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第21話 暗部は敵ではない

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 第21話 暗部は敵ではない

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 小次郎と美土里の愛の巣を襲ったドラゴンは、ファイアドラゴンでした。

 ドラゴンの中では弱い部類でしたが、それでもドラゴンです。世間一般では最強種なのです。


 そのドラゴンの素材は捨てるところがない薬の素材の宝庫でありました。

 小次郎はドラゴンの素材で薬を調剤したかったのですが、あの襲撃で融けたドームに、器具のほとんどが埋もれてしまいました。

 掘り起こしても、使い物にはならないでしょう。


「そろそろ人里に下りるか」

「りょ」

 調剤用の薬材は消失してしまいましたが、多くは美土里の収納に入っています。

 貴重な素材は全て無事だったので、そこまで物質的なダメージはありません。


 そして、魔法の練度を飛躍的に上げた美土里の収納は、以前よりもはるかに多くの容量があります。

 その中には小次郎が調剤した薬もたくさん収納されているのです。




 山を下りて国境を超えて少しした時でした、美土里は魔力感知で魔力を巧みに隠す人間の反応を感知しました。これだけわずかな魔力でも、今の美土里なら感知できます。それほど必死に訓練を行ってきたのです。

 異世界から召喚されて最高の才能を持ち、さらに『異世界から召喚された英雄』という称号、『水光すいこうの聖女』というクラスを持つ美土里が、愛する小次郎を傷つけられ本気になって訓練をしたのです。

 誰も今の美土里の魔力感知からは逃れられません。

 また、その隠蔽の練度からして、その対象が盗賊ではないことはすぐに判断できました。


「この先に敵意を持った人間が八人いるし」

 現在の美土里は、魔力に込められた敵意まで感じ取ることができるようになっています。美土里の修行の成果があってよかったと、微笑む小次郎でした。


「盗賊かな」

「多分、あの国の奴だし」

「そんなことも分かるの?」

「以前小次郎がやっつけたあいつらに似た気配の消し方をしてるし」

 ゴルリア・デ・ゼマード国が送り込んだ暗部に二度襲撃され、一度は小次郎が殺されかけました。


 あの時、美土里はまったく手も足もでませんでした。小次郎が大怪我をさせられ、自分は一瞬で意識を刈り取られたことを酷く気に病んでいます。

 あんなことは二度とあってはいけないし、小次郎が怪我をするくらいなら自分が死んだほうがマシだと思っているのです。


 だから、美土里は血反吐を吐くほどの辛い修行をしました。小次郎を失うかもしれない恐怖に比べれば、どんな辛いことも我慢できたのです。


「あいつらもしつこいな」

「ぶっ殺すし」

「えーっと、もしよければ生かして捕えたいんだけど」

「りょ。腕の五、六本斬り落とすくらいで勘弁するし」

「いや、それ、両腕がなくなるし。しかも複数回!」

「小次郎を殺しにきた奴をなんで生かすし」

「いい考えがあるんだ。生け捕りした奴にも、あいつらを送りつけてきた奴にも、それなりにお礼をしないといけないだろ」

「……りょ」

 小次郎もかなり怒っていました。

 最初の襲撃時、あの五人は明らかに美土里を拉致する気だったのです。

 美土里ほど感情に出していませんが、とても怒っているのは同じでした。


 ゴルリア・デ・ゼマード国の暗部の者らが潜んでいる場所を通っても、彼らは襲い掛かってきませんでした。

 どうやら、夜になってから襲撃をするつもりのようです。

 ただ、それを座して待つつもりは、小次郎にはありません。


 ―――指向性散布。


 小次郎が作った強力な薬が八人を眠らせます。仮に彼らが毒耐性を持っていたとしても、小次郎の薬に抗えるものではありません。

 最強種のファイアドラゴンでさえ、小次郎の薬の前では麻痺して動けなくなりました。人間が耐えるのはほぼ不可能に近いものなのです。


 倒れた八人を一カ所に集め、小次郎は彼らに赤黒い液体の薬を散布しました。散布といいますが、指向性散布は狙った場所に薬を転移させるようなものです。一滴も漏らさず彼らの体内に薬を散布することができました。


