第2話 戻る方法はない
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第2話 戻る方法はない
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英雄と呼ばれた高校生たち四人と、小次郎は別室に案内されました。
怪しさ満載のアイザック老師ですが、五人に選択肢はありません。
年長者として高校生を励まさなければいけなのでしょうが、小次郎にそんなコミュニケーション能力はありません。元引きこもりの工員にそんなことを期待されても困るところです。
晩餐会の会場のような豪華で広い部屋、長さ十メートルはあるテーブル、無駄なスペースが多いと小次郎は口を開けて部屋の中を見回しました。
「よくきた、英雄らよ」
テーブルの先、俗にお誕生席と言われる場所に、でっぷりと太った人物が座っております。小次郎にはまるでガマガエルが王冠を被っているように見えました。
「王様かよ……」
男子高生の一人、細身の方の少年が呟きます。王冠を被っているのですから、王なのだと思われますが、威圧感はありません。王の威厳というものはまったく感じません。
「まずは座るがよい」
鷹揚な所作は妙に演出がかっているように、小次郎には見えました。
「余はこのゴルリア・デ・ゼマードの王、ライドック四世である」
その太い体から発せられる声は、妙に低く聞き取りづらいものでした。
「我らはこの大陸を統一する。我がゆく道は覇道なり。よって、強力な戦力を欲しておる」
話の入りはアイザック老師と同じでありました。ライドック四世の話は続き、内容としてはこうであります。
ゴルリア・デ・ゼマードはデルテント大陸の北部を治めている国です。
デルテント大陸には全部で九カ国があり、ゴルリア・デ・ゼマードはこれらの国を打倒し、大陸を統一するという野望をかたります。
また、戦乱が長く続いて民が疲弊していることから、ライドック四世が乱世を武によって統一するというのです。
「あの、質問をいいですか」
「構わぬ。なんだ?」
高校生は四人召喚され、その内訳はこうです。
四人のリーダー的ポジションで身長百八十二センチメートルの優男の青風統牙。
身長百九十七センチメートルで筋肉の鎧を身に纏っているようなゴリマッチョが赤尾雷斗。
黒髪ストレートロングで清楚な見た目の上黄理央。
小次郎を介抱してくれた茶髪厚化粧のギャル高生、星海美土里。
今回質問したのは、リーダー格の統牙であります。
「僕たちは元の世界に戻ることができますか?」
「無理だ。召喚の術式は一方通行である。召喚ことはできても、送還ことはできぬ」
ピシャリ。そんな擬音が聞こえてきそうなくらい、きっぱりと否定されました。そのことに、統牙も小次郎も他の三人も顔を顰めるのでした。
「僕たち四人は高校生です。平和な国で暮らしてきて、戦争なんて経験したこともありません。ですから、戦う力なんてありません」
「召喚時、そなたらには戦う力が与えられたはずだ。召喚とはそういうものであると聞いておる。丁度力の話になった。これからそなたらの力を確認するとしょう」
国王が左手を挙げると、控えていた者らが動き出します。
統牙ら五人の前に、白銀に輝くトレーディングカード大の金属板が置かれます。
「それはライフカードというもので、血を一滴垂らせばそなたらの能力が分かる」
ネット小説やライトノベルなどでこういった物語を読んでいた小次郎は、「ステータスカードか」と呟くのですが、その声は誰にも聞こえない小さなものでした。
針を渡された小次郎は、痛いのが嫌だなと顔を歪めます。
「へー、面白そうじゃん」
大柄の雷斗は豪快な性格のようで、躊躇することなく針で指を刺してライフカードに血を擦りつけるました。
そのライフカードが一瞬眩い光りを発し、収まると文字が浮かびあがるのでした。
「お、おい、大丈夫か?」
「へーき、へーき」
雷斗はライフカードを持ち上げて、浮かび上がった文字に目を通しました。
見慣れない文字ですが、不思議と読めてしまいます。
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氏 名 赤尾雷斗
称 号 異世界から召喚された英雄
クラス 重聖の戦士
レベル 1
統 率 B
武 勇 S
野 心 D
兵 科 重装歩兵S 重装騎兵B
恩 恵 重撃S 大得物A
