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第19話 襲撃

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 第19話 襲撃

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 シャイアーはメトロンの町で小次郎が職人組合に卸した帯下おりものの安定・鎮静薬の話を持ってきたのでした。

「どうか、薬のレシピを公開していただけないでしょうか」

「その話はメトロンからですよね」

「はい。メトロンから新薬が届き、当組合でも確認しましたが、とてもいい商品だと判断しました」

「メトロンで、あれはたまたまできた薬だと言いましたが、それは聞いてますか?」

「……いえ、初耳です」

「意図して作ったものではないですし、同じものを作ることもできません。ですから、レシピの公開はできないのです」

「そ、そんな!?」

(そんな、と言われても……なんで情報共有できてないのさ?)


「申しわけありませんが、シャイアーさんの依頼にはお応えできません。お帰りください」

(そもそもレシピ公開の条件の提示もないのに、なんで公開しないといけないのかな。あまりがめついことを言うつもりないけど、なにも提示せずにレシピだけ公開しろだなんて、私腹を肥やそうとしているようにしか思えないんだよね)


 シャイアーはなかなか引き下がりませんでしたが、手順が違うことに気づかない彼女が悪いのです。

 それというのも、シャイアーはすでにメトロンの副組合長が新薬開発者の権利などを教えていると思い込んでいたのです。

 何度も同じことを言う必要はないと、勝手な思い込みが小次郎の不信感をマックスまで上げてしまったのでした。




「なんか疲れたな」

「しつこかったし、あの人」

 そのしつこさが、小次郎にとっていい感情になるわけがありません。

 一方的に他者のものを奪おうとするようにしか見えないのです。


「出発、どうする?」

「またこられても鬱陶しいから、出発しようか。すぐに夜だから野営するけど、いい?」

「構わないし」

 二人はリバンズを出て街道を歩きました。

 一時間もすると、夕方になって野営の場所を探します。


 リバンズに近い場所だけあって、過去に野営された跡はありません。二人は街道から少し逸れた場所で野営することにしました。


「結界張るし」

「よろしく」

 美土里が瞬時に強固な結界を張ります。ちょっとやそっとでは破壊されない結界です。

 これがあるから、夜でも見張りをせずにぐっすり眠れるのです。


 土魔法でちょっとした竈を作るのも美土里です。

 焚火用の枯れ枝などを拾うのは面倒なので、町で買っておいた薪に火を点けます。


 食事は小次郎が作ります。これまでも食事は小次郎が作っていました。

 美土里は家事全般が苦手ですから、小次郎がやっています。

 適材適所だと、小次郎は思っているのです。


「いつもありがとうだし」

「何を言ってるの、美土里がいるから結界の中で寝られるし、こうやってどこでも竈を作ってもらえるし、火も水も出してもらえるんだから助かっているのは俺のほうだよ」


 その夜のことです。結界が破壊される音に、小次郎と美土里は飛び起きました。

「な、なんだ!?」

「何っ!?」


 焚火の淡い光に照らされた範囲には、特に何も見当たりません。

 ですが、美土里の結界を破壊するほどの、脅威がすぐそばにいるのは間違いないことなのです。


 寝起きですが、そのことに気づかない二人ではありません。

 闇が蠢きます。二人は警戒した瞬間、何かが煌めきました。

「ぐはっ……え、これ……」

 小次郎の腹部に短刀が刺さっています。投擲されたものでした。


「小次郎!?」

「み……ど……り……」

 小次郎はその場に倒れました。

(ああ……俺、このまま死んじゃうのかな……)

