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第17話 水の都リバンズ

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 第17話 水の都リバンズ

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 メトロンの町から四日後、小次郎と美土里はリバンズという湖の畔にある都市に到着しました。

 このリバンズは水の都と言われることからも分かるように、豊富な水源によって栄えている都市です。

 人口は十万人以上であり、リッシュ共和国の北部一、国内でも有数の大都市になります。

 そしてエルバーニュ国との交易の拠点にもなっている都市であります。


 リバンズに入る直前、草原で軍が訓練を行っておりました。リバンズには国軍の拠点があり、軍人やその家族が多く住む都市でもあるのです。

 エルバーニュ国との国境にも近いのですが、ゴルリア・デ・ゼマード国とも近いため、どうしても戦力を配置する必要があるのでした。


「へー、結構ハードな訓練をしているね」

 軍人たちはフル装備で三十キログラムの重りを担いでいます。

 鎧が金属で、それだけでも数十キログラムはあるのに、さらに三十キログラムなのですからかなりハードですね。


「たしか自衛隊も三十キログラムの荷物を背負って、四日間で百キロメートルを走破する訓練があったはずだから、そういった現代でもやっていそうな訓練を行っているんだね」

「あの国では、そんな訓練なかったし」

「それは一週間しかいなかったからじゃないかな。もしかしたら、今頃統牙君たちがやっているかも」

「最悪だしー」

(俺もさすがにあんな訓練はしたくないよ)


 フル装備で兜まで被っているため、顔を窺うことはできません。

 それでも訓練のキツさが伝わってくる息遣いや疲れからくる悲鳴のような声が聞こえます。

「しかし、軍の訓練をこんな人目につくところでやるんだね」

 小次郎は訓練を眺めながら、なんでだろうと首を傾げるのでした。


 これはこの国の軍が精強だと国内外に見せつけるための、言わばデモンストレーションです。

 これだけの訓練をしていると見せつけ、敵国からは恐れられ、国民には安心感を覚えさせるのです。






 リバンズは大都市なだけあり、中心街は多くの人で賑わっておりました。まだ早い時間もあり、二人は買い物ついでに観光としゃれこむことにしたのです。


 小次郎と美土里は食料を買い込み、服や装飾品などを見て回り、さらに家具を見ていくつか購入しました。


 宿ではいつものように激しく燃え上がる二人でしたが、最近は美土里が部屋の中に結界を張って外に声が漏れないようにしています。

 二人の夜の声はかなり激しいため他の客への配慮もありますが、恥ずかしいというのが大きな要因ですね。


 リバンズの二日目は、薬の調剤に励みます。その横では美土里がミズールヒルを乾燥させています。

 ミズールヒルを天井から吊るし、そこにそよ風程度の強さの風を当て続けるだけなのですが、魔法を発動させたまま持続させるのはなかなか難しいようです。


「バーンッと発動させる魔法のほうが簡単だなんて、思ってもいなかったし」

「安定させ、維持させるのは難しいのかもね。いい訓練になるんじゃない?」

「そうね。でも、退屈は好きじゃないし」

 二人だから談笑しながらで、退屈も薄れるようです。


 滞在三日目に統括ギルドに向かうと、喧騒に包まれていました。

 都会の統括ギルドともなると、こんなものなのかと思った小次郎でしたが、ピリピリした空気を感じ嫌な予感がしました。


 すでに受付カウンターの列に並んでいますが、ここで立ち去るかどうかを考えていると、こういう時に限って順番が回ってくるのでした。


「薬の買い取りをお願いします」

「薬師の方ですか!?」

「え? あ、はい。薬師です……?」

 受付の職員が目の色を変えたことに、嫌な予感がマックスになる小次郎でした。


「組合証と薬をご提示ください」

 ここで止めますとは言えない雰囲気です。

 小次郎がライフカード兼組合証を提示し、薬の小瓶をカウンターに置いていきます。

 止瀉薬ししゃやく、解熱剤、鎮痛剤と基本の三薬品です。


「五級薬師の方でしたか……」

 五級の組合証を見た職員がガッカリとしています。面倒事は歓迎しませんが、こんな態度を取られる覚えはありません。

 小次郎は表情を少しムッとさせます。


「何かあったのですか?」

「リバンズの近くに大型の魔物が現れました。現在、その討伐隊が組織されています。その対応として造血剤の買取強化を行っているのです」

「ああ、なるほど……」

 造血剤は中級レシピに相当し、五級薬師が作れるものではないと考えられております。

 そのため、小次郎が五級と知ってガッカリするのは仕方がないのですが、それを顔に出すのは職員として未熟と言うしかないでしょう。


「査定をさせていただきます」

 職員から番号札をもらって待ちます。その間、ロビーの中の噂話などに耳を傾け、討伐隊の情報を集めます。

 それによれば、リバンズの北東側にある山に大型の魔物が複数確認されたようです。

 ハンター組合は三級以上のハンターに緊急依頼を出し、冒険者組合も冒険者を集めているようです。


 他にも職人組合ではポーションや造血剤を集めており、三級以上の薬師には緊急依頼が発令されているのでした。

 今回は少数精鋭によって大型の魔物を討伐する作戦らしく、薬も良いものが欲しいということで、あえて三級以上の薬師が対象になっているのでした。


 小次郎の番号が呼ばれ、カウンターでお金を受け取る際に確認します。

「軍は動かないのですか?」

「魔物の対応は基本的にハンター組合に任せられております。今回は冒険者も動員されますし、軍も最終防衛ラインを構築しております」

 軍が活発に動くと、ゴルリア・デ・ゼマード国だけでなく友好国のエルバーニュ国に不信感を与えかねないのです。

 ですから、軍が動くのは最後の手段になってしまうのでした。

 これは高度に政治的判断が求められることのため、簡単なことではないのです。

 それもで軍は一部隊を最終防衛ラインに配置する決定を下しております。

 大規模な部隊は動かせないのですが、訓練と称して一部隊を動かすのでした。


 エルバーニュ国も国境近くに軍を配備しております。もちろんゴルリア・デ・ゼマード国への備えという名目です。

 リッシュ共和国とエルバーニュ国間では、ゴルリア・デ・ゼマード国のことだけでなく魔物の情報も共有されているため、大規模な軍事行動でなければお互いに過剰に反応はしないのでした。


 宿に戻った小次郎を、美土里が迎えてくれました。

 彼女は今日も朝からミズールヒルの乾燥作業を行っておりました。

 お肌の薬のためなら、労力を厭わないようです。

 女性にとっては大事なことなのだと、小次郎は美土里の気合の入り具合に引くくらいです。


「なんでも大型の魔物が確認されたらしく、統括ギルドの中はかなりピリピリしていたよ」

「そうなんだ~」

 美土里は興味ないといった声色です。今は魔物よりもミズールヒルの乾燥が第一優先事項ということですね。


「いい感じに乾燥したね」

「本当に!?」

「うん。本当だよ。これなら調剤可能だよ」

「すぐ作るし! 早く作るし!」

「はいはい」

 小次郎は統括ギルドからの帰りに購入した器具を使い、肌荒れに効く薬を調剤しました。

 その間、美土里が瞬きもせずに監視していたため、少しだけ恐怖を感じるのでした。


「できたよ。これを塗って寝ると肌に効くから」

「ありがとう!」

 青白いクリームが入った小瓶を美土里に渡すと、小次郎に抱きつきます。

 最近、肌のかさつきを感じていた美土里は、この日から毎晩このクリームを塗って寝るのでした。



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