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第20話 最高の薬材が向こうからやってきた

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 第20話 最高の薬材が向こうからやってきた

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「あたしの結界が弱いばかりに、ごめんなさい……」

 美土里がしおらしく、小次郎に謝っております。

 今回の暗部の夜襲で何もできなかったことが、相当堪えているようです。


「美土里のせいじゃないよ。気にするな」

「でも……」

 小次郎はポーションを飲んだことで、腹部の傷口は塞がりました。


 あの時、短刀が腹部を貫いた時、小次郎は瞬時に止血剤を自分に指向性散布しました。

 さらに鎮痛剤も散布し、意識を保ったのです。

 さすがに痛みは完全に無効化できませんでしたが、鎮痛剤のおかげで我慢できる程度の痛みに抑えることができたのでした。


 恩恵・薬効上昇の効果で痛みを完全に無効化する鎮痛剤も作れるのですが、それをすると全身麻酔のように意識を失ってしまうのです。

 ですから鎮痛剤は、ある程度の効果に抑えているものと、全身麻酔のような意識がなくなるくらい強力なものの二種類を用意していましいた。


 ポーションは錬金術師の製造物のため指向性散布ができなかったのですが、飲めばいいので問題ありません。


 小次郎は意識を保ちつつ、暗部五人に猛毒を散布しました。この世界には恩恵という特殊な力があり、ただの毒は効かない可能性がありました。

 そこで小次郎は、自分が持っている毒の中で最も強力な毒を散布しました。

 おかげで暗部五人は毒に耐えられず倒れたのです。


「俺、人を殺したんだな……」

 焚火がパチリッと弾けました。

 そろそろ夜が明けますが、小次郎の心は晴れません。


「小次郎が五人を倒してくれたから、あたしはこうして無事でいられるし」

「……そうだな。俺は美土里を守るためなら、世界を相手に戦う」

「格好いいし」

「え……本当に、恰好いいと思う?」

「うん」

 美土里が小次郎にしなだれかかります。

 美土里は今回のことで痛感しました。自分は弱い、と。

 もっと強くなろうと、決意するには十分な出来事だったのです。


 今回、暗部の者たちは美土里の結界を破っているのですが、結界を破るアイテムを所持していたからです。決して美土里の結界が弱いわけではありません。

 そういったアイテムは誰でも手に入れられるものではないのですが、一国の暗部となればそういったアイテムを所持していてもおかしくないのです。






 二人は街道を逸れて山の中へと入り、そこで美土里が土魔法でドーム状の家を築きました。

 美土里は強くなるまで人里に降りないと強く言葉にしたのです。


「あたしがいるかぎり、小次郎に指一本触れさせない。そうなるまで、あたしは山に籠る!」

 美土里は魔物を狩り、たんぱく質を手に入れる他は魔法の訓練漬けの日々を送りました。


 小次郎も山には薬の素材がたくさんあるので、美土里を応援しつつ見守り、薬作りに精を出すのでした。