 八人に気つけ薬を嗅がせると、『うっ』とうめき声を出して目を覚まします。

「お前たちはゴルリア・デ・ゼマード国から送り込まれた暗殺者だろ?」

「「「………」」」

 彼らは喋りません。拷問を受けても口を割らない訓練を積んだ人たちなのです。


「俺、小次郎を殺せと命じられたんじゃないか」

「「「………」」」

 その時です。八人が急に痙攣を始めました。


「始まったか」

 目玉がグルんと回転し、藍色の瞳が白くなり、白い瞳が血色になり、そして藍色の瞳に戻っていきます。

 他の七人も同じように血色の目になってから、元の色に戻っていきました。


「それはどういうカラクリなの?」

「これは支配薬の効果だよ」

「支配薬……なんかすごく危なそうな名前なんだし」

「ああ、実際にかなり危ない薬なんだ。でも、大丈夫。俺と美土里には効果ないから」

「なんでだし?」

「これは俺の血液が素材として使われているんだ。だから俺には効かないし、俺の体液を毎日注ぎ込んでいる美土里には効果がないんだよ」

「体液……って、精子!?」

「いや、露骨な表現を避けたのに、なんで言うかな……」

「アハハハ。メンゴ、メンゴ」


 この支配薬は動物の脳に寄生するゾンビダケというキノコの一種と、小次郎の血液から作り出されたとても危険な薬です。

 薬材になったゾンビダケは、生き物なら人間でも魔物でも関係なく宿主とするキノコです。寄生された生き物は、同類だろうとなんだろうと関係なく喰らいます。ゾンビダケに栄養をもたらすために、生きとし生けるものを喰らい続けるのです。

 そんな危険なゾンビダケを小次郎は薬にしました。


「お前たちは誰に命じられて俺を殺しにきたんだ?」

「「「アイザック老師にございます」」」

 八人が淀みなく答えた相手は、国王ライドック四世ではなく彼の懐刀というべきアイザック老師でした。もっとも、彼の後ろに国王がいるのは小次郎も美土里も知っていることです。

 ライドック四世が関わってないという証拠にはなりません。


「アイザック老師に殺しを命じたのは、国王か?」

「「「その通りです」」」

 八人の声は、一糸乱れることなく揃っていました。


「お前たちにこの薬を与える。ゴルリア・デ・ゼマード国に帰って、ライドック四世とアイザック老師をこの毒で殺せ」

(俺が毒つきの短刀を腹にぶ刺されたんだから、あの国王にも毒の苦しみを味わってもらわないとな)


 二度ならずも三度も暗殺者が送られてきました。

 仏の顔も三度撫でれば腹立てるといいます。小次郎はここらで決着をつけたいと思うのでした。


「「「はっ!」」」

 毒の説明を聞いた八人は、小次郎たちの前から颯爽と消えていきました。

 さすがは訓練された暗部の者たちです。


「いっちゃったけど、いいの?」

「ああ、あいつらはもう生きて帰ってくることはないだろけど、あの国もかなりの被害を出すんじゃないかな。俺、これでも結構怒っているんだ」

(しつこい奴らに、堪忍袋の緒がきれた。自分たちは何をしてもいいと思い上がったヤツらに、やられる者の絶望感を味わわせてやる)


 怒っている小次郎でしたが、最近は襲撃されることがなくて、怒りが少し収まっていたのでした。せっかく鎮火しかけた火事に油をまかれた気分です。


「ざまぁだし」

「ああ、ざまぁだな」

 殺そうとするなら、殺される覚悟をしろ。と小次郎の瞳が暗い炎を燃やし、ゴルリア・デ・ゼマード国の王城がある方角を見つめるのでした。


 =・=・=・=・=・=・=・=・=

 氏 名 佐藤小次郎さとうこじろう

 称 号 巻き込まれた工員 性欲お化け ドラゴンスレイヤー 神薬師 マッドサイエンティスト

 クラス 薬師

 レベル 54


 生 産 Ex


 恩 恵 調剤Ex 薬師鑑定S 薬材感知S 指向性散布Ex 薬材採取S 薬効上昇Ex 神薬調合Ex 

 =・=・=・=・=・=・=・=・=


 =・=・=・=・=・=・=・=・=

 氏 名 星海美土里ほしみみどり

 称 号 異世界から召喚された英雄 ドラゴンスレイヤー

 クラス 水光すいこうの聖女

 レベル 58


 統 率 D

 武 勇 B

 慈 愛 S

 生 産 A


 属 性 火B 水A 風B 土S 聖S 光S 神S

 兵 科 衛生歩兵S

 恩 恵 詠唱破棄A 神聖上昇S 魔力操作Ex 攻撃威力上昇Ex

 =・=・=・=・=・=・=・=・=




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― 新着の感想 ―
 ゾンビダケのくだりを、丁寧語の「地」の文で書いておられると、なんか「じんわり」とエグさが染み渡ります。
ざまぁ が見れる!wktk
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