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「ほう、素晴らしい能力だ。そなたらも早く血を垂らすがいい」
他の四人も血を垂らせと、国王が命じると兵士がにじり寄って圧をかけます。
アイザック老師曰く、能力は統率・武勇・魔導・知略・慈愛・生産・野心などの項目があるそうです。
属性は火・水・風・土などを始め、光や闇など多種多様になるらしいとのこと。
兵科の適正は兵を率いた際の精強度を示します。
最後に恩恵は得意な技能だと思えばいいようです。
これらの項目は、全て最上がS、そして順にA・B・C・D・Eと評価されています。ただし、Eよりも低い評価は表記されないとも仰っております。
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氏 名 青風統牙
称 号 異世界から召喚された英雄
クラス 光魔の剣士
レベル 1
統 率 S
武 勇 A
知 略 A
野 心 A
属 性 火A 光A
兵 科 軽装歩兵A 弓歩兵A 騎兵A
恩 恵 魔法剣刀術A 加速A
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氏 名 上黄理央
称 号 異世界から召喚された英雄
クラス 炎闇の魔導師
レベル 1
武 勇 S
知 略 B
野 心 S
属 性 火S 水A 風A 土A 闇S 光A 重力A
兵 科 軽装魔法兵S
恩 恵 詠唱破棄S 多重魔法A
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氏 名 星海美土里
称 号 異世界から召喚された英雄
クラス 水光の聖女
レベル 1
統 率 D
武 勇 B
慈 愛 S
生 産 A
属 性 火B 水S 風B 土A 聖S 光S 神S
兵 科 衛生歩兵S
恩 恵 詠唱破棄A 神聖上昇S
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高校生らの能力は素晴らしいものでした。ライドック四世は四人を誉めそやします。
「さあ、そなたも早くライフカードを見せるがいい!」
小次郎は自分のライフカードをジッと見つめ、汗をダラダラ流しています。
「どうした? 早く見せよ」
兵士が小次郎のライフカードをひったくるように取り上げました。
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氏 名 佐藤小次郎
称 号 巻き込まれた工員
クラス 薬師
レベル 1
生 産 Ex
恩 恵 調剤Ex
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「なんだ、これは!?」
小次郎のライフカードを確認したライドック四世は、怒号のような声を発しました。その声が空気を伝い、小次郎たちの鼓膜を不快な振動が襲います。
「クラスが薬師だと? これは一般的なクラスではないか!? しかも能力は生産しかなく、恩恵も調剤しかない。しかも共に『《《E》》』と大して高くないだと!?」
ライドック四世は吐き捨てるように言います。
(それ、『E』じゃなく『Ex』なんだけど……)
引きこもっていた当時、ゲームをやり込み、ネット小説を読みふけった小次郎には、『Ex』の意味が理解できていました。
しかし、この世界の常識しか持っていないライドック四世は、『Ex』は『E』が少し良い程度にしか捉えなかったのです。
「ほうほう。どうやらあの者はトウガ殿ら四人の召喚に巻き込まれたようですな」
皆の視線が小次郎に突き刺さります。いたたまれません。
「コジロー殿に戦う力はなさそうですな」
「あ、あの……俺はどうなるのでしょうか?」
ライドック四世のあの目は昔小次郎を虐めていた生徒たちの目に似ている。小次郎を蔑み、まるでゴキブリでも見るような目なのです。
小次郎はやっと人を怖がらずに平穏に暮らせると思っていたのに、またあの地獄のような日々が訪れるのかと戦々恐々とするのでした。
「ふんっ。召喚したのは我らだ。一週間は面倒を見てやる。その間にこの世界のことを学ぶがいい」
一週間後には追放だ。と言外に示唆するライドック四世でした。それでもいきなり追放されたり、殺されたりするよりはマシでした。
小次郎もそのことに思い至っており、その一週間で今後のことを考えるしかないかと思うのでした。