 二人が山に籠った日から十五日が経過したある日のことでした、暗部の者がドームを襲撃しました。

「待ってたし」

「「「っ!?」」」


 その瞬間、闇夜がまるで真昼のように、いえ、真昼よりも眩い光に包まれました。

 太陽より明るい光は、大地を焼きました。


「「「ギャァァァッ」」」

 もちろん、暗部の者たちも生きたまま焼かれたのです。

 本気になった美土里が、寝る間も惜しんで魔法を極めんとすれば、たった十五日でも見違えるほどの成長を遂げるのです。

 それが異世界から召喚された水光すいこうの魔女なのでした。


 その美土里が何よりも重要視したのが、魔力の感知能力です。

 美土里はどんな魔力でも感じることができるように、土の中でも、空の上でも、海の中でも、美土里に感じられない魔力はないというほどに魔力感知を突き詰めました。


 この世界には恩恵によって魔力を完全に隠す人がいます。

 さすがの美土里でも、高位の恩恵を持つ暗殺者を発見するのは簡単ではありません。


 ですが、世界は魔力で溢れています。

 個人が魔力を完全に消すことができたとしても、魔力の中を移動すれば魔力が動きます。

 どんなに微弱な魔力の動きでも、美土里は感じられるのです。


 暗部の者、総勢七名は骨さえ残らず消滅しました。

 どんなに巧妙に自分たちの魔力を隠蔽しても、美土里には彼らの位置が手に取るように分かるのです。

 彼らはその事実を知りません。それが、自分たちの死に繋がったと知ることもなく、地上から消滅したのです。


「派手にやったね」

「小次郎に指一本触れさせないって、言ったし」

「ああ、言っていたね。ありがとう、美土里」

 小次郎は美土里の頬に、感謝のキスをするのでした。




 さらに月日が流れたある日のことです。

 小次郎は木の実を集めて酒を造っていたのですが、その酒が熟成してアルコールを作っている匂いに満足をしていました。

「いい感じになってきたな。あと半年も熟成させれば飲めそうだ」


 召喚されるまでは、毎週末に両親と晩酌をするのが日課でした。

 ちょっといいお酒を、三人でチビチビ飲むのです。それがとても美味しく、家族の温かみを感じる時間でした。


 山の中では酒を手に入れることはできませんので、小次郎はそれなら自分で造ろうと思ったわけです。

 幸い、そういった知識は持っていました。そしてようやく発酵が進んだのです。


「早く美土里と飲みたいな~」

 その時でした、二人の愛の巣(土のドーム)に招かれざる客がやってきたのです。ただし、この客はどこかの国の暗部の者ではありません。


「Gyaooooooooo」

 美土里が作った土のドームが炎に包まれます。炎に包まれたドームの表面がドロドロと融けていきます。


「あっつ、熱いって! なんだよ、いきなり!? へ?」

 小次郎がドームから飛び出すと悪態をつきますが、次の瞬間目が点になりました。

 見上げれば、そこには巨大なシルエットがありました。太陽光を覆い尽くさんばかりの巨大な影です。


「ど、ドラゴン……?」

 そう、それは体長二十メートルはある巨大なドラゴンでした。真っ赤な鱗はまるで炎の化身のような威容であります。


「おお、真っ赤だ! 凄い! 本物のドラゴンだ!」

(異世界といったらドラゴンだよな!)


