第18話 リバンズ逗留
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第18話 リバンズ逗留
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リバンズに逗留して十二日。こんなに逗留する予定ではなかったのですが、大型の魔物が現れたことで街道が封鎖されてしまい、通行できないのです。
道なき道を突っ切ることも考えましたが、リバンズは観光都市でもあります。小次郎は薬の調剤をしつつ、三日に一回は美土里と出かけてデートを楽しみました。
共産国ですが、中央からかなり離れていることと、三カ国の国境近くということで、共産党の支配力はあまり強くないようです。
船に乗ってデート観光したり、ウィンドウショッピングをしたり、薬師関連、魔物関連、魔法関連の書籍を扱っているような店を回ったり、二人はかなり楽しんでいます。
書籍を数冊手にいれることができたホクホク顔の小次郎ですが、『サリュード薬師大全集(全五巻)』はさすがに高額で手が出ませんでした。
しかもこのリバンズでの価格は八十万チャルで、これでも安いほうだと店主が言っておりました。
他の都市だと最低でも百万チャルはみないといけないらしいのです。
「『サリュード薬師大全集(全五巻)』は高いな……」
「百万なんてすぐ貯まるし」
小次郎も美土里も結構な高給取りであります。旅をするとそれなりに出費が多いのですが、どこかに落ちつき、数カ月真面目に働けば、百万チャルくらいは簡単に貯まるでしょう。
そんなことを話し合っていると、十四日目に大型の魔物の討伐がされ、街道封鎖が解除されたと聞きました。
「何はともあれ、エルバーニュ国に向かおうか」
「りょ」
明日リバンズを発つことにした二人は宿に戻って、熱い夜を過ごすのでした。
昨夜の情事が激しくて美土里は足腰が立ちません。
これはいつものことで、毎回自分で回復魔法をかけて立ち上がるのです。
「お腹減ったし」
「うぅぅん……美土里、おはよう」
「うん。おはよう」
その美土里はそこではたと気づきました。顔をペタペタ触り、にんまりと頬を緩めます。
「お肌がツベツベだし」
「どれどれ……お、本当だ。瑞々しいな」
美土里の頬をツンツンと触り、小次郎がグッジョブと親指を立てます。
「フフフ。小次郎のクリームのおかげだし。ありがとう!」
裸のまま抱きつくものだから、胸の柔らかさと美土里の匂いに小次郎の息子が反応します。
一戦、いえ、二戦はしないと収まらないと、小次郎は美土里を押し倒しました。
「ちょ、もう朝だし」
「朝でもどこでも、俺は美土里を食べちゃうのだー」
「性欲お化け!」
「呼ばれて突っ込んでジャジャジャジャーン!」
「あうっ!?」
結局、三戦した小次郎は、また美土里を気絶させてしまいました。
「性欲お化けのせいでもう昼だし」
「お、おう……ごめん」
回復魔法と生活魔法のクリーンを自分にかけた美土里は、服を着込みます。
その着替えの光景をニタニタして見ている小次郎に、美土里は冷たい視線を向けます。
「あの、美土里さん……」
「何」
今の美土里は声も冷たいです。
「俺にもクリーンを」
「自分でなんとかするし」
「あの、俺、魔法、使えない、ので」
「だからなんだし」
「うぅぅ。美土里さん。許してください。この通りです」
素っ裸で見事な土下座をする小次郎に、男のプライドなどありません。
そんなものは虐められて引きこもった時にどこかに置いて逃げ帰りました。
「はぁぁぁ」
美土里は大きなため息を吐いて、クリーンをかけてあげます。
「ありがとうございます。美土里さん!」
「『さん』づけで呼ぶなし」
「はい!」
そそくさと着替えた小次郎でしたが、その服に穴が開いていました。美土里がそれを見つけて縫うと言い出したのでしたが、手つきがおぼつきません。
「あたし、裁縫は苦手だし」
(グヌヌと言いつつ、なんとか穴を縫おうとする美土里の愛おしさよ)
穴を縫おうとする美土里が可愛らしいと、抱きついてしまします。
「縫えないし、離れるし」
「大丈夫。こういうのは、俺ができるから」
美土里から服と針をもらうと、チクチクと縫います。手慣れているのが分かるものです。
「小次郎、なんでできるし!?」
「独り身が長いですからね」
四十歳独身。両親にできるだけ迷惑をかけないように、自分でできることは自分でやっていました。
仕事が休みの日は料理も掃除も洗濯もやっていました。
その他、出来る限り両親や兄姉に迷惑をかけないようにしていたのです。
ですから、裁縫も身につけました。ボタンづけから始まり、服を一から縫えるくらいに裁縫ができるようになったのです。
「二十ちょっとでしょ!」
「四十ですが?」
「嘘言うなし!」
「実は召喚されて若返ったのです。四十の中年オッサンでごめん」
「本当に四十なの?」
「今まで言えなくてごめん」
小次郎は本当に申しわけない表情で、美土里に頭を下げました。
「俺、四十歳、未婚、彼女いない歴イコール年齢の冴えないオッサンです。やっぱり、嫌いになったよね……」
小次郎が恐る恐る見上げると、美土里が拳骨を落としました。
「い、痛いです」
「あたしが小次郎を嫌いになるわけないし」
「本当に!?」
「あたしが好きなのは、今の小次郎なの。元四十オッサンでも構わないし」
「美土里……俺も大好き!」
二人は抱き合い、愛を確かめ合います。
ここで小次郎がその気になるのですが、美土里にぶっ飛ばされました。
「性欲お化け、いい加減にしろ!」
「はい、すみませんでした!」
そんなコントのようなことをしたのですが、服の穴はちゃんと縫われて塞がりました。
「出来ないことを無理にしなくてもいいよ。俺に出来ることは俺がやるから」
「あ、ありがとう……」
宿をチェックアウトするために、部屋の中に忘れ物がないか見渡していると、ドアがノックされました。
ドアを開けると、宿のスタッフが立っておりました。
「コジロー様を訪ねて、お客様がお越しになっております」
「俺に客?」
このリバンズに知り合いなどおりません。それどころか、この世界に知り合いらしい知り合いはおりません。なのに客とはどういうことかと。
「どちら様です?」
「統括ギルドの方だと仰っておいでです」
「ギルドの?」
とりあえず会うことにし、ロビーへと下りていきます。どうせチェックアウトするので、美土里も一緒です。
ロビーはまったく見たことない女性が待っていました。女性の年齢は二十五歳ほどでしょうか、金髪碧眼でかなりの美形です。
綺麗な女性の訪問とあって、美土里の機嫌があからさまに悪くなり、女性に見せつけるように小次郎の腕に絡みつきます。
(きゅ、急にどうしたの?)
小次郎たちの姿を見ると、女性は深々と頭を下げました。
「俺が小次郎です」
「《《妻の》》美土里」
美土里は『妻の』を強調しました。嫉妬心から、彼女を警戒しているのです。
「わたくしは統括ギルド・職人組合の職員で、シャイアーと申します」
立ち話もなんなので、座って話をすることになります。
「職人組合の人が、どういった御用でしょうか」
「実は……」
シャイアーは前振りなしに、本題に入るのでした。