 体が痺れていきます。どうやら短刀には毒が塗られていたようです。


「小次郎。今、回復あが……」

 どさりと美土里が倒れ込みました。意識がないようですが、外傷はないようです。


「まったく、手を焼かせやがって」

「まったくだ。リバンズくんだりまでやってくることになったからな」

「我らの追撃を躱すために山越えしたようだが、我らの追跡能力を舐めていたようだな」

 黒装束の者が五人、闇の中から現れました。

 彼らは言うまでもなく、ゴルリア・デ・ゼマード国の暗部の者です。


 小次郎と美土里はゴルリア・デ・ゼマード国の追手を警戒していました。

 ですが、二人は暗部に対する専門家ではありません。暗部ともなれば、結界魔法を破壊する手段の一つや二つくらい持っているものです。

 それに、夜の奇襲は得意中の得意。今の二人にそれを防ぐ力はなかったのでした。


「女はしばらく寝かせておけ、生きてあの方に引き渡す必要があるからな。男は……もはや死の間際か。とどめを刺せ」

 リーダー格の男に命令を受けた一人が、倒れている小次郎に剣を向けます。


「無能な薬師が女連れとはな。散々楽しんだのだろ、この野郎」

 小次郎を蹴ります。どうやらこの男は、モテる男に恨みがあるようです。


「おい、早く殺せ」

「へーい……」

 ドサッ。小次郎を蹴った男が倒れました。


「おい、どうした!?」

 残りの四人が警戒しますが、次の瞬間四人とも倒れてしまいました。いったい何が起きているのか。


「ど、毒か……」

 かろうじて意識を保っている一人はリーダー格の男でした。

 リーダーがそう呟くと小次郎が上半身を起こしました。

「なぜ……起きられる……」

「薬師に毒を使うなんて、愚の骨頂。確実に殺るなら、ここですよ。ここに最初の一撃を当てるべきでしたね」

 小次郎は自分の心臓がある胸の上を指差します。


「莫迦な……その毒は……解毒剤などない……」

「解毒剤がない毒なんですか。怖いですね」

 小次郎は短刀の柄を持ち、意を決して引き抜いた。


「いっっっっってぇぇぇぇぇっ!」

 血がドバッと……出ません。男はどういうことだと、薄れゆく意識を集中させます。


「警告も何もないのですね。はぁ、まったく……。碌な国じゃないとは思っていましたが、考えていた以上にクズの集まりだったようです」

 小次郎は丁寧な言葉遣いですが、その内心では怒りの炎が燃え盛っていました。


「どう……なって……いる?」

 男はそこで意識を手放し、二度と起き上がることはありませんでした。


「薬師舐めんな、この野郎」

 小次郎は蹴られたお返しをしました。死体に鞭打つようですが、生きていたら蹴ることはできませんので、そこは見なかったことにしてほしいところです。


 また、初めて人を殺しましたが、腹部の痛みが酷くそれどころではありません。


「いつつ……おい、美土里。大丈夫か」

 小次郎の傷口はまだ塞がっていません。それでも血はほとんど出ていない奇怪な状況です。

 小次郎は腹部を押え、歪む顔で美土里の胸に耳を当て、生きているのを確認します。


「よかった。生きていてくれて、本当に良かったよ」

 思わず泣き出すくらい、美土里の無事を喜びます。

 小次郎は自分が死ぬことになっても、美土里には死んでほしくない。そんな思いから、涙が溢れ出てくるのです。


「しかし、追手が莫迦でよかった。薬師の俺が自力で色々な毒に効く解毒剤を作っているなんて思わなかったようだな」

 毒が作れるということは、解毒剤も作れるということなのです。


 魔物を狩ったり、調剤を繰り返した小次郎は、薬師のレベルが上がっているのでした。

 レベルが上がると、恩恵を覚えることがあります。小次郎はたまたまですが、リバンズ滞在中にいい恩恵を得ていたのでした。


 =・=・=・=・=・=・=・=・=

 氏 名 佐藤小次郎さとうこじろう

 称 号 巻き込まれた工員 性欲お化け

 クラス 薬師

 レベル 31


 生 産 Ex


 恩 恵 調剤Ex 薬師鑑定S 薬材感知S 指向性散布Ex 薬材採取S 薬効上昇Ex

 =・=・=・=・=・=・=・=・=


 薬師がレベル三十になった際に覚えた、恩恵・薬効上昇は調剤と並ぶ『Ex』です。

 その効果はある毒の解毒剤を調剤すると、どんな毒にも効く解毒剤になるくらいのぶっ壊れた恩恵なのです。



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