 テンションが上がる小次郎でしたが、ドラゴンには関係ないことです。

 そこで小次郎はハタと気づくのです。


「あ、俺の酒……」

 崩れ落ちるドームの中には、丹精込めて造った酒があったのです。


「ぬおおおおお! 俺の酒がっ! なんてことだぁ……せっかく発酵したというのに……あああ」

 小次郎は四つん這いになり、血の涙を流します。


 そんな小次郎を羽虫程度にしか思っていないドラゴンは、その巨大な顎を開きました。

 喉の奥からほむらがチリチリと迸ります。

 小次郎を焼き殺すのに、理由などありません。そこに鬱陶しい羽虫がいたから、殺すのです。


「Gy……」

「メタルバレット」

 ズガンッ。その太い首を貫く鋼鉄の弾丸、追撃とばかりに美土里の拳がドラゴンの巨大な顔面を殴ります。


「ボケッとしてないの!」

 魔物を狩るために少し離れた場所に出ていた美土里でしたが、ドラゴンの魔力を感じて急いで帰ってきたのでした。


「俺の酒が……」

「お酒はまた造ればいいし!」

美土里の声に小次郎は顔を上げます。涙と鼻水を垂らして酷い顔をしていると、美土里は苦笑しました。


「Gyaaaaaaaaaaaaaa」

 首を撃ち抜かれ、炎のブレスが不発に終わったドラゴンは長い尻尾を振り下ろして美土里を肉塊に変えようとしました。


「指向性散布! オノレは許さん!」

 恩恵・薬効上昇によって最高にまで効果が高くなった麻痺毒を体内に散布されたドラゴンは、鞭のようにしなっていた尻尾をフニャリと力なく垂らし、地面に落下いたします。


「ぶちかますし! ウォータースラッシュ乱れ撃ち!」

 スパンッスパンッスパンッスパンッスパンッ。


 同じ種の魔法ですが、同時に複数を発動させました。

 通常、このように複数の魔法を並列起動させることはできません。それを可能にする恩恵はありますが、美土里は多重魔法を持っていないのです。


 では、なぜこのような魔法の多重起動が可能なのか。

 それは、本来体内にある大きな一つの魔力から少しだけ取り出して魔法に換える行程を、美土里は小さな複数の魔力を取り出して魔法に換えているのです。


 美土里は恩恵に頼ることなく、多重魔法をものにしてしまったのです。これはこれまでのどんな魔法使いでもやったことがない高等技術なのでした。


 鱗にヒビが入ったドラゴンに、小次郎が親の仇を見るような目をして近づき、殴ります。殴って殴って殴りまくりますが、純粋な戦闘力は皆無でした。


「ふんっ」

 美土里が横に並び殴ると、巨大なドラゴンの体が吹き飛び、悲鳴をあげます。ドラゴンは憎らしげに美土里を睨みつけます。


「何見てんのよ!」

 美土里は目にも止まらない速さで、ドラゴンの目を殴って潰しました。


「俺の美土里を見るんじゃねぇっ!」

 小次郎の蹴りはドラゴンにとって蚊に刺されたほども効いておりません。

 ですが、美土里の攻撃は違います。殴られる度に明らかに生命力が削られていきます。


 まさか最強の竜種である自分が、こんな矮小な存在(人間)にいいようにされるはずがない。

 そう思ってももう遅いのです。ちょっと揶揄う程度の軽い気持ちで手を出したようですが、それがこのドラゴンの運の尽きであったのです。


「はぁっ!」

 美土里がガツンッと拳を打ちつけると、鋼鉄よりも硬いドラゴンの鱗が魚の鱗のように飛び散るのでした。


 魔力を体内に循環させることで、常人をはるかに超える屈強な肉体を手に入れることが可能です。

 ただ、美土里の武勇は『B』であり、通常はドラゴンと肉弾戦ができるものではありません。


 美土里は体内を循環させる魔力に、自分が持つ癒しの力を込めることで、通常の五倍以上の強化に成功したのでした。

 それが武勇が『B』でも拳でドラゴンの屈強な鱗を破壊するのです。


「これで終わりだし!」

 手刀が淡い緑色に光ります。風の力を纏わせたのです。それはドラゴンの太い首をいとも簡単に斬り落としました。


 あの日以来、美土里は甘さを捨てました。敵には慈悲などありません。

 感情を動かすことなく、無慈悲にその生命を奪い取るのです。


 ドラゴンの目は光りを失い、頭部が無造作に転がりました。

 その光景を見た小次郎の目がキラキラ光ります。


「すっげー! さすがは美土里だ! これ、ドラゴンだよな、ムカつくけど、かっけー!」

 小次郎はドラゴンの死体をペタペタ触って、薬材採取によって薬の素材になる部位を採取するのでした。


「ドラゴンの血は色々な薬に使えるんだ。美土里、本当にありがとう!」

 酒の恨みは忘れないのですが、素材たからの山が目の前に転がっているのです。歓喜するなというのは無理でしょう。


「小次郎がここまで喜ぶなんて、なんか嬉しいし」

「ドラゴンは鱗の一枚まで全てよい素材になるんだ。これが喜ばずにいられるわけないよ。美土里~。大好きだよ~」

 小次郎は美土里に抱きついてチュッチュッと何度もキスするのでした。



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 竜が、イチャイチャするための小道具に成り果てている……
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