次郎はこれまで使っていたようなお値打ちの器具を選びました。
ゴルリア・デ・ゼマード国でもらったものとほぼ同じものですが、追放する者にいいものは渡さないというのがよく分かりました。
美土里と合流した小次郎は、その足で市場に向かいました。食料品から古着、雑貨など色々なものが手に入る場所です。
リッシュ共和国と物価を比べるのに、丁度いい場所でしょう。
「リンゴがあるよ」
「美味そうだな。買っていこうか」
「うん。お姉さん、これいくら?」
「あいよ。十個で五十ギルだよ」
美土里が支払いを終えて十個のリンゴを受け取ると、一個を小次郎に差し出します。
サクリッとよい歯応えのリンゴは、やや酸味が強いものの甘味がしっかりあり美味しいものでした。
この世界の買い物はマイバックが当たり前で、店側が袋を用意することはありません。
小次郎はちょっと大きめの籐の籠を持っているため、それにリンゴを入れます。
この籐の籠は山で過ごしていた際に、小次郎が編んだものです。
正確には籐ではないのですが、似たような植物があったので気分転換に作ってみたものです。
召喚前の世界で作り方を調べたことがあるため作れてしまったのですが、『生産Ex』という最高に手先が器用だからできることです。
パン、肉、野菜など食料を大量に購入し、人気のないところで美土里の収納に放り込みます。
「収納、マジ便利だね」
収納を人前で見せるのは構わないのですが、便利な魔法なので厄介に巻き込まれるかもしれないので、わざわざ人気のないところでしているわけです。
小次郎も考えすぎかと思わないではないのですが、用心に越したことはないですからね。
「小次郎も使えたらよかったのにね」
小次郎はどれだけ練習しても生活魔法一つ使うことができませんでした。
生産系の才能がいいほうに振り切っている感じなので、その反動で魔法は一切使えないみたいです。
「しかし、賑やかな町だね。リバンズよりも小さいのに、活気に溢れているよ」
「この町の近くに出るライトニングブルという魔物は、強さの割にお金になるからハンターがいい稼ぎになるって聞いたし」
「へー、ライトニングブルか。たしか牛型の魔物だったよね。肉が美味しいって本に書いてあったと思う」
ライトニングブルは直線的な攻撃をし、それを穴に落とすだけで安全な狩りができるのです。
穴は土魔法が使えれば大概の魔法使いが作れます。
狩りの方法が確立しており、土魔法の才能が現れていなくても魔法使いなら穴を作れることもあることから、安全でいい稼ぎになるのです。
毎日数十頭のライトニングブルが持ち込まれる統括ギルドは、活気に溢れています。
そして、ライトニングブルの肉を仕入れる商人が各地から集まってきますし、その護衛もいます。
そういった商人は各地の産物を持ってきますので、それを目当てにする商人も集まってきます。好循環ですね。
「二人部屋をお願いします」
「申しわけありません。本日は満室でして……」
宿で部屋を取ろうとすると、満室だと言われてしまいました。
「明日からアリシュマー神殿の祭りがありますので、遠方からも見物客の方がお越しになっており、恐らくどこの宿も満室かそれに近い状態だと思われます」
「あちゃー、タイミングが悪かったしー」
この周辺の地域では最大の祭りが明日から開催されます。
元の世界の神社の縁日のようなもので、正午前から始まって夜遅くまで神事が行われます。
祭りは三日間行われ、その間に人口の十倍ほどの十五万人が訪れると言われる大規模なものになっているのでした。
二人はいくつかの宿を回りましたが、宿はどこも満室でした。
「仕方ないから、野営するか」
「せっかく町にきたのに、最悪だし」
「時期が悪かったと、諦めよう」
町の広間は午後からかなりの人が場所取りを行っています。二人は町の外に出て、少し街道を進みます。
「ここら辺なら大丈夫かな」
「ドーム!」
美土里が魔法で土のドームを作ります。
十二畳ほどの広さがあり、ドラゴンの攻撃を受けても、壊れない頑丈なものです。
あのファイアドラゴンの襲撃を受けて、美土里はさらにドームの強度を上げているのでした。
「それじゃあ、俺は料理をするね」
小次郎は手際よく料理を始めます。
美土里は水甕に水を入れたり、竈を作って火を点けたりと手伝いをします。
これがいつもの風景になっており、小次郎たちは美味しい夕食に舌鼓を打つのでした。